第7話 第四節 北海宅へ戻る

 私が北海宅へ戻ると、玄関前で巫部さんが待ち構えていた。

「ただいま戻りました。巫部さん、はい、アイスの実です」

「ありがとう。やっぱりこれが美味しいんだよねー」

 巫部さんは嬉しそうにアイスの実を受け取った。……いや、さすがにアイスの実のために、ここで立って待っていたとは思えない。

 巫部さんは、アイスの実の封を開け、ぶどう味のそれを口に放り込み、シャクシャクと食べ始めた。三個目を食した後、私のためにまとめていたであろう話題を語り始めた。

「……まあ、夏生くんの察する通りだよ。随分と、ここの容疑者は、癖のある人物のようだね」

 巫部さんはゆっくりと顎を擦る。擦るその手は、程よく白く、細い指。本日二度目。私はこんな美しい光景を今、独り占めしている。

「ただ、夏生くんはもしかすると、一つ勘違いをしているかもしれないな」

「え? それって、どんなことですか」

 ……どこを見落としたのであろう。人物を見る目は良いと思っていたのだが……。

「夏生くんは、容疑者の年齢を、見た目から推測しているだろう? それだと、一人だけ大きく見誤ってる人物がいるんだ。誰だか、検討がつくかい?」

 巫部さんは、私を試すように、敢えて明言せずに問う。

「……なるほど。おそらくですが今、勘違いに気付きました」

「うむ。思い込みは時に危険だ。特に君みたいに、人を見る目に自信がある場合はね。明らかに分かりやすい見た目だったとしても、ちゃんと本人に尋ねるようにするといいさ」

 巫部さんは決して怒鳴らない。静かに淡々と述べる。だからこそ、巫部さんの指摘は、私の心に深く刻まれるのだが。

 ――聞くべきことは何か、次からはちゃんと心得ておかねば。

「……私も彼らの話を聞いてわかったよ。うむ、悪い人じゃないんだけどなあ」

 巫部さんは残念そうな声を上げる。私と比べ、明らかに場数を踏んでいる巫部さんでも、今回の事件には何か思うところがあるらしい。

「……何故、殺されなければならなかったんだ」

 巫部さんは、消えるような声で呟く。その言葉は、儚く空中へと散っていった。

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