狂愛人間、現る―(2/21)


放課後。

私とカスさんとナルシーさんとピーラーさんとマッケンさん(要するにいつものメンバー)は、教頭先生に喧嘩を売りにいった罰として掃除当番を押しつけられていました。


「クイックルハイパー!!!!」


「何よあの天パーオヤジ!! 体育の授業を週一にしてって頼んだだけなのに!!」


「頭のかてぇ天パーって初めて見たぜ!」


「お二人さん……ちゃんと手も動かしてください……」


体育の授業は週三回あります。

運動が嫌い&苦手なこの人達には不満があるようです。


「っていうか担任が悪いのよ! 生徒の意見を尊重して協力するのが担任の役目でしょ!!」


ちなみに、我がB組の現担任は4代目です。

2代目の大仏教師はカスさんに額のイボを潰されて退職し、3代目の女性教師は約2名のセクハラに耐えきれず退職されました。

そして現担任の4代目教師は、ひょろっとした立ち姿のドジョウ先生です。


「使えねぇ教師はまた消しちまおうぜ」


「俺のファイヤースティックが唸るぜぇ!!」


黙れセクハラども。


「あーあ。富士子、お腹が空いたわ。もう帰りましょうよぉ」


「まだ汚れが抹消できていません……あなたに帰る権利はありません……」


「はいはい……」


真面目なのかどうなんだか。


「明日は土曜日だぜ!! 学校休みだぜ!! 全員テンション上げていこうぜぇ!! ヒッヒッヒィーハァー!!!!」


「カスサン、ウルサイデ~ス」


学校は土日がお休みです。

といっても外出は禁止なので、私達は自室でグダグダしているかロビーでダグダグしているかです。……ダグダグってなに。


あ、体育館や大浴場は自由に使えます。


「そうよ! 明日は土曜日じゃない! お菓子パーティーだわ!!」


ナルシーさんの土日は四六時中お菓子パーティーを開催中です。


食堂のおばちゃんであるナルシーさんのおばあちゃんがお菓子をたんまりと買ってきてくれるそうです。


私も何度か招かれましたが、ナルシーさんはお菓子の吟味をしながらずっとお菓子の評価やら豆知識やらを話しています。


お菓子以外の話題はほとんど口にしません。


「よしっ、お掃除頑張るわよ!!」


「菓子ばっか食ってるからデブるんだろ」


「富士子はグラマラスなの!!」


「へいへい」


本人に直接聞いたことはありませんが、先週の土曜日にピーラーさんの部屋を突撃訪問したカスさんは、一人で激しく踊るピーラーさんを目撃したそうです。

……えぇ、だいたい予想はできますよ。

ピーラーさんのお部屋には、きっとたくさんの可愛いフィギュアが飾ってあるのでしょうね。


「お掃除は隅々まで……。四角いところを丸く掃いてはいけません……」


マッケンさんの土日の過ごし方は、本人に聞いたことがあります。

簡単にいうと、研究・開発をしているそうです。

いつぞやの録音機のようなものを。

今は、監視カメラを搭載した小型ヘリコプターを開発中らしいです。

機材をどうやって調達しているのか謎です。


「邪魔な大人は燃やして肥やしにしてやるぜ!!」


カスさんの土日はいろいろです。

騒ぎ呆ける日もあれば、部屋に引きこもってる日もあるそうです。


「カスサン、シュレッダーニ、カケマスヨ~」


「ごめんなさい」


ちなみに私の休日の過ごし方は……秘密です☆

また後ほどご紹介します。


「おいマッケン! もうそろそろいいだろ!」


「えー………………まあ、よしとしましょうか……」


いつの間にかマッケンさんに承認権が。


「よしテメェら! 用具を片づけろ! 早く!! 迅速に!!」


いちいち命令するな!


「マッケンも入るか!?」


「あ、いえ……今日は帰ります……」


〝今日は〟って何!?

ロッカーに入る癖まだあったっけ!?


「ならナルシーが……ああ無理か」


「できるわよ!」


いや無理でしょう。

あーそんな無理やり押し込めたら体が……。


「痛い痛い痛い!!!!」


だから無理ですって。


「早くもっと押して!!」


入る気!?

やめたほうがいいって!


