そして、甦る―(4/34)
朝食を終えた私達は、朝会があるとのことで体育館へ向かいました。
途中、カスさんが写真を見せて回っていたので私も見せてもらいましたが、そこに写っていたのは、なんのヘンテツもない可愛らしい少年でした。
「……ドチラ様デスカ~?」
「見てわかんねぇんならお前には関係ねぇよ」
はっ、冷たいお人。
スタスタ逃げていきやがった。
「ねぇねぇトロちゃん。富士子、あの写真に写ってるのが誰だか知ってるわよ」
「エ、誰ナンデスカ~?」
「あれはカスよ。幼少期のカスの写真なのよ、きっと」
えぇ?
それはないですよ、全然似てませんし……。
「違ウノデハ?」
「絶対合ってるって! あの子が大きくなったらカスみたいになるわ!」
いやいや、あんな可愛らしいハムスターみたいな子が、あんなふてぶてしいゴジラみたいな奴になるわけないじゃないですか。
「富士子の勘は百発百中よ!」
「左様デスカ……」
じゃあ宝くじでも当ててみてくださいよ。
──とか話ながら体育館に入ると……。
「∑ウグッ!?」
私はいきなり、誰かに胸ぐらを掴まれました。
「ちょっとあなた!! 加美に何をしましたのっ!!」
「ハ!?」
ああ、エラお嬢様か。
「あの子を泣かせるなんて……!! だから私ははじめから反対したのですっ!!」
「ナ、ナナナナナナナナ」
泣かせた!?
「酷いです凛・トロピカルさん!! 私は信じていたのにぃ!!;;」
ピーチさんめっちゃ泣いてる!?
鼻水拭けし!
「私、知ラナーイ!」
「知らない!? 加美の世話係を担っておきながらなんと無責任な!!」
「テキトーなこと言わないでくださいっ!!」
いや、マジで知らないんですけど。
「トットロは残忍な奴だったんだなぁ!!」
私ジブリ出てないですって熱血さん。
「みんな、やめるんだ」
あ、会長さんだ
眼鏡かけてる。
まだ新しいコンタクト買ってないんだ。
「加美くんを泣かせたのは彼女じゃないよ」
「な、なんですって……!?」
「それは本当ですか!?」
「嘘に決まってるぜい!!」
勝手に決めつけるな!
私は可愛い子を泣かせるようなことはしないぜ!
「僕の口からは言えないんだけど……とにかく、彼女は関係ないんだ」
「「「…………」」」
いや、根拠言ってくださいよ。
疑いの視線が痛いじゃないですか。
っていうか、泣かせた犯人出てこいやぁ!!
「とりあえず、もう朝会が始まるから、みんな整列してくれるかな」
「は、はいっ!」
「納得できませんわ」
「世麗奈っちは疑心アンチすぎるんだ!!」
「それを言うんなら疑心暗鬼!」
「神経質すぎる気もするな!!」
「あなたがバカなだけでしょう!」
つくづく思うね、なんでこんな人達が正生徒会なのかって。
まあ、無視して整列しようか。
ガミガミ言われるのも面倒だし。
「──ねぇトロちゃん」
「ナーンデースカ~?」
よく見たら、ナルシーさんの制服からタグがぶら下がっている。
また新調したのかな。
サイズがWSPだってさ。
ダブルスペシャルって読むのかな?
「さっきおばあちゃんから聞いたんだけど、今からやる朝会で新任紹介をするんですって」
「新任紹介?」
「新しい先生の紹介ってことよ」
いや、それはわかっていますが、何故今さらそんなことを?
この学校は辞めていく先生が多いから、新しい先生が来ることなんて日常茶飯事じゃないですか。
そのたびに朝会なんて開いていましたっけ?
いないですよね。
「どんな奴が来るのかしら。どうせカス達の餌食になってすぐに辞めるんでしょうけど」
校長先生は開校からずっと生き残っていますよ。
っていうか校長先生しかいない。
あ、百合花先生もいたか。
「面倒デスネ~」
「きっと登壇した瞬間に血まみれになって退職願いを出すわ。楽しみね、ウフ♪」
楽しまないで!
っていうかこの学校、そこまで狂ってないから!
『──只今より、全校朝会を始めます。一度、礼』
相変わらず急に始めるなぁ。
「あーあ、お腹空いたわ。早く終わらないかしら」
今始まったばかりですよ。
さっき朝食食べたばかりですよ。
『──新任紹介』
ほらほら出てきますよ~。
『本日は、我が校に新たに赴任なさる先生をご紹介します。──どうぞ』
生徒達が既に身構えている。
新任先生アーメン。
『……? 先生?』
ん? どした?
『先生? 先生!?』
先生達が慌ててる……。
どうやら、新任の先生がいないようです。
「きっと怖じ気づいて逃げたのね。富士子達の不戦勝だわ! アハハハハ──」
∑ドガァァァーーンッッ!!!!!!!!!!
