人は、変わる―(5/21)
最近、嫌がらせの頻度が増えた。
道場では少ないものの、学校では一日の中で何度も繰り返された。
それは、あの組手試合の日以降から増えている気がした。
きっと、私の負け試合を見ていた門下生の誰かが学校で広めたんだ。
そして、無関係のくせに調子に乗った奴らが手を出してくるんだろう。
誰がどんな嫌がらせをできるか競っているらしい。
男子達がそんな話をしていた。
今日も今日とて、移動教室から戻るたびに、机に落書きをされていたり、引き出しの中に入れていたはずの教科書が机の周りに散らばっていたり、鞄が掃除用具と一緒にロッカーの中に投げ入れられていたりした。
もう呆れる。
でも、こうも続くと、いちいち物を探したり直したりするのが面倒になってくる。
だから……。
「──失礼しました」
今日、終業式の前に、先生に言いつけてやった。
誰がやっているのかはわかっていたし、もちろん名指しで。
放課後呼び出しを喰らって、怒られればいい。
明日から冬休みだし、休み明けには更生していればいい。
まあ、そんなイイ子ちゃんばかりだったら苦労しないんだけど。
今まで甘やかしすぎた。
私の邪魔をしたらどうなるか、ちゃんと思い知ってもらう。
運のいいことに、担任の先生は生徒指導には厳しめの人だし。
私は、帰りのホームルームが終わると、すぐに学校を出た。
先生、「厳重に注意しておく」って言ってたけど、本当にしてくれるだろうか。
別に更生に期待はしてないけど、やるって言ったことは実行してもらわないと、私の嫌いな嘘つきがまた増えることになる。
休み明けにでも確認しよう。覚えていたら。
……そう思っていたけど、確認する必要はなくなった。
この2日後に、ある出来事が起こったから──。
12月24日。
世間がクリスマスだと浮つく日、私は不機嫌全開で近所の児童館にいた。
児童館で行われるクリスマスパーティーに、関道場の門下生は手伝いとして借り出されていた。
でも、私はそんな話聞いていなかった。
新しい技を教えてやると師匠に言われてついて来たら、これ。
師匠は、正直に話したら来ないと思ったらしい。
そりゃそうでしょ。
なんで私がこんな面倒なことをしなきゃいけないの。
腹立たしい。
師匠にまんまと騙されたことも腹立たしい。
「はぁ……」
もう何度目の溜め息だろうか。
「如月さん、小さな子もいるのに、そんな溜め息ついちゃダメだよ。みんな楽しんでるんだから」
隣にいた玉野さんは、例のこともあってか、最近ちょくちょく話しかけてくる。
試合に付き合ってもらっているとはいえ、普段はあまり気安くしないでほしい。
「他人が楽しんでるとか、私には関係ないです。だいたい、手伝いにこんな人数いらないじゃないですか」
「手伝いとか関係なく、大勢参加でパーティーを盛り上げたかったんだよ、関おじさんは。……君は楽しくないの?」
「まったく」
「どうして?」
「時間の無駄だからですよ!」
無垢な顔で頭の上に疑問符を浮かべた彼に、思わず声を荒げてしまう。
「そ、そんな大声出さなくても……」
「こんなことをしてる暇があったら、鍛練していたほうがマシです」
「いつもながらに熱心だね、ふふ」
「…………」
やっぱり、バカにしてるようにしか見えない。
なんなのこの人。
他の女子達は、優しいとか笑顔が素敵とか言ってるけど、騙されてるでしょ。
いくら勉強ができてスポーツもできて人当たりが良くても、化けの皮を剥がしたらただの陰険野郎だって。
ちょっと才能と育ちに恵まれてるだけなんだって。
その後、私は彼から何を話しかけられても無視を通した。
いつも一人でいる私に気を遣って話しかけてくるのかもしれないけど、余計なお世話。
あなたのせいで、またこっちがあることないこと陰で言われるんだから……。
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