そして、甦る―(5/34)


購買に到着してから気づきました。

購買は通常、お昼にしか開いていません。

つまり、パンをゲットすることはできないのです。


「ちょっとぉ!! なんで開いてないのよ!! トロちゃん開けて!!」


そんな無茶な。


「もう!! イライラする!! 喉が渇いた!!」


と言って、ナルシーさんは購買横の自販機で2リットルのミネラルウォーターを購入し、一気に飲み干しました。


「イイ飲ミップリ~」


「お腹が空くとイライラハラハラするのよ!」


ハラハラはちょっと違う気が。


「それでイライラハラハラするとお腹が空くの!」


無限ループかい。


「あと、風邪引いた時にもペコペコになるの! いくら食べてもお腹がグーグー鳴るのよ!」


すごいな、白血球めっちゃ頑張ってんじゃん。


「今、風邪引イテイルノデハ?」


「それはないわよ。熱も頭痛もないもの」


普段からそれだけ汗かいてたら、熱があるかどうかもわかりにくいでしょうけどね。

こんにちは、ミニ不二子さん。

2リットル飲んでもスレンディーなんですね。


「富士子、風邪引く時は絶食した後だけだから」


「絶食!?」


ナ、ナルシーさんが絶食ですと!?


「そうよ、朝食抜きの時とか」


それは絶食とはいわない。

最低でも丸一日は抜かないと。


「朝食に何かは食べないとね、すぐ頭とか喉が痛くなるの」


意外と体弱いんですね。

もしかして、そのために大食いしてるのか?


「あぁ~!! 富士子のプリプリお肌からハリとツヤがなくなっちゃう! トロちゃんお金ちょうだい!!」


〝貸して〟じゃなくて〝ちょうだい〟なんだ。


「ミー、ノーマネー」


「なんでいつもそんなに貧乏なのよ!!」


この間マッケンさんから守護神さんの寝顔写真を買ったからです。

そういえばあの写真、どこいったんだろ。

2万円もしたのに。


「オ金トイエバ、カスサンデ~ス」


「ハッ! そういえばそうね! さっきの騒動で死んだみたいだし、財布を盗むなら今だわ!」


勝手に殺しちゃダメですよ。

っていうか盗みもダメですから。


「よし! ハイエナピーラー達に先取りされる前に取ってこないと!」


だからダメですって……──ああ行っちゃった。


ま、いっか。カスさんのだし。


「──お姉ちゃん……」


「∑ワッ!!」


ちょっ、突然背後から現れないでくださいよ守護神さん!

マッケンさんじゃないんですから!


「……助けて……」


「エ?」


あ、よく見たら、泣きじゃくったような顔してる。

本当に泣いてたんだ。


「……助けて……」


「エーット~……何カラ?」


「……鬼……」


「鬼?」


守護神さんをイジめた犯人か。


「ド~ンナ鬼?」


「……怖い鬼……」


鬼は普通怖いですよ。


「……眼が怖い鬼……」


そりゃ眼も怖いでしょうな。


「……睨む眼が怖い鬼……」


あなたも人のこと言えませんよ。


「……白衣の天使ならぬ白衣の悪魔の微笑みを浮かべて〝ふふ、悪い子にはお仕置きよ〟とか言いながら睨む眼が怖い鬼……」


そんな人、一人しかいないな。


「ソレハ怖イデ~ス」


要するに、泣いてしまうほど酷いお仕置きをされたのか、保健の先生に。


「……お姉ちゃんにも……怖いものがある……!?」


「オフコ~ス」


そりゃあるわい。

完璧人間じゃないんですから。


「……だ、騙された……!」


え!? 私、騙した覚えありませんけど!?


「ドーユーコト?」


「……そーゆーこと……」


わからんわ!


「……とにかく……助けて……」


そんなこと言われても、どうやって助ければいいのやら。


「オ仕置キ、続行中?」


「……ノー……」


え? じゃあ何から助けてほしいんだ?


「……腹が立って……保健室から……資料を盗んできた……絶対怒られる……」


あんたも盗人かい!

なんてことをしてくれたんだ!


「ツマリ~……ソノ資料ヲ~代ワリニ返シテ来テホシィ~ト?」


「……ウィ……」


嫌だよ。

私が怒られる。


「ゴ自分デド~ゾ」


「やだ!!」


やだじゃねぇ!


「ジャ~、トゥギャザー、シテアゲマース」


「……トレジャー……?」


トゥギャザーだよ。


「一緒ニ~行ッテアゲルトユーコトデ~ス」


「……えぇー……」


それ以上のことはしませんからね。


「ソレガ嫌ナラ~、オ一人デド~ゾ」


「行きます!!」


よし、いい子だ。

付き添いだけなら私に被害はないでしょうからね。

仕方ない、行ってあげましょう。




「──失礼シマ~ス」


ガラガラガラ。


……あれ、先生いないや。

まだ体育館から戻ってきてないのかな。


「……この資料……重い……お姉ちゃん……持って……」


「ヤナコッタ」


どうせ私に押しつけて逃げる気だろう。

確かに多少厚みはあるファイルだけど、疲れるほど重いはずはない。


『──ん? その声は……』


シャッ。


∑うおぉぉっ!!!?

カーテンの奥からジジイが現れたぁぁぁ!!!!!


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!?!!!?」


そして何故か守護神さんが絶叫しながら気絶したぁぁぁ!!!!!


「加美サン!?!?」


びっくりしてオバケが出たとでも思ったのか!?


「なんじゃ、その娘っ子は。──ん? いや、その娘……!」


「?」


ちょっと、女の子の寝顔をジロジロ見ないでくださいよ。

この寝顔は私のものなんですから。

──って違うか!


「……いや、他人の空似か。あの子がこんなところにいるはずがない」


「?」


よくわからんが、あなたもここにいるはずがない人間ですからね。


私は守護神さんを空いているベッドに寝かせ、ファイルをその傍らに置きました。


「……おじいちゃん、何故ここに来たんですか?」


「いやぁ~、ちょいと腰を痛めてのぉ。湿布を借りにきたんじゃが、自分では貼れんので誰かが来るのを待っておったんじゃ。──ほれ凛、貼っとくれ」


「はいはい。──って違うわ!」


そっちの意味じゃねぇよ!


「おぉ、久しぶりに聞いたな、お前のノリツッコミ」


「話を逸らすな! 私が言ってるのは、どうしてこの学校に来たのかってことですよ!」


「そりゃあ、お前が心配で心配でならんかったからじゃ」


「道場は!?」


「今はヒマラヤ登頂合宿に行かせておる。ジジイはしばらく夏期休暇じゃ」


昨年までは富士山だったのに。


「じゃあ、新任教師っていうのはどういうことなんですか? おじいちゃん、教員免許なんか持っていたんですか?」


「そんなもん不要じゃ。臨時の特別要員じゃからな!」


そういうの卑怯ですよ。

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