第9話 メッセージが届きました!

 日付が変わろうとする夜更け、二日連続で三亀瑠璃を名乗る人物から送られてきたメッセージに俺は正直困惑していた。なぜならメッセージの内容がいかにも迷惑メールのそれであり、ネットで質問したら九割九分の人から業者じゃんて言われるからだ。


 俺も二十年ほど人生を経験してきてメッセージの内容が怪しいことはわかっている。けれども差出人が俺の知っている人の名前だ。


 もしかすると小学校のアルバムをどこかで買収した業者がやっているのかもしれないが、逆にこれが本当だった時、俺は小学生の友人のメッセージを無視していることになる。


 それはそれでいろいろと問題があるので、俺は意を決してメッセージに返信することにした。



立川悠人『久しぶり、元気?』

三亀瑠璃『あ、やっと返信が来た!』



 俺がメッセージを送ると、意外にも相手はすぐに返信をくれた。これほどの返信の速さはやはり業者かもしれない。それか今巷で噂のAIか。


 どちらにせよ俺の相手に対する疑念は一気に深まった。



立川悠人『三亀は今何してるの?』

三亀瑠璃『今は東京に出てきてるよー! それと瑠璃って呼んでよ!』



 ふむ、これは明らかに怪しい。俺の知っている三亀瑠璃とはかけ離れた存在だ。俺の知っている三亀瑠璃はクラス委員長を務めるお堅い人だ。やはり相手は業者で俺の情報を小学校のアルバムから抜き取ったという訳か。


 俺はメッセージ画面を閉じると、スマホをテーブルの上に置こうとした。しかしその前にメッセージの通知音が部屋に響く。



三亀瑠璃『悠人ー! どうしたのー?』

三亀瑠璃『あれー寝ちゃったー?』

三亀瑠璃『それとも昔みたいに拗ねちゃったー?』



 怒涛の勢いで送られてくる相手からのメッセージに俺は思わずメッセージ画面を開いてしまう。だが開いた理由はメッセージを見るためでなく、メッセージの通知をオフにするため。



三亀瑠璃『ねーてば!』

三亀瑠璃『無視するなー』

三亀瑠璃『瑠璃ちゃん泣いちゃうよー?』

三亀瑠璃『いいの? 私が泣いたらめんどくさいよー』



 通知をオフにすれば通知音が聞こえないから気にならないはずだ。しかし相手はそんなことなどお構いなしにメッセージを送り続けてきている。


 なんなんだ、この執念は。恐怖を感じた俺はつい返信をしてしまう。



立川悠人『お前が三亀の偽物だということはバレている。だからこれ以上は無用だ』

三亀瑠璃『な、なにを言ってるんだ……!』

立川悠人『とぼけたって無駄だ。三亀はもっと清楚でやさしい女の子だった』

三亀瑠璃『わかりましたわ。わたくしはどうしても悠人さんに会いたいの!』



 馬鹿だ、こいつは馬鹿だ。これでは自分が偽物だということを自分から伝えているようなものではないか。こんなに頭の悪い業者がいるのだろうか。いや、業者なら正体が明らかになった時点で普通に会話を止めるはずだ。


 なのにどうしてこの相手は未だに会話を続けている? まさか俺がこの程度のことで騙されるような頭の悪い男のことでも思っているのだろうか。


 待てよ……可能性はある。現に俺は数日前にラブホテルで張り切った挙句頭を打って意識を失って救急搬送された男だ。もしそのことを知っているならば、俺が性欲に負けてこの誘いに乗ると信じていてもおかしくはない。


 ここまで俺に執着する理由が分かったならばこっちのものだ。この際、俺は業者をコテンパンに打ちのめしてやる。



立川悠人『まさか病院のことを知って話しかけてきたのか?』

三亀瑠璃『そうそう! 懐かしいねー!』

立川悠人『懐かしい? 俺が病院にいたのは数日前打!』



 おっと、勢いあまって誤字をしてしまった。これでは数日というポジションの前にヒットを打った野球選手じゃないか。いや、そもそも数日というポジションはないから数日という選手の前に打った数日前ヒットだな。響き的にセカンド辺り守ってそう。


 俺に事情を悟られたことに気づいたのか、黙り込んでしまう偽物の三亀瑠璃。勝利を確信した俺はメッセージ画面を閉じようとしたが、その前に再び三亀瑠璃(偽)からメッセージが届く。



三亀瑠璃『悠人がいた病院はとても桜がきれいだったよね!』

立川悠人『何を言っている。俺がいた病室からは桜は見えないはずだ』

三亀瑠璃『何言ってるの? 窓の外に満開で桜が咲いていたんじゃん!』

立川悠人『桜……だと?』

三亀瑠璃『そうだよ! 私が初めて悠人に会った時! 春休みの宿題を持って行った時だよ!』



 俺は頭の中で何かが渦を巻くような感覚に陥る。何かを思い出せそうだけど、思い出せない、そんな気持ち悪い感覚が俺のことを襲う。


 何か大切なことを忘れているけど、思い出せないその何か。


 動揺した俺は震える手でメッセージを返す。



立川悠人『お前は本当に三亀瑠璃なのか?』

三亀瑠璃『だからそうだって言ってるじゃん!』

立川悠人『ならなぜ今になって俺に会おうとする?』



 なぜ、この三亀瑠璃はここまで俺に執着するのか。あのお堅い三亀瑠璃が俺なんかに執着するとは思えない。



三亀瑠璃『東京に出たら悠人がいるって聞いたからだよ!』

立川悠人『そんな理由で?』

三亀瑠璃『他の理由なんていらなくない?』



 なんだこのビッチ……。もしかすると三亀瑠璃は高校デビューしてビッチになったのかもしれない。いや、そうに違いない。そして片っ端から小学校時代の同級生を食い散らかしてるんだ。


 それで最後の一人が俺だからどうしても会おうとしているんだろう。俺を食えばコンプリートだから。


 そうだ! そうに違いない! だからこれは直接会ってガツンと言わなきゃな! 


 よこしまな妄想をし始める俺の右手は勝手にズボンの中、じゃなくてスマホのキーボードをフリップしてメッセージを打ち込んでいた。



立川悠人『わかった。明日十時に池袋の鳥の銅像の前でいいか?』

三亀瑠璃『いいよー!』



 こうして俺は三亀瑠璃という人物と出会うことになるのだった。

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