第2話 前夜祭

「ちょいっと、春。こっち来なさいな」

 僕―東條春由―にそう呼び掛けてきたのは宮部恵さんだ。彼女はポニーテールを元気に揺らしながら、僕を引っ張って教室から連れ出す。

「・・・どうしたの?メグ?」

僕が問いかけると、恵は嗜虐的な笑みを浮かべた。

「あんた。相川さんのこと好きなんでしょ?」

 僕はギクッとした。相川麻実―マミさんは確かに僕の愛しの相手だ。しかし、何故それを?

「今、何故それを?って思ったっしょ?」

 またギクッとする。勘が良すぎますよ。メグさん。

「あったりまえでしょ!何年あんたの幼なじみやってると思ってんの?」

 また心が読まれてるし。それはそうと何年かぁ。確か小学一年の時からだから・・・

「9年かな?」

「残念!8年と6ヶ月です」

 見た目は体育会系なのに恵は理系でしかもかなり細かい性格だ。

「それで、好きなんでしょ?」

「えぇ・・・あ~。・・・うん」

 一瞬、逡巡した後、素直に白状することにした。

「ふっふっふっ。そんな君のために今日はとっておきのものを用意してますぞ」

 そういって、恵が見せてきたのは遊園地のペアチケットだ。

「遊園地のチケット?」

 恵に「にぶちん」と言われるほど鈍い(らしい)僕でも流石に分かる。これはつまり・・・

「マミさんをデートに誘えと?」

「・・・正解。何でいつもみたいにボケないかなぁ」

 いや、いつもボケてる訳じゃないんだけど・・・。

「まぁ、これあげる」

と言ってチケットを差し出してくる。

「いいんですか?メグが使わなくて?」

 僕がたずねると、恵が顔を少ししかめた。

「うん。まぁそのつもりだったんだけど、彼氏がその日行けないって言い出してさ。んじゃ、もぉ要らねぇよって感じ」

 なるほど。それなら・・・あれ?でも、他の友達と行けばいいんじゃない?と言おうと思ったが止めた。きっと、これは恵の心遣い何だろう。流石、彼氏持ちは心の度量が違う。僕なら友達に高値で売り付けるね!

「では、ありがたく頂戴します」

 チケットを受けとる僕。

「・・・春」

 恵が呼び掛けてくる。

「頑張れよ」

「・・・えぇ。頑張りますよ」


相川麻実


「あの・・・マミさん?」

 春由君が話しかけてきて、ビクッとする。

「・・・何?東條君?」

 心の中では「春由」君って呼んでるけどやっぱり本人を前にしては言えないなぁ。

「実はですね。ここに遊園地のチケットが二枚ありましてね」

 !行く!絶対行く!と思ったが、

「へ、へぇ。それで?」

 少しつっけんどんな態度になってしまった。違うでしょ。私!

「それでですね。良かったら一緒に行きませんか?」

 春由君はその自責の念を知ってか知らずか誘ってくる。

「・・・私が?」

だからどうして!そうなの!?言っちゃおうよ!?行きたいって!何?「私が?」って私以外にいないに決まってるでしょ!

「えぇ、もちろんです。あなた以外居ませんよ」

 !い、いま春由君がわた、私以外居ないって・・・

 不意に顔が赤くなるのを感じた。

「・・・もちろん。私で良ければ」

 やった!なんとか言えた私!やれば出来るじゃん!

「そうですか!ありがとうございます!」

 そういって春由君が離れていく。

「ていうかこれデートの誘いだよね・・・」

 その考えに至った瞬間、また顔が赤くなったのだった。



あとがき


 発掘シリーズ第二弾です。といっても、まだこのシリーズしか投稿していませんが。

 ちなみに、このハルマミシリーズは全三作で、一作、二作目が中三の時で、三作目だけ高二の時に書いています。なので、多少は成長してる...はず。だと、いいなぁ...。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る