核心、現る―(6/19)


※~[凛・トロピカル]視点~※



「……トロさん……もっと腰に力を入れてください……」


「無理デース! モォ~限界!」


「もっと手を早く動かして……」


「疲レマシタ~!」


「期待外れですね……」


「ダ、ダッテ……アツクテ……」


「バテるのが早いですよ……」


「ソンナコト言ワレテモ~」


「僕はまだまだ元気です……」


「ジャ~手伝ッテクダサイヨ!」


「嫌です……」


「コノ薄情者ー!!」


っていうか、なんで屋上の掃除なんかしなくちゃいけないんだ!?

校舎の中だけでいいじゃないか!

日差しが暑い!!

熱風が暑い!!


「口ではなく手を動かしてください……」


「アイヤーサッサー!」


「アイアイサーですよ……」


「ワカッテマ~ス!」


マッケンさんも手伝ってくれればいいのに!

普段は立ち入り禁止なのにゴミが多いぞここ!


「ちゃんと綺麗に掃き取ってください……ポテトチップスのカスが残っています……」


「ハイハイハイ!」


細かいな!

あんたは小姑か!


「機嫌悪そうですねトロさん……そんなんじゃ体力持ちませんよ……」


「マッケンサンモ~手伝ッテクダサイ!」


「だから嫌ですって……」


出会った頃はそんなケチで小うるさい人ではなかったのに!

チョークの粉を怖がっていたあなたはどこへ行った!

ありゃ演技か!?


「あ、でも……バイト代をいただけるのであれば……」


か、金を要求!?

意外と腹黒いなこの人!


「私ビンボーデース!」


「なら2万円でいいですよ……持っていますよね……?」


「ナッ!」


マッケンさん、私が昨日カスさんから一万円余分にもらったこと、気づいていたのか! めざといな!


「ウ~ン……ドーシヨーカナ~……」


こっそりゲームでも買いに行こうと思ってたのに……。


「今ならこの写真をおつけします……」


と言って懐から取り出したのは、あの守護神ちゃまのグースーピー写真。


「フオッ!! ソ、ソレハ欲シイ……!!」


半目でヨダレ垂らしながら鼻ちょうちん膨らませてるとか可愛すぎる!!

──って私は変態かっ!!


「では交渉成立ですね……毎度あり……」


「アッ……」


本能は正直だな。

無意識でお買い上げしてしまった。

ま、いっか。

これで掃除の手も楽になるし。


それにしても、やけに手慣れた感じだったなマッケンさん。

まさか、普段から写真の売りつけを……?


「マッケンサン、写真売リハ、ヨクスルンデスカ~?」


「え? えぇ……まあ……これが僕の商売スタイルですから……」


肖像権無視じゃないですか。


「オ金、タクサ~ンホシイ?」


「開発や研究には費用が必要ですからね……貯金がなくなったら稼がないと……」


ああそっか。

ロボやメカを造るには莫大な費用がかかりそうですもんね。


……ん?

ちょっと待てよ……。

まさか、マッケンさんがたまに女子寮にいるのは……。


「ドンナ写真ガ、多イデスカ~?」


「女性の写真が多いですね……高値で売れますし……常連のお客さんは男性が多いので……」


やっぱりか!!

っていうか常連客とかいるのか!?


「常連客、デスカ?」


「はい……そういう方からは人物の指定を受けたりします……。あ、動物とか建造物の写真依頼も受けますよ……」


怖っ……。

まあ、ここにいるのはヘンテコ人間が大半だから、プライバシーとかは気にしない人が多いのかも……。


「撮影許可ハ~取ッテマス?」


「言ってもだいたい断られそうなので……基本……隠し撮りです……」


犯罪だ。

わかっていたけれども。


「犯罪デスヨ?」


「では買い取ったトロさんも共犯ですね……」


それを言わないでください。


「バレなければいいんですよ……。ちなみに……トロさんの写真も高値で売ったことがあります……」


「オイッ!!」


いつの間に!!?


「大丈夫です……横顔ですし……依頼人は女性ですから……」


大丈夫じゃないし!!


「誰ニ売ッタンデスカ~!?」


「それは言えませんよ……」


まあそうでしょうねっ。


「強いて言えば……大人の女性とか……」


あれ、なんとなくわかっちゃった。


「こうでもしないと……僕は僕でなくなります……発明が僕の生き甲斐ですから……」


そう言って、マッケンさんが持っていた操縦機を操作すると、どこからともなく掃除機が飛んできました。

なんかもう、空飛ぶ掃除機を見ても驚かない自分に驚く。


「全自動掃除機です……範囲を指定すると、その範囲内をくまなくお掃除してくれます……」


「ヘェ~……」


便利なものですね。

私がせっせこせっせこと集めたゴミも全部吸い取っていきやがった。


「マッケンサンハ、イツカラ~コンナ発明ヲ~?」


「さあ……物心ついた時からじゃないですかね……」


怖ぇよ。


「スゴイデスネ~」


「まあ……僕の名義が使えるようになったのはここ最近のことですけどね……」


「エ? ドユコト?」


「僕が造ったものでも……ずっと父が、父の名義でコンクールなどに応募していましたから……」


「ドーユー意味デスカ?」


「ですから……父が僕の著作権を横取りしていたんです……。僕がどんな発明品を産み出しても……賞を受けられるのは父ですし……栄誉を讃えられるのも父なんです……」


「ナンデストォ!?」


「僕はそれが嫌でここに来たんです……ここなら……家族から断絶できますし……親の許可がなくても入れる学校でしたから……」


そうか。

マッケンさんも私と同じで、家出をしてきた立場なのか……。

──ん?

っていうことは、もしかしてマッケンさんもヘンテコ人間ではなく普通の人?


「僕は自由を手に入れました……僕の、僕だけの発明品や研究が実を結び……僕は広い広いこの世界へ羽ばたくのです……フフフ」


そうでもないみたいですね。


「ソレハ~ヨカッタヨカッタ~。──トコロデ、発明ニ使ウ部品トカハ~ドーヤッテ手ニ入レテ、イルンデースカ~?」


「行きつけのお店があるので、そこで購入しています……」


は?


「オ店デ購入? ネット通販デスカ?」


「何を言っているんですか……ネット通販なんて信用・信頼できませんよ……自分で買い出しに行くんです……」


えっ、でも昨日、脱走に失敗したって言ってたような……。


「こんな甘ちょろい学校……いつでも脱け出せます……警備員なんて、道端の石ころ同然です……」


ハハハ、こいつパネェぜ。

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