第7話 俺は……

「翌朝だ。格納庫に行ってみると、やけに騒がしかった」

 それまで淡々としていたアレサンドロの声が、感情的に震えた。

「カラスが。オオカミが。みんな口々にそう言ってるんだ。俺は野次馬をかき分けて、なにが起こったのか、見にいった。見にいって……」

 アレサンドロは声を詰まらせ、顔を覆った。

「見にいって……」

「なにを、見たんだ……?」

 答えがない。

「アレサンドロ……?」

「……あれだ」

「え……?」

 アレサンドロが指さしたのは、あの、二体のN・Sである。

「じゃあ、あれが……」

「……カラスと、オオカミだ。ふたりは、殺し合って……」

「どうして……」

「知るかよ! 俺に、わかるかよ……」

 そこから先は、嗚咽に消えた。

「……俺は、月影だ」

「?」

「言わなきゃよかった……オオカミに会えなんてよ……。そうすりゃ、カラスは死なずにすんだ……この砦だって……」

 ユウは、はっと息を呑んだ。

 アレサンドロが語った、『水底の乙女』の原典。

 カラスは水底の乙女。暁はオオカミ。

 月影のひとことで、消えてしまった幸せ。

 アレサンドロはずっと、重ね合わせていたのだろうか。

「違う」

 ユウは強く、かぶりを振った。

「月影はどうか知らない。でもあんたのは、カラスの幸せを考えてしたことだ。自分でそう言ったじゃないか」

「ユウ……」

「黙って笑ってたわけでもない。誰もあんたを責めたりしない。カラスだって……!」

 しかしアレサンドロは、

「ハ……おまえは本当に、素直だよな」

 あきれ顔に、笑った。

「なあ、ユウ。おまえ、女にホレたことあるか?」

「え……」

 胸に、手を当てる。

「……わからない」

「だろうな。そんな感じだぜ」

 思わず吹き出したアレサンドロは、のっそりと立ち上がり伸びをした。

 その顔からは、もう悲壮感は消えていた。

「さて、と。なんだか、サッパリしたな」

「ん……俺もだ」

「おまえには、悪ぃことしたな」

「いや、いいんだ。それより……これから、どうする?」

「そうだな……」

 N・Sのことがある。

「俺が、ここで盗掘なんざやってたのは、あいつらの供養のためだった」

 アレサンドロと同じ、入れ墨の仲間。そして魔人たち。

「鉄機兵団より、他の連中より先に、あいつらの形見を見つけて……土に帰してやるために」

 その気持ちは、ユウにもよくわかる。

「あれも、そうしてやりてえな」

「……そうか」

 ユウはうなずいた。

「もちろん、付き合ってくれるんだろ?」

「え……?」

「なんだおまえ。ホントに、話聞いただけで満足してんのか?」

「いや……でも、いいのか?」

「いいもなにも……」

 にやり、笑う。

「相棒なんだろ? こうなりゃ、とことん付き合ってもらうさ」

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