第4話 一節 家族写真
「大変お待たせしました」
紀子が申し訳なさそうな表情で、数枚の写真を私に手渡した。若干だが指が触れる。どうやら、紀子は少しばかり手汗をかいているようだ。
「ありがとうございます。随分と時間がかかったようですが、探すのが大変だったのですか?」
ごく当たり前の感想から質問する。
「いえ、たまたま、いいのが見つからなかっただけで」
「そうですか。写真は結構な枚数をお持ちなのですか?」
「いえ、百枚程度です」
百枚とは、随分と数が少ないように思える。
「記念として、写真を撮る習慣がないのですか?」
「いえ、そういうことではないのですが……」
紀子は口ごもる。どうやら言いにくいことがあるらしい。
「実は、娘が写真を、嫌がるのです」
「なるほど。眩しくなりますし、自分が薄いフィルムに写ってるのも、なんか気持ち悪いですからね」
「そうです、そんな感じです」
紀子は同調し、強く頷いた。
……果たして、本当にそんな理由だろうか。
紀子から手渡された写真のうち一枚を、一瞥してみる。娘は、写真を嫌がっているようには見えない。真っ直ぐに、目を開けている姿が写っている。私は、彼女の笑顔に注目した。まるで無理をして笑っているような。そんな気がしてならない。
私は受け取った全ての写真に目を通した。何れも、主人、紀子、娘の三人で写っている。
「写真ありがとうございます。ところで、三人で写っている写真については、誰がシャッターを押したのですか?」
「ああ、大体は佐々木さんに押してもらったような。旅先であれば、近くにいた方に撮ってもらいましたけど」
なるほど。ここでまた、佐々木さんの名が出てくるのか。
「あともう一つ。三人で写っている写真以外のもの、例えば、夏鈴ちゃんだけとか、夏鈴ちゃんと誰かの二人で写っているものとかが欲しいのですが。ありますかね?」
「……はい。あると思いますが」
やや返事が曇る。何か、気付かれたくない事実があるのだろう。
「できるだけ多く持ってきてもらいたいのです。確かめたいことがありますので」
「……はい、わかりました」
紀子は渋々首を縦に振った。階段を再び彼女は昇っていく。先ほどよりも、足取りは重そうだ。
……おそらく、私の考えていることが正しければ。夏鈴ちゃんは。
……奥さんに愛されるはずがない。
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