第14話 緊急家族会議

 そして、月乃宮家での緊急家族会議がスタート。

 裁判所かというくらいに張り詰めた空気の中、凪の隣では『神御衣』を纏ったサクラが笑顔で「サクラって呼んでくださーい!」と明るく自己紹介を済ませ、月音が偶然作っていたというデザートの桜餅を大口に頬張っていた。


 一方、テーブルを挟んで向こう側に座るのは月音とその両親。

 月音はえぐえぐと鼻をすすって言った。


「お姉ちゃんは悲しいです。凪ちゃんが浮気して、行きずりの子を家に連れ込んで混浴でイチャイチャするなんて――はっ! そ、その子が凪ちゃんの会いたかった人なの? それじゃあ……もうプロポーズして、結婚して……? お姉ちゃんは必要ないのっ? う、うわぁぁぁ~~~ん凪ちゃん捨てないでぇ~~~~~~!」

「全部違うわいっ! あーもう落ち着け月姉! さっきも説明したじゃんか!」


 たまらず立ち上がって凪のそばにきた月音は、凪の手を掴みながら「離婚はやだぁ~」と意味不明なことをのたまう。サクラの方は二つ目の桜餅をもぐもぐ食べていた。


 そんなときにも平静としていたのは、神職たる月音の両親である。


「HAHAHA! 凪も意外とヤルじゃないか! プリティーガールをお持ち帰りして、あまつさえ一緒にお風呂だなんてなぁ。エクセレントな成長ぶりだ!」

「うーん、お母さんも若いうちの恋愛は応援してあげたいけど、あんなに大胆なのはどうなのかな……? それに、相手が相手・・・・・だし……」


 装束姿で親指を立てる朔太郎と、悩ましげに頬に手を当てる初音。


 二人ならきっと事情をわかってくれるはずだ。

 凪はそう信じて、思いきって口を開く。


「だから違うんですよ! サクラはそういうんじゃなくて、この子はっ!」

「ああわかってるわかってる。そのレディは神様だろう?」

「わかってるよ凪ちゃん。サクラちゃんは神様なんだよね」

「サクラは実はかみさ――――へっ?」


 カミングアウトする前にそう言われてしまい、凪は呆気にとられる。


「朔太郎さん……初音さんっ? き、気付いてたんですかっ?」


 驚いた凪が尋ねると、二人はお互いに顔を合わせてからうなずく。


「あのなぁ凪、これでもパパは修行を積んだ神職だぞ。それより凪が〝視える〟ことの方が驚きだ。やっぱり才能があったんだなぁ。ま、逆に俺には才能がないからその子は視えないし、声も聞こえないけどな。ママにはハッキリ見えるの?」

「ええ。とっても可愛らしい神様ですよ、朔ちゃん。サクラちゃん……いえ、敬愛を込めて『サクラちゃん様』とお呼びしますね。遊びに来てくださってとても光栄です。よろしかったら、こちらのお茶菓子も召し上がってくださいね。ジュースに御神酒もご用意してありますよ。さぁ、一杯どうぞ」

「わぁーいありがとう! みんなおいしいねぇ!」


 三つ目の桜餅を完食してしまったサクラは、パァッと表情を明るくしてまたお菓子に手を伸ばしつつ、くぴくぴと日本酒を飲む。もちろん神様ゆえ年齢の問題などはないが、それでも可憐な少女が美味しそうに酒を飲む姿には驚く凪だ。


 初音が、凪の隣でむせび泣く月音へ向かって言う。


「もう、月音ちゃん。いい加減に納得なさい。あなたも視える巫女なんだから、サクラちゃん様が神様だってことはすぐにわかったはずでしょう」


「え?」と月音の方を見たのは凪だ。

 月音は凪の腕をぎゅ~っと握ったまま声を張って答える。


「そうだけど、神様とか関係ないのっ! 凪ちゃんが他の女の子とお風呂に入ってたことだけが問題なのっ! 凪ちゃんと混浴出来るのはお姉ちゃんだけだったのに!」

「つ、月姉もわかってたの? てか一緒に入ってたのは小学生の頃だけじゃん!」

「HAHAHA。我が娘ながら一途なことだなぁ。凪も神職として順調に成長しているし、いずれ凪が月音を貰ってうちを継いでくれる日が楽しみだぜ」

「何度も言いますけど俺そんな宣言した覚えないですからね!?」

 即座にツッコむ凪と、その手を掴んで離さない月音。笑う朔太郎。一人だけ楽しそうにお菓子を食べまくっている食いしんぼうな女神サクラ。


 初音がパンパンと軽く手を叩く。


「はい、いったん落ち着きましょう。せっかく月音ちゃんが用意してくれたお料理があるのだから、みんなで晩ご飯にしましょうね。サクラちゃん様も、是非いっぱい食べていってくださいね」

「うん、ありがとうっ! サクラ、ごはんも大好き~~~!」


 そうして、なんとも不思議な空気の中で夕食を取ることになった凪なのであった。

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