魚群、現る―(3/13)


※~[凛・トロピカル]視点~※



「──聞いたか、野郎ども」


「「「アイアイサー!!!!」」」


その返事は間違っていますよ。


「ズルいわ! ズルいわ!! あいつらだけ外出できるなんて!!」


「僕だってコミケに行きてぇ!!」


「僕のテントウ君に野球バカさんの鼻脂がっ……」


ちょ、カーテンで拭いちゃダメですよマッケンさん!

カーテンが腐る!


「あいつらが憎いんなら、もちろん加担するよな、お前らも」


加担?

はてさてなんのことやら。


「あったり前よ! 富士子も自由になりたいわ!」


「僕だってフリーダムになりてぇよ!」


「手はずは整っています……」


だから何の?


「よし! 満場一致だな!」


私を忘れないで!


「チョ~ット、勝手ニ話ヲ進メルノーノー」


「あぁ!? 宇宙人は黙って従ってろ!!」


ついにロボットでもなくなった。


「で、どうすんの? 敷地の周りは警備員だらけよ」


「そういえばウゼェほどいたな」


「隙間なく立ち並んでいましたね……」


「お前らよく知ってんな」


「だって捕まったし」


「僕もだ」


「僕もです……」


5人中3人が脱獄犯かよ!


っていうか、一番脱け出しそうなカスさんが未遂であるこの不思議感!


「フッ、俺を裏切ろうとしたからだな」


いや関係ないね。


「だが許してやろう! 俺は心が草原のように広くて穏やかだからな! アッハッハ!!」


「面目ないわね……」


「ありがたやーありがたやー」


「すみませんでした……」


徐々にカスさんが実権を握ってきている!


「つーわけで、俺達も水族館に行くぜ!」


「「「おぉー!」」」


え、正生徒会の人達について行くんですか?


「水族館、行クンデスカ~?」


「ま、正しくはやつらの邪魔をしに行くんだ。天罰を下してやる!」


左様ですか。


「でも富士子、お金持ってないわよ?」


「右に同じく」


「左に同じく……」


私だって持ってませんよ。


「そこは俺に任せとけ。伊達に金持ちやってねーからな!」


「「「さすが極悪生徒会長!!」」」


やってることは善に満ちあふれていますけどね。

全部出してくれるんなら、行ってもいいかなぁ~。


「だけど、どうやって脱け出すの?」


「ロボをオトリにする」


「ナンデヤネン!!」


私の使い道そっち!?


「は? お前じゃねぇよ。マッケンに人型のロボット造ってもらうんだよ」


「ナ~ンダ」


ならいいや。


「トロちゃん、今さりげなく自分のことロボだって認めたわよね?」


「やっぱりロボだったのか!」


「宇宙人ロボ・トロピカル!」


「メモメモっと……」


∑はめられた!!

いちいちメモしないでくださいマッケンさん!


「──まあ冗談はさておき、作戦を説明する。まず最初に、人型ロボで東側の警備員をひきつける」


「「「うんうん」」」


「その間に俺達は、西側にいる警備員をフルボッコにして脱獄する!!」


それ囮の意味ないじゃん!!

結局強行突破かよ!!


「なるほど、それならうまくいきそうね!」


「そんな手思いつかなかった!」


「Good idea……」


この人達はバカなのか? あん?


「とりあえずマッケンはロボの製作を……」


「それならもう用意してあります……」


早っ!

用意周到もいいところだな!

意味ないけど!


「天才すぎるなマッケン! さすが心の友だ!!」


「友情とか嫌いです……ジャイアンとか嫌いです……」


毎度ながら否定された。


「帰りにスイパラ行きましょうよ!」


「イケない太陽~!♪」


それはイケパラ。


「音痴が歌うなカス! スイパラよスイパラ! スイーツパラダイス!」


「あぁ、スイーツ食べ放題の店か」


ナルシーさんが行ったらお店潰れちゃうって。


「ま、時間があったらな」


「よし!!」


店長さん南無南無。


「コミケは!? コミケは!?」


「遠いから無理だろ」


「∑ガーン!!」


ピーラーさん南無南無。


「んじゃ、作戦会議はこれまでだな。明日は寝坊すんなよ!」


「OK!!」


「へいへい……」


「了解です……」


「…………」


朝起きるのめんどいな……。


「トロ!! 来なかったら襲うからな!! 俺達が四方八方から罵倒し続けるからな!!」


その時は素で返り討ちにする。


うん。楽しそうだからいいんですけど、バレたらあとが面倒くさいんですよねぇ~……。




――そして、次の日。


「よし、ちゃんと集まったな!!」


いや〝ちゃんと〟ではない気がする。


ナルシーさんはいつものロリロリフリフリな服だし、ピーラーさんは当然のようにオタクファッションだし、マッケンさんは何故か密林の迷彩服(ヘルメット付)だし、カスさんにいたってはウエットスーツに水中メガネとか足ヒレとか酸素ボンベまでつけてるし、全体的に超怪しい集団じゃん。