「「「「「「「!!!?」」」」」」」
な、なんだ!?!?
天井に穴が空いた!?!?
そして何か降ってきた!?!?
驚く生徒もいれば、空から降ってきたソレに襲いかかる生徒もいます。
「宇宙からの侵略者だ!!」
「この学校を乗っ取りに来たんだ!!」
「今こそ力を解放する時!!」
「いざ参れぇぇぇ!!!!!」
「「「「「ウオォォォォォォォッッ!!!!!!!!」」」」」
カスさんとナルシーさんも参戦しに行っちゃった。
だが、私は微動だにしませんでした。
だって、悪寒がしたんですもの。
だってだって、足が固まって動けなかったんですもの。
だってだってだって、ステージ上に降り立ったソレに、見覚えがあったんですもの。
「……う、嘘だ……あれは……何かの幻だ……」
戦いを挑みに行った生徒達が、次々と投げ飛ばされていく。
あの巨体ナルシーさんさえも、綺麗な放物線を描いて戻ってきた。
「∑いったぁ!!!! 頭打ったじゃない!!!!」
お腹かお尻で着地すればよかったのに。
ポヨンでボヨンでっせ。
『──最近の若者は太刀筋がなっとらんのぅ』
見覚えの次は聞き覚えがががが。
とりあえず、ナルシーさんの陰に隠れよう。
「ハッハァ!! 元気なじいさんだなぁ!!」
カスさん、おとなしく戻ってきたほうがいいですよ。
『威勢の良い若者じゃな。しかし、所詮は負け犬の遠吠えよ』
「俺はオオカミだ!! 男はみんなオオカミだぁぁぁ!!!!」
つまり変態ということですね。
『ほっほっほ、わしゃホワイトタイガーじゃ』
どこが。
『このホワイトヘアは由緒正しき白虎の証』
ただの白髪だろうが!!
歳喰ったらみんななるわ!!
「このジジイ……デキる!!」
デキねぇよ!!
……いや、あながち間違いではないか。
『かかってくるがよい、少年』
「言われなくともやってやるぜ!! 右手にマッチ左手にギザ10!!」
うお、なんか久しぶりな気がする。
でもぶっちゃけ卑怯ですよ。
「喰らえ!! 悶えジね!!! ファイヤァァァァーウルフッ!!!!!!」
な、なんと!!
炎がオオカミの形に──なったらかっこよかったのに。
『ワシにはそんなもん通じんわ! ──ふんすっ!!!!』
バフゥ!!
「何!?」
おぉ、こぶしを突き出した瞬間の風圧で炎が消えた。
『このくらい朝飯前じゃ』
寝ながらでもできますよね。
──あ。
皆さん、もう気づいていますよね?
わかっていますよね?
えぇ、そうです。
あれは、私のおじいちゃんです。
「お、お、おっ、俺のっ……俺のとっておきがっ……!!!!」
マッチを擦ることくらい誰でもできますけど。
「まだまだ修行が足りんな、若造」
いや、だから誰でもできますって。
「こ、このやろぉぉぉぉ!!!!!!」
行っちゃダメだカスさん!
「隙だらけじゃな。ていやっ!!」
「あぁぁぁ~れぇぇぇ~!!!!♪」
意外と楽しそうに飛ばされてる。
そういえばMなんだっけあの人。
「∑ぐふぉっ!!!! い、いでぇぇぇぇぇ!!!! 死ぬ!! 俺様死んじゃうぅぅぅ!!!!!!」
のわりにはかなり痛がっていますね。
「本日より、この学校の不良どもはすべてワシが更生つかまつる。甘ったれ坊主ども、覚悟するがよい。ふぉっふぉっふぉっふぉっ──∑グキッ!」
あ。
……ヤったな。
「あたたたたたたっ;; 持病の腰痛がっ……;;」
もう歳なのに暴れるからだ。
「──は、はい、というわけで、新任、
∑龍左衛門!?
あんた本名〝
いい歳して何かっこつけてんだよ!!
「それでは、以上をもちまして閉会といたします。──一同、礼」
早っ!
相変わらず早っ!!
怪我人出すだけ出して終わりかい!!
「つ、遂に現れたか、ドラゴンティーチャー!! 僕にはわかる!! あいつがボスだ!!」
何の!?
何のボスですかピーラーさん!?
「フフフ……倒し甲斐がありそうですね……」
手加減してやってくださいマッケンさん!
「────」
痛さのあまり気絶してるよあのカス!
「もう! 我慢できないわ!!」
おぉ! ナルシーさんが怒り爆発だ!
行け行け!
あんなジジイ追い出しちゃってください!
「購買でパン買ってくる!!」
∑そっちかよ!!
最近の食欲ハンパねぇな!!
──ということで、身を隠す盾がなくなるので、私はナルシーさんとともにそそくさと体育館をあとにしました。
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