第2話 三節 ある医者の証言
彼は、少しとっつきにくい印象であった。
「あの、すみません。少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
少しばかり丁寧な口調で話しかけた。
「はい。なんでしょうか」
男性の名は、
「夏鈴ちゃんが亡くなったときに、何か気になったことはありませんでしたか? どのようなことでも構いません」
「ああそういえば、こんなことが気になりました。私は医者なものですから。彼女が息を引き取ったときの表情は、あまりにも安らかなものでした」
「安らか、と言いますと」
「ええ。私は毒殺ではないかと踏んでいるのですが。その割には、あまりにも穏やかだなと思いまして」
「夏鈴ちゃんの死体を詳しくご覧になったようで」
「ええ。外傷はとくに見られませんでした。彼女は特別な病気を持っているわけではないので、何らかの病気による発作による死亡というのは考えにくいのです」
なるほど。これは大きな手がかりになりそうだ。あとは、いつ毒を服用してしまったのかが気になるところだが。
「ちなみに、毒の種類について、何か思い当たるものはありますか?」
「いや。私は毒に関しては知識が全くないもので。すみませんが」
申し訳なさそうに、小石川は瞳を臥せた。意外と睫毛が長いようだ。
「そうですか。ちなみに、あなたはパーティーが始まるまでは何処にいましたか?」
「そうですねえ。パーティーが始まる十分ほど前に着きましたので。車で隣の街から来ましたよ」
「実はですね、パーティーが始まる三十分前くらいに、火災報知器の誤作動が起きたそうなんですよ。外は何か不審なものはなかったかなと思いまして」
「いや、とくにそのようなものはなかったと思います」
小石川曰く、その車を北海家の車庫に停めたそうだ。北海家の庭は広く、三〇〇坪はあるだろう。その広い敷地の中に、住居と車庫が余裕を持って建っている。車庫はだいたい四台ほど停められる広さで、彼が停める際にはすでに三台は停まっていたそうだ。うち二台は北海家の愛車である。かなりの高級車と伺っている。彼はそれを知っているため、かなり慎重に車庫入れを行ったそうだ。その際に、周りにぶつからないかどうか、かなり注力し確認を行ったが、とくに異常はなかったという。
「なるほど。ありがとうございます」
「今回の彼女の件はとても残念に思います。私は人を救う職業ですからね」
たしかに、救えない状態を目の当たりにするのは辛いものがありそうだ。ただ、彼の顔をふと眺めたが、あまり表情には現れないからか、たった今漏らした感情を読み取ることができない。
「心中ご察しします」
そう言葉にするしか、なかった。
さて、二人に話を聞いてみた結果、いくつかの収穫があったことをまとめてみよう。
・パーティーが始まる三十分ほど前に、火災報知器の誤作動が起きた
・火災報知器が誤作動した理由を知っている人物が、恐らくこの建物の中にいる
・娘は安らかな顔で息を引き取った
・とくに死に至る持病はなかった
・毒殺と踏んでいるが、物的証拠は見つかっていない
・外傷はとくに見られなかった
死体の様子については、後ほど紀子に許可を取り、是非とも拝見させてほしいものだ。
まだまだ情報が足りない。どんどん話を聞いていこう。
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