私がジャージでないだけまだマシだ。

今だけは毎年誕生日に服をプレゼントしてくる変態おじいちゃんに感謝しよう。


「マッケン、ロボはどこだ?」


「今来ますよ……」


マッケンさんが手元の操縦機を操作すると、空から何かが飛んできました。


あれは……。


「「「「鉄腕アトム!?!?!?」」」」


そう、それは、あの有名な手塚ロボットでした。


「すげぇ! すげぇ!!」


ピーラーさんが興奮しています。

コミケに行けない分、いいものが見れましたね。


「本格的ね~」


「これならいい囮になるな!」


だから無意味ですって。


「では、発進しますね……」


空飛ぶロボットは、東側のほうへ飛んでいきました。


すると、反応はすぐにありました。


『∑な、なんだあれは!?』


『アトム!? アトムじゃないか!?』


『アニメの中なら脱け出してきたんだ!』


『そんなことがあり得るのか!?』


『この世に不可能はない!!』


『そ、そうなのか!? そうなのかアトム!!』


『おい、お前らもこっち来て見てみろよ!! アトムが飛んでるぜ!!』


『は!? マジか!? どこどこどこどこ!?』


『うわっ、ホントだ!!』


『どこから来たんだ!?』


『アトムぅぅぅぅ!!!!!!』


オッサン達の中に眠るかすかな童心が呼び醒まされたようです。


「……ねぇ、これって西側に回らなくてもいいんじゃない?」


「アトムっ!!」


「堂々と北の正門から出るか!」


「アトムっ!!」


「ソレダト~正生徒会ト鉢合ワセシマスヨ~」


「アトムっ!!」


「ああそうか。じゃあここの壁を乗り越えるか!」


「アトムっ!!」


「有刺鉄線があるから無理よ!!」


「アトムっ!!」


「根性で登れ!!」


「アトムっ!!」


「富士子の美肌に傷がつくじゃない!!」


「アトムっ!!」


「じゃあどうすんだよ!!」


「アトムっ!!」


さっきから約一名うるさいのがいるんですが。


「……心配には及びません……」


「アトムっ!!」


「「「え?」」」


「アトムっ!!」


「……芸術は……」






「……爆発ですっ……!!」






∑ドガアァァァァァァーンッ!!!!!!!






「「「∑えっ!?!?」」」


「アトムぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?!?!?」


爆発した!?


なんか部品みたいなものが飛んできたんですけど!


「これで敵は殲滅しました……追っ手が来る前にいきましょう……」


「「「……は、はいっ……」」」


「ア、ア、アト、アトっ……!!」


カスさん、そこで腰を抜かしているヲタクさんを担いできてください。

しばらくは戻って来なさそうです。


爆破で壁が消滅したところから敷地外に出てみると、そこには40人くらいの警備員さんが倒れていました。

夢は儚いですね。


「バス停はどっちだ?」


「あっちよ。──あっ、正生徒会のやつらがいる!」


「ヤベっ、隠れろ!」


私達は慌てて茂みに隠れて様子をうかがいます。

正生徒会の皆さんは、ちょうど今来たバスに乗り込んでいきます。


「ねぇ、富士子達も行きましょうよ!」


「アホ! 同じバスに乗ったらバレちまうだろうが! 俺達は次のやつに乗る!」


「あ、そっか」


ちょっ、カスさん、酸素ボンベが邪魔!

ナルシーさんも、あんまり押さないでください!

ピーラーさんのリュックに刺さってるポスターが私の顔に刺さってる!


「…………」


ハッ!

マッケンさんが警備員の人達に紛れて死体ごっこをしている!

溶け込んでいるつもりかもしれませんが、迷彩服が逆に目立っていますよ!


っていうか、正生徒会の人達はさっきの爆発音を聞いていなかったのか!?

絶対絶対完全にスルーして行きましたよね!?

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