第4話 二節 娘と佐々木さん

 写真を待つ間に、私は佐々木さんのもとへと向かった。おそらく、ほとんどの家族写真は、彼が撮っているはずだ。

「佐々木さん、また伺いたいことがあります」

「なんでしょうか?」

 佐々木さんは嫌な顔を一つせずに、返答した。これまで話を聞いてきた人物の中では、一番娘と仲が良かったのではないだろうか。最早、ただの庭師ではないような気がしてきた。

「実はですね、北海家の家族写真をよく撮られているように伺ったのです。それに間違いはありませんか?」

「いえ、間違ってないです。私がよく撮っているはずです」

 佐々木さんは、自信満々に答えた。

「お伺いしたいことがありまして。北海一家の写真を撮る際に、表情を見ると思うのですが、夏鈴ちゃんの表情が気になっていまして。少しでもいいので、覚えていることを話していただきたいんです」

 佐々木さんは、暫し時間をかけ、思い出しながら答えた。

「あくまで印象ですし、記憶上の話なので、正確さには欠けますが……。私がよく撮っていたのは、夏鈴ちゃん一人の時です。その方が、良い笑顔をしてくれるので……」

 佐々木さんは、話しながら何か別のことを思い出したようだ。言葉の語尾が萎む。

「と、申しますと、家族写真の時は、良い笑顔をしなかった、ということになりますね」

「おっしゃる通りです。少しばかり、無理をしているように、感じました」

 ……無理か。一体娘は、両親に対してどのように感じていたのだろう。

「ところで佐々木さんは、北海一家に対して、どのような印象を感じていますか? 私は、夏鈴ちゃんは、両親との間に、心の壁があるように感じるのです」

 佐々木さんは頷いた。

「私もそう感じています。何故心の壁があるのかどうか……」

 おや? 私はその一言が引っかかった。

「そういえば、夏鈴ちゃんって、両親のどちらに似ていると感じますか?」

「……ふむ。どちらにも、似ていない気がしますね」

 もしかして。私は、先ほど紀子から聞いた爆弾発言を投げかけてみる。

「実はですね佐々木さん、紀子さんから、気になる一言があったんですよ。夏鈴ちゃんは、紀子さんの娘ではないそうです」

 私の発言を聞いた佐々木さんの表情は、驚愕の色に染まった。

「なんですと……。では、夏鈴ちゃんは誰の子なのですか……」

 佐々木さんは途方に暮れている。そうか、北海一家と親しい佐々木さんでさえ、この告白は聞かされていなかったのか。

「情報提供ありがとうございます。とても助かりました」

「いえいえ、お役に立てたようで良かったです」

 佐々木さんは、まだ先ほどの告白を反芻しているようで、呆然と立ち尽くしていた。

 ……まだまだ謎は残っている。紀子はまだ写真を探しているのだろうか。やはり、写真を見せることにかなりの抵抗があるようだ。

 別の謎に取りかかることにしよう。

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