白濁した、快感。
──ヤバイ、かも。
盗み聞きして、勃つなんて。慌てた足元が縺れて派手に音を立て転けた。臀部に痛みが走って好都合だと思った。この痛みさえあればじきに萎えるだろう。
でも、耳に焼き付いた喘ぎ声が離れてくれない。恋人に対するそれとは違った、痛みや焦りを感じさせるような、小刻みの喘ぎ。
──クソッタレ……!
ホモビを見て興奮することなんか、いやまずホモビなんか、有り得ない。なのに──
──葵くんが、ヤッてた。
その事実だけで、破裂しそうに痛く欲望が大きくなる。ズボンの中のそれは次第に快感を求めて脳を支配する。
──酷く抱いてやりたい、今この手で。
可愛くもなければ好意的でもない男相手に、こんな感情が成立するのだろうか。自分に嫌気がさして、頭を振る。
男もイケるかも、だなんて思っていない。ホモなんて子孫も残せず同性を愛して馬鹿みたい、女の子の方が何万倍も可愛いのに。でもいざ男性同士の性交渉を見て、興味が湧かないわけがなかった。
──あぁ、葵くん。どんな表情してセックスするんだろうな……
その日の夜、葵くんで抜いた。お兄さんじゃなくて、自分に犯される葵くんを想像して抜いた。ごめんなさいと謝罪の言葉を連呼しながら、あの壁の向こうでされていたように、裸で押し付けられる葵くん。首元の印に上書きして、涙目になる彼の尻穴に指を出し入れして。壁に打ち付けるように性器を挿入しながら、あの時みたいに言わせるんだ。
──葵くん、ちゃんと言って。ほら
『──』
──ちゃんと言わないとやめちゃうよ
『──』
「ッ……!はぁっ……!」
凄まじい快感が襲ったかのように思えば、それはいつも通りのマスターベーションだった。しかしそれが手の中でティッシュと共に包まれるのではなく、彼のナカに出せればどんなにいいか、と思ってしまうのだった。
葵くんは次の日も普通だった。それはあくまで彼にとって日常で、彼にとって当たり前であることを、嫌でも認識させられた。太陽はもっと高くなり、夏休みが始まった。
時々、俺は葵くんの家に行った。密かに裏口で少しだけ、今日はヤッてないのかな、それくらいの気持ちで行った。
俺の想像通り、それは夕方から夜にかけて毎日行われているようだった。夜中も行為はあるのだろうが、葵くんの兄が帰ってくる時間帯には必ずセックスがあると分かった。彼は乱暴に葵くんを抱いた。愛がひしひしと伝わる彼の言葉とは裏腹に、暴力的なセックスは葵くんに悲鳴を上げさせていた。時々だった俺の訪問はほとんど毎日に変わり、豪邸の壁と石塀の間で行為を盗み聞きながら自分を慰めた。
「い゛たぁあああっ……!」
最初はビビった。男子高校生が必死に叫ぶような痛いセックスなんて、酷いと思った。でも股間はそんな声にも正直にむくりと起き上がる。自分が最低で、情けなかった。
「出すぞ」
「あんぁっ……んぁっ……」
葵くんのイキ声を聞いて全身が震える。白濁した、快感。飛び散った液体と不自然な痕跡を残さないように、確認してから静かに家に帰る。自分がしている探偵のようなこの行為が、そして下手をすれば犯罪者のようなこの行為が、葵くんへの興味なのか、自分の快楽を満たすためなのかは分からなかった。
夏休み明けの朝、昨夜セックスをしていた彼は、どこにもいなかった。
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