魚群、現る―(2/13)


※~[盛利桃子]視点~※



「──じゃあ、明日の休暇はどこへ行こうか」


私達は今、校舎五階の正生徒会室で会議という名の談笑会をしております。

毎日毎日問題児の指導に手を焼いてストレスが溜まっているであろう私達を見兼ねて、たまには息抜きにみんなでどこかへ出かけようか、と会長が提案されたのがきっかけで、明日は正生徒会のメンバーでお出かけすることになったのです。


さすが会長です!!

私の王子様です//!!

今日も笑顔が素敵です//!!☆


「じゃあ野球しに行こうぜい!! 俺が4番でピッチャーだぁ!!!!」


「それは無理だよマサハル君。明らかに人数不足だ」


「ならここの生徒を誘おうぜい!! みんなで熱い青春を駆け抜けるんだぁぁぁ!!!!」


「それでは骨休みになりませんわ。相変わらず頭の悪い男ですわね」


世麗奈、失礼だよ……。


「俺は野球ができれば幸せだ!! 勉強なんか二の次三の次だ!!」


「勉強以前の問題です」


「まあまあまあ、悪口はダメだよ世麗奈くん。マサハル君も、勉強は大事だからね」


「申し訳ありません」


「俺は勉強が大事じゃねぇなんて言ってねぇぜい!! ただ物事には優勢順位ってものがあってだな!!」


それを言うんなら優先順位です。


「どのみち野球は無理だよ。5人じゃやりようがないからね」


「それもそうだな! 2.5人vs2.5人なんて楽しくねぇな!!」


楽しい楽しくない以前にあり得ないよ……。


「わたくし、日焼けはしたくありませんわ。できれば屋内でお願いします」


「じゃあバッティングセンターに行こうぜい!!」


「嫌です。バッティングなどしたくありませんし、汗もかきたくありません」


「なら野球観戦にしようぜい!! ドームなら日も当たらねぇ!!」


「少し野球から離れなさい!! 世界は野球を中心に回っているわけではありませんのよ!?」


「俺を中心に野球が回っているんだぁああぁあぁぁ!!!!!!!!!!」


「わたくしには関係ありません!!」


この二人ってよく言い争いするんだよね……主にマサハル君の発言が問題で。


「……ま、参ったな、また始まっちゃったよ; 元気なのはいいことなんだけどね;」


会長が困ってる!!

なんとかしないと!!

でも何もできない!!


「しょうがない、落ち着くまで僕らだけで話を進めようか」


∑えっ!!

会長と二人きりでおしゃべり!?

トロピカルヤッホー!!☆


「……わたし……いる……」


∑わっ!!

ビックリしたっ!!

守護加美さんいたの!?

っていうか心読まれた!?


「わ、わわわかっていますよ!? 別に忘れてたりしていませんよ!?」


「……嘘……」


「…………;;」


この人苦手なんですよね……凛・トロピカルさんと同じくらい苦手。


「ん? どうかしたのかい?」


「なんでもありません!!」


会長にホラ吹きだと思われたら一巻の終わりだっ!!


「ならいいんだけど……。二人は、どこか行きたいところはあるかい?」


会長と一緒ならどこへでも!!

例え火の中水の中草の中森の中!!

土の中雲の中あのコのスカートの中!!


「──って変態か!!」


「∑えっ!?」


ハッ!!

しまった!!;;


「な、何が変態なんだい? また今田くん達に変なことでもされたのかい?」


「ち、違いますっ!! 今のはなんでもありません!! どうぞお気になさらず!!!!」


「……?;」


心底バカだぁー!!;;


「……動物……」


「え?」


「……アニマル……ウォッチング……」


なぜ英語で言う……。


「あ、動物を見たいんだね? ということは動物園かぁ」


動物園……は苦手だなぁ。

匂いがちょっと気になる……。

あとゴリラは見たくない。


「あっ、そういえば、動物園って大抵屋外ですよね? 屋外だと、世麗奈の要望が聞き入れられないことになると思うのですが……」


「あ、そうか、それがあったね」


「わたくし、日焼けは断じて許しませんわ」


「日焼け止めを塗ってもダメなのかい?」


「少しは焼けてしまいます!」


「俺っち小麦色の肌は好きだぜい!!」


「あなたの意見など聞いていません!」


「ガングロならどうだっ!!」


「黙らっしゃい!!!!!」


世麗奈ももう少しボリューム下げて……。


「──という意見があるんだけど、どうしても動物園がいいのかい? 加美くん」


「……は?」


「え?」


いま一瞬、加美さんがガン飛ばしてきた気が……!!

私にね!


「……動物……水の……」


「「水の動物?」」


ま、まさか!!

