2:夏

 昼はセミと日差しによる暑苦しさ、夜はとても蒸し暑い。


 季節は真夏の7月の後半、今は体育館で終業式の真っ最中である。一学期の終業式というものはいつになっても苦痛なもので、狭い体育館の中に全校生徒が集まり、校長先生や生徒指導の人たちのよくわからない言葉を一時間聞くだけの拷問場所である。


「では皆さん、悪い人などに騙されないように楽しい夏休みを過ごしてください」


「これで一学期終業式は終わりになります。三年生から順番に教室へ帰ってHRの準備をしておいてください」


 教頭先生の言葉により三年生から順番に帰り始めた。すると左側から何やら小さな手紙のようなものが落ちてきた。


 誰からだろう?一応拾って教室に持ち帰り、中身を見てみると中にはこう書いてあった。


『海斗くんへ。今日のHRが終わったら三年生の靴箱まで来てください!とてもやさしい先輩より』


 なんだこれは……確かにこの手紙のあてに心当たりがないわけではない。でもなんでこのタイミングで……考えても仕方ない。おとなしく付き合うしかない。


 頭の中でいろいろなものがグルグルしながらHRを終え、僕は先輩に怒られるのを避けるためにクラスの誰よりも早く教室を出て三年生の靴箱がある場所まで向かった。


……まぁ、僕たち二年生の靴箱の隣なんだけど。


「先輩!お待たせしました。ハァハァ」


「うん!時間ぴったりだね!よく出来ましたー!」


パチパチと拍手しながら笑顔で僕に近寄ってくる。


その瞬間、僕は腕を捕まれ強引に学校の外へと連れ出された。先輩に「どこへ向かうんですか?」 と聞いても返事は無し、あくまでも察してくださいと言わんばかりな対応である。


先輩に連れてこられたの駅近の大型ショッピングモールである。


僕と先輩が通っている高校は比較的駅から近く、大抵のJK(女子高生)は学校帰りなどに友達又はカップルでここに立ち寄っているようだ。最近ではおいしいタピオカ屋も出来たらしく、たいへん賑わっている。


「さてさて海斗くんよ、ここに連れてこられた意味がわかるかな?」


「先輩の奴隷になればいいんですか?」


「失礼だな〜、そこまでハードなお願いはしないよ!」


「詳しく聞きましょうか」


「夏服とか見たいからそれに付き合って欲しいんだ〜」


「分かりました、お付き合いしますよ」


言うが早いか、僕が言い終わると同時に先輩は色々な店に入り始めた。


ユニ〇ロ、〇Uなどメジャーな店舗からあまり知られていない様なマニアックな店まで全てを回って結果、上下共に5着ほど購入した。


店を出るともう夕方になっていた、楽しい時間というのはやはりあっという間である。


「私は電車乗って帰るから、今日はここでバイバイだね」


「そーですね、ではまた夏休み明けに」


「うん……また、夏休み明けに…ね」


どこか寂しそうな、悲しそうな声色だったと思う、当時の僕にはあまり分からなかった。しかし、今思い返してみるともうここから始まっていたのかもしれない。

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