第2話 七節 紀子の証言
北海紀子は、キッチンに雑然とした食器を片付けようか迷っている様子であった。どこかソワソワして落ち着かないように思える。その理由は測れないが。
「すみません、少しお待たせしてしまったようで」
私の声に敏感に反応し、紀子は後ろを振り返った。若干だが距離感が近い状況である。紀子の顔が私の顔のすぐ目の前にあるような気がしてならない。
「いいえ! 他の方の証言が取れたようで良かったです」
ホッと胸を撫で下ろした様子の紀子はその後、私をあからさま過ぎるほどに好意の目で見つめた。
「いえいえ、事件があったばかりでまだ気持ちの整理もついていない中、私のような外部の者が色々と掻き乱しているような気分で、少し申し訳ないなと」
本当はそんなことはこれっぽっちも思っていないが、目線を落とし、表情に翳りを出す。
その憂いた表情がお気に召したのか、紀子は少しばかり喜々とした表情で語りだした。
「実は、あの子は、私の娘ではないのです」
……これは爆弾発言である。慎重に、言葉を選んでいく。
「そうなのですか。あなたは主人の後妻ということですか?」
「いえ。戸籍上は私が初めての妻なはずです。しかし、わかりません。主人は、私以外の方とこれまでにどのような関係にあったかどうか、まるで」
紀子は目線を落とす。この一件でかなり悩んでいる様子だ。これまでにも、悩んだことがあったのだろうか。
「なるほど。現在主人とは、どれくらいの時間を一緒に過ごせていますか?」
「主人は仕事が忙しいので、平日はいつも夜遅くに帰ってきます。その代わりに、休日は私や娘のために時間を割いてくれるんです」
「なるほど。平日は時間が取れないことを負い目に感じているようですね」
「はい。少なくとも、私たち家族にとっては充分いいお父さんだと思ってます」
そう述べる紀子の表情は、少し不安げではあるものの、夫を信じているという意思は感じられた。
「なるほど」
――主人に娘や仕事の件について話を聞かねばならないな。
「ありがとうございます。一旦これで」
もう少し話したそうにする紀子を横目に、私は主人のもとへと向かう。
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