再び、取り戻す―(13/26)


※~[凛・トロピカル]視点~※



まったく、何やってんだかあの人達は。


コソコソしてるのかガヤガヤしてるのか。


「まぁ、無視してる私が悪いんだろうけど……」


入浴を終えて髪を乾かした私は、露天風呂の柵を飛び越えて寮へ向かいました。


──昨日から部屋に閉じこもっていた私ですが、うーん……なんていうか、意気消沈して、なんにもやる気が出ないんですよね。

あんなに必死になってしていた勉強も、ショックが大きすぎて手につきません。

寝たら悪夢をみるので、部屋の隅で三角座りしながら歌ったり、床でゴロゴロしながらうめき声を上げたりしています。


食事の時間になると、ナルシーさんがご飯を持ってきてくれるのですが、必ずと言っていいほど一口食われています。

そのくらいならまったく問題ありませんが、ヨダレまみれになったものはさすがに無理です。

ナルシーさん自身に処理してもらいます。

だって……ねぇ。


まあそれでも、ナルシーさんには感謝しています。

普段と変わらぬ接し方をしてくれるので、苦ではありません。

一方的に喋って、スッキリしたらバイバーイ。

気が楽です。

だから心を許せたのでしょう。

ヘンテコ人間万歳。


「……今日は満月かな……」


そのように見える。

月の光は明るいけど、星もちゃんと見える。

赤や黄色や青白い星があって、きっとそれぞれに名前があるんだろうけど、一つもわからない。

普通この歳だったらわかるのかな……。


「……へっくしゅんっ」


寒っ。

つまらないこと考えてないで、湯冷めしないうちに帰ろ……。トコトコトコ。


すると……。


「!」


私の部屋の前に、誰かがいます。

私に気づいたようで、こちらを振り返りました。


「……ま、真理ちゃん……?」


そう。

巫女服ではなく、コリラックマのつなぎパジャマを着ていましたが、確かに真理ちゃんでした。


真理ちゃんは、サササッと小走りに近づいて来ると、


「……んっ」


両手で掴んだ何かを差し出してきました。


「……え?」


「んっ!」


「あ、はい……」


サツキちゃんに傘を差し出すカンタ並みに無言でしたが、とりあえず受け取りました。


すると、真理ちゃんはダッシュで一目散に去っていきます。


「あっ、ちょっと!」


引き止めようとしましたが、間に合いませんでした。


「……なんだったんだ……」


仕方なく、私は手元に視線を落としました。


これは……しおり……?


いや、よく見ると……。


「──あっ、四つ葉のクローバー……!」


一見、ただの本の栞に見えますが、そこには押し花にされた四つ葉のクローバーが挟まれていました。


裏には、つたない字で〝元気いっぱいのお守り〟と書かれています。


「真理ちゃんっ……」


なんて純粋な子……。

こっちはあんなに酷いこと言ったのに……。

この寒いなか、ずっと待っていてくれたのかもしれない……。


私は泣きそうになるのを堪えて、部屋の中に入りました。





やっぱり……みんなに謝ったほうが、いいのかな……。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る