第2話 五節 主人、紀子をよく知る男性の証言

 未だに機嫌の悪い荒井をよそに、台所付近に立っていた男に話しかけた。

 別に意識しているわけではないが、私よりも幾分か整った顔立ちをしている。さぞかしモテるのだろう。……何度も言うが、別に意識しているわけではない。

「あの、すみません。少しお話を伺ってもよろしいでしょうか」

「これはどうも。私は鈴城卓馬すずしろたくまと申します。貴方は探偵の夏生さんですね。話は伺っております」

 透き通るような美声が、彼の口から放たれた。うむ。これはイケメンの声、そのものだ。

 私も負けじと、心持ち美しい声で問いかけた。

「こちらこそ、よろしくお願いします。さて早速ですが、今朝の夏鈴ちゃんの体調が気になっていましてね。何か覚えていたら、教えていただきたいです」

「なるほど。そうですねえ、いやー、元気そうでしたけどね」

「ほう。そうですか」

 鈴城は自身の整った顔にそっと手をあてがった。その姿が大変様になっている。

「私はこの家の主人と奥さんと仲が良くてね。今日の早い時間にこの家に着いて、パーティーの準備をしていたよ。そしたら娘さんが起きてきた。大体九時頃かな」

「なるほど。あなたがこちらに着いた段階で、他に招待客はいましたか?」

「いる。一人だけ来ていた。おそらく彼女は昨日ここに泊まっていたのではないかな。彼女、住まいが遠いようなので」

「なるほど。わかりました。ありがとうございます」

 最後に鈴城の顔を一瞥した。切れ長の瞳と目が合った際に、仄かに口角が上がったように見えた。何やら、意味ありげな表情である。

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