そして、甦る―(6/34)


『──うわぁぁぁぁ~ん!!!!;;』


ん!?

誰かが泣きながら入ってきたぞ!?


なんだ、ナルシーさんか。

ピーラーさんとマッケンさんも入ってきた。

カスさんを担架で運びながら。


ま、まさか!

ついに死んだのか!?


「ちょっと聞いてよトロちゃん!! カスってば今日に限って財布持ってないのよぉ!! 富士子もう死んじゃうわ!! うえぇぇぇ~んっ!!!!;;」


そんな理由で泣くな!!

ちょっとはカスさんの心配もしてやれよ!!


「おいカス!! 僕のフィギュア代はどうしてくれんだよっ!! このやろぉぉぉ!!!!」


「僕の研究費も……!」


あんたらもか!!


「そやつの財布ならワシが持っとるぞ、ほれ」


と言って、高級そうな黒財布をこちらに投げるおじいちゃん。

――って、なんで持ってるんだ!!


「ワシはスリの達人じゃからの」


いやダメだろ!


「富士子は盗み食いの達人よ!」


「僕はスカートめくりの達人だ!」


「僕は盗撮の達人です……」


まともな奴がいねぇ!!


「何かしら特技を持っていることはいいことじゃな」


「「「うんうん」」」


うんうん……じゃねぇっ!!


「ちょっとトロちゃん! その財布は富士子のものよ!!」


「いや僕のものだ!!」


「僕のものです……!!」


やめなさい!


『──ダメだよ君達。それは今田くんのものだ』


あ、正生徒会御一行がやってきた。


「会長のおっしゃることに間違いはありません!!」


「まったく、ヘンテコ人間はハエよりも頭が悪いのですね」


「少年!! 大丈夫かぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


いろいろとうるさいです。


「おぉ~なんじゃなんじゃ。みんな凛の友達か? どれ、おじいちゃんに紹介してみなさい」


ちょっ! 〝おじいちゃんに〟とか言わないで!!


「え? おじいちゃん?」


「何言ってんだジジイ」


「トロさんにおじいさんなどいるはずがありません……」


いやいるよ!?

いるよマッケンさん!?

いるけどさ……!!


「トロさん? 誰じゃそれは。わしゃ正真正銘、凛の育てのジジイじゃぞ」


言うな!!


「新しい先生が……凛・トロピカルさんのおじいさん!?」


「な、なんですって!?」


「じっちゃんの名にかけたぁ!!」


わぁー!!

バレたぁー!!

別にバレてもいい気もするけどなんかヤダー!!


「おぉ、そうか。この学校には、本名を名乗らぬ風習があったんじゃな」


別に風習ではない。


「凛・トロピカル君のおじいさん……。なるほど、そうでしたか。僕は、この学校の正生徒会会長を務めます、玉野王子と申します」


「玉野王子? ああ、そうか、お前さんが噂の……」


「僕をご存知なのですか?」


「いや……この学校には優秀な生徒会長がいると聞いておったからの。まあ、確かにデキそうな若造じゃ」


「あ、いえ、それほどでも……」


うん、それほどでもないよ。


「ねぇねぇトロちゃん。もしかして、凛・トロピカルの〝凛〟って、本名なの?」


ギクッ!


「そういえば……おじいさんから〝凛〟って呼ばれていましたね……」


ギクギクッ!


「〝凛〟は本名じゃぞ」


ヤバい!!

私が本名を嫌うヘンテコ人間でないことがバレる危機!!


「へー。富士子と同じなのね」


え?


「富士子の〝富士子〟も本名なの。だって富士子、一人称がだいたい〝富士子〟だし。ヘンテコ人間って普通、フルネームごと自分で新しいものに変えちゃうって聞いたけど、富士子以外にも本名入れる人いたのね」


あ、そうだったんだ。

そういえば、食堂のおばちゃんことナルシーさんのおばあちゃんも、慣れた感じで〝富士子ちゃん〟って呼んでたな。


「……ん? ということは、先生の名字が〝関〟だから……凛・トロピカルさんの本名は……」


「「「「赤リン?」」」」


おい、イントネーションが違うぞ!

赤リンはマッチ箱の側面の点火部に使われてるやつだぞ!


「いや、凛の名字は〝関〟ではない。凛は血の繋がった孫ではないからな。凛の名字は──」


「わあぁぁぁコラコラコラ!!!!」


ヘンテコ人間の前で本名をさらすな!


「なんじゃ、恥ずかしがることでもなかろうに」


そうじゃないんだよこの太郎が!!


