第3話 二節 娘の居場所を尋ねる
鈴城のいなくなったダイニングではすることがなくなったので、娘さんの顔を拝むために、居場所を尋ねることにした。
紀子は、先ほどの鈴城と荒井の乱闘の結果、無残にも割れてしまった食器の後片付けを紀子が行っているところであった。
「あ、夏生さん」
紀子が口元に微かな笑みを浮かべて私を見た。私の顔は、彼女にはかなり効果的なようだ。
「先ほどの乱闘は大変でしたね。いくつも食器が割れてしまいましたし」
「ええ。でも、これだけで良かったです」
割れたのはそれほど高価な食器ではなかったようで、紀子はとくに気にも留めていない様子であった。淡々と割れた食器を廃棄するために、新聞紙に包んでいる。
「作業中すみませんが、いよいよ、夏鈴ちゃんのお顔を拝見したいなと思いまして。今って、どちらに置かれているのですか?」
死体の表現は難しい。まるで人形を扱うかのような表現になってしまう。
「さすがに来客スペースに置いたままでは可哀想だと思い、娘の寝室のベッドに運んでしまいました。すみません。本当は、現場の状態を保持するためにも、そのままにするべきなんですよね?」
刑事ドラマで得た知識レベルの情報のため自信がないからか、私の顔色を気にしている。その問いに応えるように、私は固く閉じた口元をフッと緩め、紀子を優しい眼差しで見つめた。
「そうです。でもお気持ちはわかります。大丈夫ですよ。今の理由を警察の方にも伝えていただければ」
紀子を安心させる言葉を選んだ。どうやら、すっかり安心してしまったらしい。
「今から、私を寝室に案内していただけませんか?」
紀子は「はい」と答えた後、やや耳を赤く染めていた。なるほど。敢えて「夏鈴ちゃんの」と明言しないことは、このような効果をもたらすのか。
私は紀子に連れられ、三階にある娘の寝室へと入っていった。
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