人は、変わる―(4/21)
それからしばらくは、いつも以上に鍛練に漬け込んだ。
──二度と負けたくない。
その一心だけが私を突き動かした。
私は週末になると、他の門下生が帰った頃合いを見計らって、彼に試合を申し込んだ。
彼はいつも、二つ返事で承諾する。
しかし、私は一度も勝つことができなかった。
「ねぇ。君はどうして、そこまでして僕に勝ちたいの?」
「…………」
もう何回目の敗北だろうか。
今日だけでも4回は負けた。
「誰にも……負けたくないから……」
「そんなに強くなりたいの?」
「あなたには関係ないです」
どうしてこんな人に勝てないんだろう……どうせ、暇潰しでやってるだけのくせに。
「せっかく付き合ってあげてるのに、そこまで冷たいといっそ面白いね、ふふ」
「…………」
腹立たしい。
その笑みが腹立たしい。
手の平で転がされているようで腹立たしい。
「一応、言っておくけど」
「?」
戦意喪失した私は、帰り支度を始めながら彼の言葉に耳を傾けた。
「僕、君に負ける自信はないから」
「!?」
なっ……!
この期に及んで……!
「……よくそんな自信が持てますね。あなたは何のために武道を学んでいるんですか?」
「それは……」
「気分、かな」
やっぱり。
どうせ親にでも勧められて、なんとなくで始めただけなんだ。
そんな人に負けっぱなしだなんて……恥しかない。
「なら、もうすぐ辞めたくなるんでしょうね、私に負けて」
「僕は負けないし、辞めないよ。少なくとも、中学を卒業するまでは」
「そうですか」
私も負けず嫌いで自信過剰なほうだけど、まさか彼が私以上に意地っ張りだったなんて……変な感じ。
見た目だけじゃ判断できないものね。
「私は先に失礼します。……ありがとうございました」
「あ、うん、お疲れ様」
師匠を外で待たせていた私は、武道場に一礼して、足早にその場を後にした。
「僕は、君に負けるわけにはいかないよ。君に負けたら、僕がここに来た意味が無くなるからね……」
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