第15話 お姉ちゃん特権
ここで凪は、今日サクラの神社で起こったことを皆に説明したが、さすがの神職というべきか、朔太郎も初音もすぐに事情を飲み込んで理解してくれた。それどころかサクラともすっかり打ち解けてしまい、その順応性に驚く凪である。特に朔太郎などは、姿も見えないのに初音を介して器用にやりとりをこなすコミュニケーション能力の高さだ。
そんな中、月音だけがむす~っと頬を膨らましている。
「お姉ちゃんは反対だもん。二人きりで御朱印巡りの旅だなんて、絶対反対だもん!」
「いやいや月姉、もう少し話を聞いてくれ」
「嫌です。『お姉ちゃん特権』を使います。断固却下です!」
頑なな態度を崩さず、ついには耳を塞いでしまう月音に呆然とする凪。普段、凪に対しては誰よりも甘い月音だから、彼女がここまで頑固になるのは大変珍しいことだった。
サクラが慌てて詰め寄り、月音の手を引っ張った。
「え~! お、おねがいツキネ! サクラ、ナギのためにがんばりたいのっ! だから一緒に行くのをゆるしてくださ~い!」
「サクラ様がなんと言おうとダメです。お姉ちゃん許可しません!」
「月姉、少し落ち着いてくれって。どうしてそこまで反対するんだよ。今までずっと、俺のことをあんなに応援してくれたのにさ」
凪が尋ねると、月音は耳から手を離し、声のトーンを少しだけ落として答える。
「……今までは、地元だったからよかったよ? だけど、知らない土地で何が起こるかわからないもん。凪ちゃんにも神様が視えるようになった以上、そっちの世界の問題だって降りかかってくるかもしれないんだよ。凪ちゃん、そういうことまで考えてる?」
「あ……」
その言葉に、凪は何も返せなかった。
「凪ちゃんのことは応援したいよ。凪ちゃんのためなら、お姉ちゃんはどんなことでもするよ。力になってあげるよ。プロポーズもすぐOKだよ! でも……その旅はどれくらい長くなるの? 旅費は? 学校は? 凪ちゃんの将来にどれだけ影響があるの? そんな危ないことさせられない。私は、凪ちゃんのご両親と汐ちゃんから、凪ちゃんのことを任されてるの。お姉ちゃんとして、凪ちゃんを守っていく使命があるの。『お姉ちゃん特権』があるの。それだけは、絶対に譲れない! たとえ……凪ちゃんに嫌われてもっ!」
ハッキリと宣言する月音。潤んだ瞳には強い決意が宿っている。
凪は、改めて思い知らされた。
常々彼女のことを過保護な従姉妹だと思ってきたが、それは、彼女が誰よりも自分を想ってくれているからに他ならない。普段はあんなにもだだ甘な彼女がここまで厳しいことを言うのは、凪のためを想っているからだ
「……ありがとね、月姉。でもごめん。やっぱり俺、行きたいんだ」
「……そんなに、そんなに思い出の女の子に、会いたいの?」
「うん。俺はあの子のおかげで変われた。あの子に出会えたから、こうやって月姉たちと一緒にいられるんだ。だから、『約束』を守りたい」
凪は、誠実な月音に対して自分も誠実であろうと思っていた。ただ、それで月音の気持ちを蔑ろにすることは嫌だった。なんとしても彼女を説得したい。
「危ないことをするつもりはないし、月姉たちに心配をかけないようにする。週末とか夏休みなんかを利用して行くから、もちろん学校もちゃんと通うし、旅以外のこともちゃんとするよ。だからお願いだ。月姉が認めてくれないなら、俺は行けない」
「……」
「月姉。どうしたら許してくれる?」
月音は、何も問答無用に却下しているわけではないはずだった。彼女が認めてくれる条件下で旅が行えるならそれが一番良い。いや、そうでなくては旅は出来ない。月音を説得することは必須条件。凪はそう思った。だからどんな条件でも呑むつもりでいた。
すると月音はしばらく黙り込んだ後で、上目遣いに凪を見つめて口を開く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます