再び、取り戻す―(3/26)


──あー、死ぬかと思った。


おじいちゃん曰く、軽い貧血だったそうです。

健康だけが取り柄だったのになんたる恥! とも言われました。

確かに、熱中症にはなったことがありますが、その他はあんまりない気がする……。


でも、保健室に連行されなくてよかった……。

保健室にはあの人がいますし、いろいろと質問責めにされたら危なかったです……。


結局、体育の授業は、完走していない人達も時間がきたら切り上げられていました。

よかったです。




そして私は今、寮の自室にこもっています。

最近のお昼休みはずっとこうです。

なぜなら……。


「……うーん……伊藤博文と板垣退助って似てるなぁ……」


読書に没頭しているからです。


えぇ、読書です。

決して勉強などではありません。

断じて勉強などではありません。


「まぎらわしいなぁ……覚えにくいじゃん、もぉ~……」


実は、少し前から始めたことで、夜も熱中しているため、授業中に寝てしまうことが多くなってしまったのです。


はい、寝不足です。

夜更かししていました。

さっきの貧血も多分そのせいです。


「漢字はこうで……〝博〟は点が2つっと……」


誰だ、寂しくって夜寝れないんだろとか言ったのは。

そんなわけないじゃないですか。


「伊能忠敬は何した人だっけ……。えっ、足で距離を測って日本地図を書いた? 意味わからん……」


この教科書……いや、この本、説明省きすぎ……。

小学生編とか書いてあるくせに、全然わかんないよ……。


「やっぱり、もっと詳しそうなの探したほうがいいかなぁ……。でも図書室には真理ちゃんという番人がいるし……」


これをバレずに盗み出すのも苦労したんだよね~。


「あんまり怪しいことはできないか……」


しょうがない。

とりあえず、そろそろ時間だし、教室に戻ろ。

5限目はなんだっけ?

うわ、数学だ……一番苦手なやつだ……。

算数すらマスターしてないのに、数学なんて無理に決まってんじゃん!


あーあ、もうちょっと勉強しておけばよかったなぁ……;;


私は自室を出て、予鈴が鳴るなか校舎に戻り、廊下をテケテケと歩きます。


すると……。


「──おねえちゃあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁんっ!!!!!!!!!!」


「Σぐふぉ!!!?」


突然、背後からタックルされました。


「お姉ちゃん!! 倒れたって聞いたけど大丈夫!? 死にそうになったって聞いたけど大丈夫!? 真理を置いて逝かないでっ!!」


ちょっと、真理ちゃんに大袈裟なこと教えたの誰ですか。

私は倒れてもないし、死にそうにもなってないんだけど。


「だ、大丈夫だよ。ちょっとフラフラ~ってなっただけだから。もう元気元気!」


「ほんと!? まだまだ死なない!?」


「死なないよ。お姉ちゃんがそう簡単に死ぬわけないじゃん☆」


私は真理ちゃんの頭をなでなでしました。


「うわぁぁぁ~ん!!!; よかったよぉぉぉぉぉ!!!!;;」


真理ちゃんは大声で泣き始めました。

ちょっと……そんな派手に泣いたら……。


「──あなた!! また加美を泣かせましたわね!!」


出た、お世話好きのエラお嬢様。

いい加減カミサマ呼ばわりするのはやめましょうよ。


「ワタシ知ラナーイ」


「またしらばっくれて! ──って、今はそんなことを言っている場合ではありません! 加美! 次は体育ですのよ! 早く体操服に着替えなさい!」


「やだ! 体育嫌い!」


「このままでは出席日数が足りなくなってしまいますわ! ワガママを言っていないで早くなさい!!」


真理ちゃんはエラお嬢様に連行されていきます。


「やだやだぁ!! お姉ちゃん助けてっ!!」


助けてって言われても、授業はちゃんと受けないとダメだから……って、私が言えたことじゃないか、テヘッ☆


「イッテラッシャ~イ」


「お姉ちゃんのバカぁぁぁ!!!!」


真理ちゃんには言われたくないよ。


で、教室に着いたのですが……。


「──凛くん!! 大丈夫かい!? 立っても大丈夫なのかい!? 歩いても大丈夫なのかい!?」


心配してくれるのは嬉しいんですけど、ちょっと度が過ぎているんですよね、うちの兄妹は。


「見ての通り大丈夫ですよ。いちいちオーバーにしないでください」


「でも、さっきはとてもつらそうにしていたから……!」


真理ちゃんに言ったのはこの人だな、きっと。


「ちょっとフラついただけじゃないですか。私はあなたと違って丈夫なんです」


「で、でも……」


「本当に大丈夫ですから。あと、呼び捨てにしてくださいって言ったのに、なんで〝さん〟づけの次は〝くん〟づけなんですか。私はあなたの助手でも部下でもないんですよ」


「あ、ご、ごめん……。 でも僕、人を呼び捨てにしたことがないから……;」


「理由になっていません。なら私を第一号にすればいいだけの話じゃないですか」


私はそれだけ言うと、フンと鼻を鳴らして席につきました。


「ねぇトロちゃん知ってた? サンマって、一匹二匹じゃなくて、一尾二尾って数えるのよ」


「Oh、アイ・ドント・ノウン」


ああ、この会話が平和だ~……。


「──おーい、授業始めるぞー。全員席に着きなさい」


あー、あの先生が来た。

教員の手が足りないからって、なんであの厳しい先生(名前忘れた☆)が数学まで担当なんだよ~。

専門は社会科全般って言ってたくせに。


「突然だが、今日は抜き打ち小テストをする」


「「「「「「「えぇー!!!!!」」」」」」」


はぁぁぁぁぁぁ!?!?!?

なんですとぉぉぉぉ!?!?!?


「ちゃんと復習してたら簡単に解ける問題だからな。気楽に解いてみろ」


あなたどんだけ小テスト好きなんですか!!!!

算数ばっかやってたから復習なんてしてませんよ!!!!


「今回は抜き打ちだから、特別に90点合格だ。嬉しいだろ」


嬉しくない!!!!

一問も解ける気がしない!!!!


「名前はちゃんと書けよ。でなけりゃ即0点だからな」


名前は書くからせめて1点だけでも!!!!


「よーし、始め!」


誰か助けてぇぇぇーー!!!!!!




──はい、というわけで、計算なんてせず、全部勘を頼りに回答しましたー。

見事全問不正解でしたー。

放課後職員室に呼び出されましたー。


──ちくしょおぉぉーっ!!!!!!


「おい、ちゃんと聞いてるのか?」


「イエ~ス、問題アリマセ~ン」


私以外の不合格者は、名前を書き忘れたピーラーさんだけでした。

でも、名前を書いていれば96点だったということもあり、私より先に釈放されました。


くそっ、やる時はやりやがるな、ヘンテコ人間ズ!

そういえば、うちのクラスってテストの平均点は一番高かったんだっけ。


「ふざけるのもいい加減にしろよ。ヘンテコ人間じゃないのなら尚さらだ」


「すみません……」


ちなみにこの人、私の諸事情についてはある程度知っています。

一応ママとは付き合い長いらしいですからね。


「他の教科もそうだが、お前は勉強が苦手なのか? それとも嫌いなのか?」


事情知ってるんなら察してくださいよ!


「嫌いではないです」


「ホントか~? ならもっと気を引き締めて勉学に励めよ」


「やる気はあります」


「そのやる気が感じられないんだっつーの」


「…………」


人の気も知らないで……。


「あのお二人の子供なら、素質がないわけではないと思うんだけどなぁ」


ふんっ、偉そうに。


「ま、とにかく、最近の授業態度も含めて、百合花さんにはキッチリ報告してやるからな」


「それだけはノーノー!!!!!!」


そ、そんなこと報告されたら……私の命がっ……!!;


「俺には報告の義務がある。百合花さんに直接説教をされれば、その怠慢も直さざるを得ないだろ。怠けていた自分を嘆くんだな」


そ、そんなっ……!;;


「じゃ、そういうことだ。今日はもう帰っていいぞ」


「…………」





この教師、マッケンさんに頼んで消してもらおうかな……。



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