カッパ探索ということですか!?


「……ちげぇよ……!!」


∑わっ、また心読まれた!!

恐るべし読心術!!;;


「え? 水の動物じゃないのかい?」


「……so……水の動物……」


私が変なこと考えたから会長と話が噛み合ってない!!


「だよね? 水の動物って何かな。まさかカッパのことだったりして。アハハ」


∑こんなところで会長とシンクロしちゃった!!

嬉しいような嬉しくないような……。

っていうか会長!!

まぶしい太陽の如く笑ってないで加美さんを見てください!!

キレてますから!!;;


「……キレてないっすよ……」


まさかの長州小力!?


「カッパなはずないよね、ごめんごめん」


苦笑する会長もまた画になるな//


「水の動物とは、魚のことではありませんの?」


マサハル君を倒したらしき世麗奈が入ってきました。

これでマサハル君が68戦中68敗です。

今日は泡を噴いてないだけマシかな。


「あ、なるほど! とても単純な答えだね」


「気づくのが遅いですわ」


「…………」


沈黙ってことは合ってるんだ。

でも、なんで最初から〝魚〟って言わなかったんだろ。


「水族館なら屋内ですから、わたくしは賛成ですわ」


「いや!! 釣りっていう線もあるぜい!! 釣った魚をその場でさばいて──」


「お黙り!!」


∑ゴンッ!


……やっぱり噴いちゃった……。


「加美くん、魚をどうしたいんだい?」


「……刮目……」


「「刮目?」」


「ほら、やはり水族館のことですわ」


魚拓だと思ってしまった私はラリアットかな……;;


「水族館かぁ、いいね。僕は賛成だよ」


「会長が賛成なら私も賛成です!」


「わたくしも賛成です」


「────」


「マサハル君、大丈夫かい?」


「このバカハルに反対する権利はありませんわ」


世麗奈、人の頭を足で小突いちゃダメだよ……。


「じゃあ決まりだね」


会長! 世麗奈の行為にツッコミはナシですか!?


「加美くん、どこの水族館がいい?」


「……──……──……」


加美さんの目がうつろになってる!?

どうしたんですか!?


「どこでもいいのではなくて? それ以前に、この辺に水族館は一つしかありませんわ」


「ああ、コージ水族館、だよね? あそこは9時開館だったかな」


「確かそのはずですわ。入場料は一人1000円のはずです」


「休館日は毎週火曜日だった気がする。ここからだとバスで行ったほうがいいかな?」


「そうですわね。バス代は往復400円ですわ」


世麗奈が会計手帳にメモってる。

学校の予算で行くんだ。

っていうか二人とも、なんでそんなに詳しいの!?


「じゃあ、集合は8時半に門の前でいいかな?」


「問題ありませんわ」


「了解です!」


「…………」


「────」


トントン拍子で決まっちゃったけど、明日は会長と一緒に水族館に行けるんだ!

緊張するなぁ~どんな服着ていこう……男性と出かけるのなんて初めてだから、あとで世麗奈に相談しないと!


「──ああぁぁあぁぁぁ!!!!!!」


「「「「∑!?!?!?」」」」


マサハル君が飛び起きた!!


「ど、どどどどうしたんだいマサハル君!?」


「今! 俺っちの鼻に虫がとまってたぜ!!!?」


「「「虫?」」」


そういえば、窓から何か出ていったような……。


「虫ごときで大声を出さないでください!」


「俺っちは虫が嫌いだ!!」


え、マサハル君って幼虫のつくだ煮が好物って言ってなかったっけ?

栄養が詰まってるから大好きだって……。


「男が虫嫌いだなんて聞いたことありませんわ!」


「差別! それは男女差別だ!!」


「男女平等なんて口だけの見栄っ張りです!」


「世麗奈っちの考え方は昭和だな!! 時代遅れだぜい!!」


「時代遅れはあなたでしょう! 丸刈り野球少年なんて古くさいですわ!」


「俺は丸刈りじゃねぇぇぇ!!!!」


私は好きだけどなぁ、野球少年の丸い頭。


「……また始まっちゃったね。僕達は先にお開きとしようか」


「そ、そうですね、キリがなさそうですし……」


世麗奈とマサハル君の喧嘩はちょっとめんどくさいけど、そうなると会長が私に話しかけてくださるから幸せ//!!


「じゃあ、明日の8時半に門の前で。体調管理には気をつけてね、桃子くん、加美くん」


「はい! 会長もお気をつけて!」


「……ウィ……」


会長と水族館デート!!

二人きりになれるチャンス!!

もう今から楽しみ!!//


鼻血が出ないように気をつけないとね……;;

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