「これ以上は入らねぇよ!」


「やだ押して!!」


カスさんとピーラーさんが二人がかりで押し込んでいますが、体の半分も入っていません。


そんなことをしている最中、マッケンさんは窓側に寄って屋上を見上げていました。


「……マッケンサン、ドーカシマーシタカ?」


「あ、いえ……。ちょっと……視線を感じたものですから……」


「視線?」


不思議に思い、私も窓越しに屋上を見上げてみました。

が、特に気になるものはありませんでした。

強いていえば、カラスがいるくらい。


「……鳥ノ視線ジャナイデスカ?」


「なんだか……殺気も感じたんですけどね……」


「ソコニ美味シソウナ人ガ、イマスカラネ~」


ナルシーさんを見ると、汗だくになりながらまだ頑張っています。

ちょっと細くなってきています。


「……そう、ですね……」


実はこの時、私も嫌な視線は感じていました。

ですが、お騒がせ集団となってしまった私達は、多くの生徒や先生方から反感を買っていたため、いつものことだと軽く流していたのです。


それがまさか、凶兆であったということにも気づかず……。


「もうちょっとだ!! もうちょっとで扉が閉まるぞ!!」


「僕の全身全霊を注ぐ!!」


「んぐぐぐぐぐっ!」


まったく何をしているのやら。


「ファイトォォォォ!!!!!!」


「いっぱぁぁぁ~つ!!!!!!」


「んあああああああああ!!!!!!」


カチャン。


あ、閉まった。


「っしゃあぁぁぁぁぁ!!」


「やったぜ!! ラスボス撃破だ!!」


「ん~ん~ん~!!」


喜ぶのはいいんですが、床はちゃんと拭いておいてくださいね。


ナルシーさんの汗で水溜まりができていますから。


「んじゃ、帰るか」


「そうだな」


ちょっと!

やるだけやって放置ですか!?


「んごおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


ロッカーの中で悪魔が叫んでる!

フィットしすぎて身動き取れないのかな。

っていうかなんで入ったんだろ。


「玄関まで競争だ!! よぉ~い、どん底っ!!」


こらぁ!

逃げるなぁ!


「ずりぃぞカス!!」


「カスさんフライングです……」


ピーラーさんもマッケンさんもさりげなく無視するなぁ!

後片づけ手伝えぇ!


「待テコラカスゥゥゥ!!!!!!」


私が叫んだら、カスさんはちゃんと帰ってきました。

ちゃんと掃除もしてくれました。

私は先に寮へ戻りました。

着替えました。

ゴロゴロしました。

アラームをかけて一時間半ほど寝ました。

アラームが鳴りました。

止めました。

お腹が鳴りました。

起きました。

部屋から出ました。

鍵をかけました。


「――きゃあああぁぁぁぁぁ!!!!!!」


悲鳴が聞こえました。


……誰だ、面倒を起こしてるのは。

しかも聞き慣れた悲鳴だし。

というか聞き飽きた悲鳴だし。


「助けてぇぇぇ!!!!」


私の進行方向上避けられないではないか!

「……仕方ナイデース……」


私は嫌々ながら声のするほうへ駆けていきました。


するとそこには……。


「やだキモいウザいクサい離れてよぉ!!!!」


「早く答えなさい!! 早く早く早く早く早く早く!!!!」


あの気持ち悪いオッサンに問い詰められているナルシーさんがいました。

嫌な予感はしたんですよねー。


「知らないわよ!! そんなこと自分で聞きなさいよ!!」


「それができないからあなたに聞いているんじゃない!! ちょっとスタイルが良いからって調子に乗るんじゃないわよ!!」


あ、ナルシーさん、中途半端に細くなったままだ。

っていうかロッカーから出られたんだ。


「女の嫉妬は醜いのよ!! 悔しかったらあなたもナイスバディになってみせなさい!!」


あのケバ粧、女だったんだ。


「キィィィーー!!!! 今に見てなさい!!」


あ、どっか行った……。


何聞かれてたんだろ。


「ああもう気持ち悪い!! 気持ち悪すぎよあのブサ女!!」


聞くと、あのオジサンみたいな女の子は、〝カスさんは何故あなたみたいな裏表がある子と一緒にいるのか〟を聞いてきたそうです。


私は思いました。

カスさんに、青い春ではなく黒い春が近づいてきているのではないかと。


「ウザいウザいウザい!! もぉ~腹立つ!!」


「マーマー……」


これはカスさんに言うべきなのでしょうか。

えぇ、言うべきだと思います。

だって面白いものが見られそうですから。


「早くご飯を食べましょ!! お腹が減るとイライラする!! 富士子、イライラする!!」


ナルシーさんってご飯食べてる時以外はいつもイライラしてるイメージがあるんですが。

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