そして、甦る―(20/34)


「「「「!」」」」


そうだ……。


この子は、真理まりちゃんだ……。


あの、真理ちゃんだ……!


「……お姉ちゃん……!?」


ようやく……思い出せた……。


やっと……思い出せた……!!


「真理ちゃん……!」


どうして、気づかなかったんだろう。

どうして、思い出せなかったんだろう。


一人っ子だった私を〝お姉ちゃん〟って呼んでくれた子なんて、あの子しかいなかったのに……。


「凛! 記憶が戻ったのか……!?」


「えっ……。あ…………多分……少しだけ……」


「そうか! そうかそうか! そりゃよかった!!」


おじいちゃんは嬉しそうに笑っています。


「ちょ、ちょっとちょっと!! アタシを無視してんじゃないわよ!! 状況がわかってないのかしら!?」


そうだ、真理ちゃんは今、エリザベスさんの人質に……!


「なんかよくわかんないけど、ここまでよ!! こいつを刺せば、アタシはお兄様と同じになれるんだから!!」


「やめろ!! お前の考え方は間違ってんだよ!!」


「そうだよ! そんなことをしても、君はお兄さんと同じにはなれない!!」


「お兄さんだって悲しむだけですよぉ!!」


「今ならまだ間に合うわ。あなたまで誤った道に進む必要はないのよ!」


「ワシがお主を更生させたる!!」


「か、火星に代わって折檻よ!!」


…………。

最後のピーラーさんは無視するとして、皆さん、エリザベスさんを思いとどまらせようと必死に叫びます。


私も……私も何かしないと……なんとかしないと……!

でも何もできない……!

焦りだけが走って……何をすればいいのか……わからないっ……!!

どうすればいいのか……わからないっ……!!


「もうあなた達が何を言っても無駄よ!! 私は決めたの!! この意思は変わらないわ!!」


「っ……!」


真理ちゃんがあんなに怖がっているのに……私は……!


「お別れの言葉も言わせてあげないんだから!! 現実ってこんなもんよ!!」


私は……何もできないっ……! 何も……!!


「あなたも不運ね!! いえ、アタシに目をつけられたのが運の尽きだわ!! 可哀相に!!」


エリザベスさんはナイフを逆手に持ち直し、見せつけるように高く掲げました。


鋭利な刃先は、少女を捉えて鈍い光を放つ。


「これで終わりよ!!!! ──さようならっ!!!!」


「!!」


私は走り出しました。


──もう、間に合わない──。


そんな言葉を、脳裏で何度もかき消しながら……。

エリザベスさんが、手を止めてくれることを、祈りながら……。


そして、悲鳴のような声で叫びながら……。






「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」













──しかし。


「Σ!?」


彼女の手が、振り上げたままの位置から動くことはありませんでした。


なぜなら……。


「……僕の可愛い可愛い実験体に……傷をつけるおつもりですか……」


「なっ!?」


いつの間にかエリザベスさんの背後に回っていたマッケンさんが、その手を掴んでいたからです。


「そんなことが許されると思っているのですか……」


「あ、あなたっ……いつの間に……!?」


さ、さすが背後霊のマッケンさん!

そのまま真理ちゃんを……!!


「……罪深いあなたは……」


私が最後の望みを託して祈っていると、マッケンさんは、ポケットから見覚えのある火薬玉のようなものを取り出しました。


あ、あれはまさか……!


「――地獄行きです……!!」


いつしかの水素爆弾だぁぁぁぁぁ!!!!


「ちょっと待っ──」




Σドガァァァァァァァァァァァァァーーンッ!!!!!!!!




「!!」


爆発が起きた瞬間、私は身構えました。


そして、爆風で飛ばされてきた真理ちゃんを抱きとめ……た、まではよかったのですが、あまりにも衝撃が強かったため、踏みとどまることができず、真理ちゃんを抱えたまま地から足が離れてしまいました。


ふわりと体が浮遊し、

この状態じゃ、うまく受け身が取れない──!

と、焦りが冷ややかに全身を駆け抜けました。


が、その時。


「Σ!?」


何かに衝突したかと思うと、背中に人の感触と温もりを感じました。


爆風が落ち着いて、ゆっくりと後ろを振り返ると、そこには、見慣れたあの人の顔が。


「Σカ、カスさん……!?」


どうやら、彼が受け止めてくれたようです。


「大丈夫か……?」


「あ、はい……私はなんとも……」


胸元を見下ろして、真理ちゃんの様子もうかがってみましたが、特に怪我はないようです。

あんなに近くで爆撃を受けたのに……マッケンさんの計らい……?


「そうか……ならよかった……」


二人分の衝撃はそれなりの負担だったろうに、カスさんは口元を緩ませて薄く笑みを浮かべました。


「…………」


私は顔を背けて、辺りを見回しました。

幸いにも、身内に大きな被害を受けた人はいなかったようです。

それどころか、不思議なことに、爆発を起こした張本人であるマッケンさんはその場から一ミリも動いていませんでした。


エリザベスさんは、壁に突き刺さっています。微動だにしません。


「……終わっ、た……?」


「終わった……んだろうな……」


私達は、しばし茫然としました。


──と。


「……ウッ……グスンッ……」


私にしがみついていた真理ちゃんが、小さく泣き出しました。


「真理ちゃん……。怖かったよね……」


この子には、もうつらい思いはさせないって決めてたのに……。


「ごめんね……」


こんな時に限って……何もできなかった……。


「でも、無事でよかった……」


無力な自分が一番嫌いだったのに……私は──。




「……本当に…………よかっ――……」




禁断の奥深くに沈んでいた記憶。


その記憶に触れた瞬間、私は意識の糸を断たれてしまいました。








二度と触れるはずのなかった、〝二つ〟の温もりのなかで......



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