再び、取り戻す―(8/26)


※~[凛・トロピカル]視点~※



『──お姉ちゃん! またあったよ! 四つ葉のクローバー!』


『えっ、またぁ!? すごいね真理ちゃんは!』


『えへへ~♪ あっ! 五つ葉もあった!』


『うそっ!? わぁ、ホントだ~! でも、五つ葉は不幸になるっていうよね』


『Σえぇっ!? そうなの!? どうしよう!! 真理、呪われちゃうよぉ!!;』


『大丈夫! 葉っぱを一つ取って、四つ葉にしちゃえばいいんだよ♪ ほら☆』


『あ、そっか! さすがお姉ちゃん♪ 天才だね☆』


『えっへん♪』


『真理、四つ葉のクローバーって大好き! 可愛いし、持ってたら幸せになれるんだもん!』


『そうそう、だからいっぱい集めようね♪ ──そういえば、クローバーって本当の名前は〝シロツメグサ〟っていうんだよ。知ってた?』


『えっ! そうなの!? 知らなかった! やっぱりお姉ちゃんは物知りだね☆』


『フッフッフ、お姉ちゃんに知らないことなどないのだ~♪』


『真理も大きくなったら、お姉ちゃんみたいに強くてかっこ良くて頭も良い、スッゴい女の子になりたい!』


『道は険しいよ~♪ 日々精進するがよい!』


『はぁ~い!☆』



キーンコーンカーンコーン……


コーンカーンコーンキーン……


「Σ──ハッ!!」


ここは……どこだ……?


「……なんだ、保健室か……」


私は体を起こしました。


結局寝ちゃってたのか……いま何時だろ……。


「……って、ここからじゃ時計見えないし……」


ママはいないみたいだな……。


──あれ?


でも人の気配がするような……。


「Σってウワァッ!!」


真理ちゃんが!!

真理ちゃんが横で寝てる!!

全然気づかなかった!!


「……ん…………んぅ~……」


あ、起きた。


「…………。Σ──あっ! お姉ちゃん!!」


「おはよう真理ちゃん」


「お姉ちゃん大丈夫!?!? また倒れたんでしょ!?!?」


ちょっ、真理ちゃん……声がデカい……;;


「う、うん……ちょっとね;」


「真理、お姉ちゃんが心配で! 一生懸命看病してたの! 途中で寝ちゃったけど……」


看病って……何してたんだろ……。


「そっかぁ、ありがと。でも、授業はどうしたの?」


「ママが、授業はいいからお姉ちゃんと一緒にいてあげてって」


「ふぅ~ん……」


なんでだろ……。


「──あっ! そうだ! 真理、お姉ちゃんに渡したいものがあるの!」


「渡したいもの……?」


真理ちゃんは、ポケットからヨレヨレとした緑色の物体を取り出しました。


「あっ!! 元気なくなってるっ!!」


それは、小さな四つ葉のクローバーでした。


「四つ葉のクローバー?」


「うん……お姉ちゃんが早く元気になるように、お守りにしようと思って取ってきたの。でも……こんなにしおれてたら……」


ああ……そっか……。

だから、あんな昔の夢を……。


「しおれててもいいよ。真理ちゃんのその気持ちが嬉しいし、お姉ちゃんが四つ葉のクローバーから元気をもらったから、クローバーがしおれちゃったんだよ。ほら、お姉ちゃんはこんなに元気になった♪」


私はベッドから下りて、伸びをしてみせた。


「でも、せっかくのプレゼントだったのに……」


「押し花にすれば大丈夫だよ♪」


「押し花?」


「そう。押し花っていうのは、重い本とかの間に挟んで乾燥させたお花のことだよ」


「乾燥? ――そっか! じゃあ、押し花にしたらまたお姉ちゃんにプレゼントする!」


「ありがと♪ 真理ちゃんは優しいね♪」


「えへへ♪」


私は真理ちゃんの頭をポンポンと撫でました。


「……ところで、ママはどこ行ったの?」


「わかんなーい。結構前に出て行ったっきり、帰ってこないよ」


「ふ~ん」


私は、さりげなく時間を確認しました。

16時前……ってことは、さっきの鐘で今日の授業は終わりか……。


──よし、よく寝てエネルギーもチャージできたし、鬼がいない間に逃げますか!


「……真理ちゃん。お姉ちゃん、ちょっと用事があるから──」


「ダメッ!!!!!!」


「Σえっ!?」


「お姉ちゃんを外に出しちゃダメって、ママに言われた!!」


チッ、やっぱりただじゃ逃げられないか……。


「えぇ~。でもお姉ちゃん、トイレにも行きたいし~……」


「なら、真理も一緒に行く!」


「いや、それは……;」


「途中で倒れたら危ないもん!」


「だ、大丈夫だよ~、もう元気だから~」


「ダメッ!!!!」


むむ、手強いなぁ……。


「ちょっとだけだから~♪ ちゃんとすぐに帰ってくるよ~♪」


「真理がママに怒られるもん!!」


それか。

それが一番の要因か。


「でも……16時におじいちゃんのところへ行く約束もあるし……。行かなかったら、お姉ちゃんがおじいちゃんに怒られちゃうよ~;;」


「Σえっ!?」


よし、揺らいだ!


「ママには後で、お姉ちゃんからちゃんと説明するから♪ ──あっ、そうだ!」


私は、適当な紙とペンを使って、


〝真理ちゃんをしからないでください。凛より〟


という伝言を書いて、真理ちゃんに渡しました。


「もしママが帰ってきたら、これを見せればいいよ♪」


「で、でも……」


「ホントに、すぐ帰ってくるから♪」


「…………」


真理ちゃんは、唇をとがらせて、上目遣いでこちらを見上げました。


「……わかった。ホントに、ちょっとだけだよ?」


「うん! ありがとう真理ちゃん!」


私は真理ちゃんに軽くハグをしました。


「すぐ帰ってきてね! 絶対だよ! 約束だからね!」


「……う、うん、約束……。おじいちゃんがすぐに解放してくれたらね」


そして、できるだけ目を合わせないように離れて手を振りました。


「じゃ、行ってきま~す♪」


「いってらっしゃ~い♪」


真理ちゃんは無邪気に手を振り返していました。






ごめんね、真理ちゃん……。


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