「そ、そんなことはどうでもいいのデース! 皆さん、早く教室に戻るのデース!」


この状況だとどっちの口調で話せばいいのかわからんな!


「それもそうだね、もうすぐ授業が始まる。……でも、今田くんの安否が……」


「ほっほっほ、心配無用じゃよ。──なぁ、タヌキ坊主」


「……さすがデキるジジイだぜ」


起きてたんかい!


「今田くん! 無事だったんだね!」


「気絶してたのは演技だからな」


何故そんなことを!?


「隙あらば反撃してやろうと思ったのに……完璧だったぜトロのじいさん!」


「またいつでも相手してやる!」


ガシッ!


握手するな! ハグをするな!


「よかった……安心したよ。──それじゃあ、みんな教室に戻ろうか」


そう言って、正生徒会の皆さんはぞろぞろと保健室から出ていきます。


「少年!! 無事でよかったな!! ホントによかったな!! 俺っちは感動したぜ!! うっうっ」


何気に熱血さんが一番心温まる。


──っていうか皆さん、守護神さんの存在に気づいてなくないですか?

一応、気絶してるんですけど。

まあ、私が責められるのも癪なので放置しておきますが。


「富士子お腹が空いたわ! あんたのせいよカス!!」


「なんで俺のせいなんだよ!!」


「あんたがさっさと財布を出さないからでしょ!!」


「俺を金づる扱いするな!! この小汚ねぇ盗人どもが!!」


「なんですってぇ!?」


「お前はダチを盗人扱いすんのかよ!!」


「どうでもいいので早くお金を……」


どうでもよくないですよマッケンさん。

でもどうでもいいので早くここから出ていってください。


私はおじいちゃんに聞きたいことがあります。


「ヘイヘイ、ゴートゥークラスルーム」


「トロちゃんは黙ってて!!」


ごめんなさい。


──とまあ、なんとか追い出すことには成功しました。


「元気な奴らじゃの」


元気すぎて困ってます。


「で、お前がこの場に残った理由はなんじゃ」


…………。


「いや、言うな。言わずともわかっておる」


…………。


「ジジイの腰に湿布を貼りたいんじゃろ♪」


「違うわ!!」


ウキウキするな!!


「恥ずかしがらんでもいいじゃろに~。お前とジジイの仲じゃ♪」


「…………」


私は棚をあさって湿布を拝借すると、ジジイの腰に思いっきり叩きつけました。


「い゙だっ!!!! これが愛のムチというものかぁぁぁ!!!!」


「黙れ」


ウネウネするな気持ち悪い。


「年寄りはもっと優しく扱わんか!」


「おじいちゃんは頑丈なお年寄りだからいいんですよ」


「よかないわ!」


スポーツカーにハねられても怪我一つしなかったくせに。


「──って、そんなことはどうでもいいんです。おじいちゃんに聞きたいことがあるんですけど」


「なんじゃ」


「私に妹っているんですか?」


「妹? 妹はおらんな」


やっぱりそうか……。


──って。


「……妹〝は〟?」


「ん? あぁいや……お前さんには何もおらんぞ! お前さんは一人っ子じゃぞ!」


怪しっ!!

めっちゃ怪しいんですけど!!


「嘘ついてるでしょ!!」


「ついとらんついとらん! ついとらんわ! お前に兄弟なんかおったらワシが一緒に育てとるわ!」


「生き別れとか!」


「ないない! 断じてない!!」


絶対嘘だ。

このジジイが断じる時はだいたい嘘をついてる。

でも、妹じゃなかったら何がいるんだろ……。

兄か姉か弟か……。


──ま、まさか! 守護神さんは実は男の子──ってそんなわけ……ない、か。


「……何故隠すんですか」


「何も隠しとらんわ!」


あくまでもシラを切るつもりか。


「まあ、今日はそういうことにしてあげましょう」


「かたじけない」


今度、火あぶりにして聞き出すからな。


「ほれほれ、もう用は済んだじゃろ。お前も早く教室に戻りなさい。サボりは許さんぞ」


「ハイハイ」


「ハイは一回」


「ハイ」


このジジイ、なんでこんなに偉そうなんだろ。




「──おっと、一つ言い忘れておった」


「?」


「この学校には、嫌な風が吹いておる」


「は?」


「何かの前触れかもしれぬ。気をつけるんじゃぞ」


「?」


なんじゃそりゃ。意味わからんな。








―─と、思っていたのですが、亀の甲より年の功とはいったもの。


ジジイの勘とは当たるものです。


このH☆H高校に、


あの〝エリザベス事件〟よりも厄介な事件が襲来してきてしまったのです……。

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