第13話 俺、男になります!
午後八時三十一分十秒、俺は悶々としていた。現場は俺の家の最寄り駅から徒歩十三分の閑静な住宅街ではない住宅街にあるアパートの一室。表札には立川と書かれている俺の家だ。
「いやー、いい湯だったよー」
俺の目の前には風呂からあがったばかりの三亀瑠璃の姿があった。先ほどまでツインテールにしていた黒い艶やかな髪は下ろされて背中にかかっており、パーカーだった服装は白いトレーナーに着替えられている。
ではなぜ俺が悶々といているのかというと、それは三亀瑠璃の服装にあった。白いトレーナーを着ているところまではいいのだが、このロリっ娘は下に何かを履くという習慣がないのか、ズボンの類を履いていないのだ。
幸いなことに白いトレーナーは三亀瑠璃の身体のサイズよりも大きいために下腹部の秘境までは見えていないが、トレーナーから伸びるすらりとした白い柔肌が俺の視線をくぎ付けにする。先ほどまで黒いストッキングに覆われていたその美脚は姿を露わにしており、生足が俺の視界を行ったり来たりしていた。
なし崩し的に三亀瑠璃を泊めることになってしまった俺だが、当の本人は最初から俺の家に泊まる気満々だったようだ。その証拠に衝撃のお願いをされた後、三亀は駅のロッカーから大きなスーツケースを取り出してきたのだ。
最初から泊まるつもりがなきゃ使わないような大きいスーツケースには少なくとも一週間分の着替えは入っていたに違いない。
てか生足で部屋中を歩かれると俺の片手剣ペネトレイト・レイピアが反応してしまって色々よろしくない。そこで俺は意を決して三亀に抗議する。
「なあ、三亀」
「……」
「なあ、聞こえてるだろ?」
なぜか俺の呼びかけを無視する三亀。互いの距離を考えたら声が届いているのは間違いないのだが、あたかも聞こえていない振りをする三亀。俺はため息をしたくなる衝動を抑えつつ、三亀のことを名前で呼ぶ。
「なあ、瑠璃」
「なにかな、悠人」
俺が瑠璃という名前で呼びかけると、先ほどまでの無視が嘘のように振り返った。まったく、なぜこの三亀ロリはそこまで名前に拘るのだろうか。
「俺の精神衛生上よろしくないから何かを履いてくれ」
「え、もしかして興奮しちゃうの?」
ニヤニヤと小悪魔のような笑みを浮かべた瑠璃は両手でトレーナーの端っこを摘まむと、ゆっくりと上に向かって引き上げる。少しずつだが、確実に露わになっていく瑠璃の柔らかそうな太ももに俺の視線は釘付けになってしまう。
おそらく俺の視線に気づいたのだろう瑠璃はそこでいったん手を止めると、またまた小悪魔のような笑みを浮かべながら俺に尋ねる。
「ねえ、みたい?」
「べ、べつに……」
「そっか、それは残念だなー」
「あー」
瑠璃はそう言ってトレーナーの端から指を放そうとすると、俺は思わず静止するような声を上げてしまう。
「本当はどうなの?」
「くっ……」
余裕を感じさせる笑みで俺の方を見つめる瑠璃に対して俺は悔しさを感じてしまう。ここで見たいと言えば瑠璃の思惑通りになってしまうが、事実その先が見たいんだからしょうがないだろう。
俺は屈辱を感じながらも瑠璃に向かって本音を口走る。
「み、みたい……」
「悠人のえっち」
瑠璃は俺を軽蔑する言葉を口にしたが、その口調からは責める気持ちが感じられない。むしろ嬉しさのような感情さえも感じられる。
そして瑠璃が再び少しずつトレーナーの裾を持ち上げていくが、その表情には先ほどまでの圧倒的な余裕は感じられず、どこか羞恥の色が見えた。
けれどもその表情がまた俺の心をくすぐってしまう。
「少しだけだからね……」
「わかってる」
いよいよ瑠璃の持つトレーナーが太ももを超え、その先にあるであろう下腹部の秘境へと迫ろうとしていた。生まれて初めて見る女性の秘密の花園に俺はゴクリを息を飲む。
