第8話 おまえは……

 空が白みはじめている。

 ふたりの服はもう乾いていたが、このまま裸ついでにN・Sの様子を見にいこう、ということになった。

「聞いてもいいか」

 几帳面なユウが、いつものように、売りもののような丁寧さで服をたたみながら言った。

「どうして俺と行動してたんだ?」

 一ヶ月前、盗掘中に出会ったふたり。

 ともに行こうと誘いをかけたのは、他ならぬアレサンドロのほうだった。

 パーティを組んでの盗掘は、単純な労働力の増加以上に、とにかく様々な利点がある。

 だからこそ、ユウも乗った。

 だが、生活をかけてやっている以上、分け前で血生臭い話になることも往々にしてあるのだ。

 特に今回の場合、大物中の大物でありながら、アレサンドロに売る気どころかゆずる気もなかった。

 これは当然、もめる。

 でもよ、とアレサンドロは、自分の服をユウに投げてよこした。万事、こうしたことはユウまかせである。

「十五年だ。俺たちだけじゃねえ、鉄機兵団だって動いてる。だいたいの場所は掘りつくされて、これ以上、たいしたものは見つからねえ。普通はそう思うさ」

 言われてみれば確かにそうだ。

「いままで、おまえ以外にも何人かと組んできたしな。商売っ気を出したわけじゃねえが……なにかと便利だろ? だからだな」

「そうか」

「それがまさか」

 アレサンドロは声を上げて笑った。

「いまになってあのN・Sが出てくるとはよ。ツイてると言うか、ツイてねえと言うか……。おまえも、よく見つけたもんだな」

「いや、運がよかったんだ。月が……」

 待てよ。

 ユウは言葉を呑んだ。

 天使と遠吠え……。

 カラスと、オオカミ……。

「ん?」

「いや、なんでもない」

 さすがにそれは考えすぎだろう。

「ただの、偶然だ」

 ふうん、と、アレサンドロはあごをかいた。

「俺もひとつ。……おまえ、金をなにに使ってる?」

「金?」

「とぼけるなよ。おまえは稼ぎがまとまった額になると、決まってどこかに持っていく。知ってるぜ」

 それは事実だった。

「単純に考えりゃあ、コレだが……」

 と、小指を立てたが、

「違うな。博打もねえ。仕送りって線も薄い。だとすると、なんだ?」

 腕を組み、完全に探偵気分である。

 ユウは、とりあえず見守ることにした。

「捨て犬にコソコソ餌をやってる……おまえなら、あり得るな」

「それぐらいのことに、まとまった金はいらないだろ」

「そりゃそうだ。だったら……分割でなにか買った……おい、笑うな」

「ああ、すまない」

「で、なんだ? なにに使った? いさぎよく吐け」

 尋問みたいだな。ユウは思った。

 だが正直、秘密にしていたわけでも、面白い話でもない。

「神殿に、寄進してる」

「は?」

「寄進だ」

「……」

 滑稽な顔だった。

「マジかよ……本物だな、おまえ」

「どういう意味だ」

「いや、ある意味おまえらしいというかな……。しかし、なんでまた」

「ん……昔、ちょっと。それに、父が神官だったんだ」

 ユウの父が仕えた地母神メイサは、慈悲にあつい神である。

 父は下位神官で、裕福ではなかったが、自分たちが生きていける最低限の食料、衣料以外は、すべて困窮にあえぐ人々に分け与えていた。

「父のおこないは正しかったと思うし、尊敬もしてる。でも正直に言えば、俺はとても、そこまでにはなれない。わかってても、明日の自分にいくら金がかかるかなんてわからないし……全部なくすのは無理だ」

「それが普通だぜ」

「だから、必要な分を差し引いた残りで、その真似事をしてる。それに……」

「それに?」

「いや……たぶん、純粋な善意とは違うんだ」

 ユウは、最後の上着をたたみ終えた。

「純粋、ねえ」

 アレサンドロは肩をすくめ、

「おまえの言うとおりかもしれねえが、俺からすりゃ十分いい子ちゃんだぜ」

 と、大げさにため息をついた。

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