第8話 第二節 毒殺の真相
「では、犯人特定に繋がる条件を、今から順番に提示します。一つ目。夏鈴ちゃんは、どのようにして亡くなったのか」
そう、まずは、小石川の言うとおり、毒殺であったことを告げた。
「夏鈴ちゃんは、青酸カリによる中毒死でした。体内からは微量ですが、青酸カリが検出されました」
緊張が走る。やはり、他殺だったのだという現実が、彼らに突きつけられた。
「小石川さんが言うように、夏鈴ちゃんは死に際、苦しそうな表情を見せませんでした。青酸カリは、非常に強力な薬品です。通常、青酸カリによる効果で体中を掻きむしるほどと発作が起き、ひどく苦しみながら死ぬものだそうです。だから、この死に方は、非常に特殊に思えました」
私は、小石川を見る。彼は肯定するように頷く。
「しかし犯人は、ある方法を思いつきました。それは、夏鈴ちゃんの飲んでいるジュースに、睡眠薬を混ぜることです」
「……え? 睡眠薬ですか?」
小石川は驚いた表情を見せた。そりゃあそうだろう。睡眠薬には、人を殺めるような効果はないはずだと。
「小石川さんが驚くのも無理はありません。睡眠薬だけでは、死にません。では、どこに青酸カリが仕込まれていたのか」
私は、鑑識の花園からある物を受け取った。
「……この、蝋燭です」
「え? 蝋燭ですか?」
小石川の驚きに、この場の人々は同調する。
「私もこれには驚きました。どうやら、ロウと一緒に、大量の青酸カリが溶け込まれていました」
私は本当に驚いた。こんな方法で、人を殺めることができるとは。
「ケーキに刺さった蝋燭に火が灯され、青酸カリが気化しました。蝋燭の火を吹き消すために、その気化した青酸カリを、夏鈴ちゃんはケーキの近くで何度も何度も吸いました。そしてそこで、前もって仕込んでおいたジュースに混ぜた睡眠薬が、効いてくるのです。夏鈴ちゃんは、眠る一歩手前まで、大量の青酸カリを吸い込んでいました」
夏鈴ちゃんは睡眠薬に負け、フッと目を閉じる。意識が無くなった瞬間に、青酸カリの効果により、生命活動が絶たれた。だから彼女は、苦しい表情を見せる暇がなかったのだ。
この死に際は、彼女にとって幸せなものだったのかもしれない。このあと殺されるとはいえ、自分の誕生日を多くの人が祝おうと、駆け付けてくれたのだから。彼女が最後に見たのが、生誕を祝うための蝋燭に灯る暖かな火であったことに、感謝したい。
「以上が、毒殺の方法です」
一つ目の解答を説き終えた。
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