俺は全神経を眼球に集中させ、一瞬の光景さえも逃さんとばかりに血眼になる。俺の強い視線を感じてか、瑠璃の手に躊躇いが生じ始めた。
けれども瑠璃の手は確実にトレーナーを持ち上げていく。いよいよご対面というその時になって瑠璃の覚悟が決まったのか、一気にトレーナーが持ち上げあられた。
その瞬間、露わになった瑠璃の白くて柔らかそうな生足とその秘境を包み込むように履かれた一枚の桃色の布。そう、瑠璃はピンク色のパンティーを履いていたのだ。さすがにノーパソで過ごすほどの痴女ではないことが分かり安心した半面、初めて見る女性のパンティーに興奮する俺の心はよく分からなくなっていた。
俺がピンク色のパンティーに落胆していると思った瑠璃が喜々として尋ねる。
「ねぇ、ねぇ、今どんな気持ち? ノーパンだと思ったらパンツがあったのってどんな感じ?」
喜々としながら俺の瞳の奥を覗き込むように笑みを浮かべる瑠璃はとても嬉しそうだった。おそらく俺が相当残念がっていると勘違いしたのだ楼。だが俺は残念がるどころか、再び俺の前に現れたチャンスに心を躍らせていた。覗き込むため前屈みになった瑠璃の胸元にはわずかな空洞が生まれ、俺は本能的にその暗夜行路に視線を奪われる。
照明を背に俺の顔を覗き込む瑠璃の胸元には確かな双丘があることは視認できた。しかし部屋の照明を背にしているためにそれ以上は暗くてよく見えない。くそ、もう少し照明が入れば俺の肉眼がそのピンク色の秘境を捉えることができるのに……頼むからもっと明かりを、もっと俺に光を!
ちょうど俺の背後には大きな窓があり、外からの光がわずかだが挿し込んでいる。けれども時刻は既に夜であり、瑠璃の胸元が鮮明になるほどの光量は期待できなかった。もしこれが真昼間だったら確実に見えていたはずだ。
俺は心の中で必死に天に向かって今だけ太陽を出してくれと懇願しながら全神経を桃色の秘境に集中させる。もうちょっと、あと数センチ、あとちょっとで俺は桃源郷に辿り着けるんだ。
俺が外聞もプライドも捨てて三亀ロリの胸元に集中していると、さすがに瑠璃も気づいたようで慌てて胸元を抑えつけた。その表情には先ほどまでの余裕を感じられることはなく、耳まで真っ赤に染めながら俺の方を睨みつける。
どうやら今回は本当に事故のようで、瑠璃も相当恥ずかしいようだ。
「……見た?」
「見たって?」
「言わせるな、バカ!」
やべぇ、急に瑠璃が可愛く見えてきた。これこそが俗に言うギャップ萌えなのだろう。俺はつい瑠璃に対して心をときめかせてしまう。
他方の瑠璃といえば羞恥のあまり我を失っているようで、俺に向かって様々な罵倒の言葉を投げ付けてくるが、今の俺にとってはその言動さえも愛おしく思えてしまう。
「こうなったら全部忘れてもらうから」
「お、おい……」
頬をリンゴのように真っ赤に染めながら涙目になって俺の方を睨む瑠璃の手には部屋に置かれていた一冊の教科書が握られていた。その教科書は辞書並みに分厚く、そして重い書物である。下手をしなくても鈍器になり得るその教科書を片手に俺に迫る瑠璃。
「お、落ち着けって! 見えてないから! あとちょっとのところで見えなかったから!」
「それ以上言うなぁ!」
必死に弁明しようと試みる俺だが、瑠璃の動きは止まらない。やばい、このままでは本気で殺されてしまうのではないか。俺の中にそんな不安がよぎり、脳裏にはリルさんの姿が浮かぶ。
ああ、どうせ死ぬならリルさんに抱かれて死にたかっ……ごふっ。
瑠璃の手によって振り下ろされた一冊の教科書は俺の意識を刈り取るには十分だった。
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