第3節【守りたい】
狂愛人間、現る―(1/21)
──突然ですが、六月になりました。
学校の環境にも慣れてきたのか、入学当初と比べると、皆さんやんわりと落ち着いてきた今日この頃。
破壊活動を行う人はまだちらほらと見受けられますが、カスさんの暴走やらも幾分かマシになってきて、正生徒会との激突は3日に一度くらいのペースになりました。
毎日激闘を繰り広げていた頃に比べると、大した進歩です。
そして、今日はいたって静かなお昼休み。
私は、返すのを忘れていた本を返しに図書室へ行きました。
守り神さんも誰もいなかったので本はカウンターに置いておきました。
面倒な人に出会わずに済んでよかったです。
廊下をトテトテトテと歩き、さっさと教室へ戻ります。
――すると。
「ちょっとあなた」
誰かが声をかけてきました。
私は条件反射で振り返ります。
そして微かに眉をひそめました。
そこには、私と同じ女子用の制服を着た──??な人が立っていました。
カチューシャでオールバックに留めた前髪。
カラスの翼のようにバッサバッサと動くまつ毛。
キラキラとラメがまぶしい紫の瞼。
さくらんぼを連想させる桃色チーク。
ボッテリとグロスを塗りたくった真っ赤な唇。
そんなバケ化粧でいて、アントニオ猪木のようなオッサンに見える、そんな人。
笑いを堪えるのに必死でしたが、世の中にはいろんな人がいるのだと自分に言い聞かせてなんとか踏ん張りました。
人間は顔じゃない、んですよね?
「……ナ、ナニカ?」
今時こんな化粧してる人っているんだ。
バラエティー番組でしか観たことないよ。
っていうか、この学校、化粧禁止じゃなかったっけ?
「あなた、B組の人よね?」
「イカニモ」
喋り方は女性だけど、声は野太い。
カマカマかな?
カマカマかな!?
「あなた、凛・トロピカルさんよね?」
「イカニモ」
なんで知ってるんだ?
「あなた、よく5人で行動してるわよね?」
「イカニモ」
気づいたらそうなっていますね。
だいたいは問題を起こしている時ですが。
「その5人の中に、カリオス今田くんっているわよね?」
「イカニモ」
カスさん、何やらかしたんだろ。
「それ、なんで?」
「……ハ?」
なんだこの人、いきなり表情が強ばったぞ。
怖いんですけど。
「なんで一緒にいるの? なんで一緒にいるの?」
なんか近づいてきた……香水くさっ。
「なんで? なんで? 何やってんのあなた達?」
ちょ、ちょっと待って。
怖い怖い怖い。
あなた瞳孔開いてますよ。
「答えなさいよぉぉぉ!!!!」
ギャアァァッ!!!!
肩掴まれたぁ!!!!
骨が砕けるぅぅ!!!!
「ア、アノ……チョットッ……!」
この人よく見たら鼻毛出てるぅ!
「早く早く早く早く早く!!!!!!」
唾飛んできたぁ!
ヤダ汚い!
いま口開けたらヤバイよ!
「答えねぇとブッ飛ばすとクソアマぁ!!!!!!」
怖っ!
しょうがない、蹴り飛ばして逃げよう。
じゃないとこっちがやられる。
せ~の……!
「──ゴラァァァァァッ!!!!!!」
「∑へぶしっ!?」
うわっ!!
キモいオッサンが吹き飛んで壁にめり込んだ!!
蹴ったの私じゃないよ!?
「オラのナマカに何ずんだぁ!!」
カスさんだ!
でもその言葉どうした!?
「いったぁっ!!!!」
オジサン、頭から出血してる……。
でも不思議と謝罪の意が湧いてこない。
「オラ達のトロ様に何ずんだ!! トロ様はでーせつなでーせつなB組の保存食だず!!」
こいつ、後でシバく。
「∑はっ!! あ、あああああなたはっ!!!!!!」
オッサン動揺しすぎ。
「カリオス今田くんっ!!!? ──いやあぁぁぁぁッッ!!!!」
逃げた!?
なんだあの人!?
「∑オイゴラァ!! 話はまだずんでねぇざぁ!!!!」
もう行っちゃいましたよ。
でも追いかけないでくださいね。
あれはきっとバッチィものです。
「トロ!! あいつ誰だ!?」
「アイドントノウン」
私が知りたいです。
「変なやつだったなぁ。俺が来なかったら、お前食われてたぞ!」
食べようとしてたのはお前だろ。
「ワターシ人間デース。大トロデモ中トロデモアリマセーン」
「んなことわかってるっつーの! お前なんか良くてバランだ!」
作り物の葉っぱ!?
食べ物でもないじゃん!
「刺シマスヨ?」
「ごめんなさい」
意外と痛いんですよ、バラン。
「ま、とにかくお前が無事でよかったぜ。――んじゃ、オラは畑作りの続きしてぐっがらよ!」
ああ、だからそんな変な喋り方してるんだ。
っていうか、畑作りなんてどこでしてるんだろ。
「教室で大人しくしてるんだず!!」
先に顔洗いに行ってきますよ。
まったく……この高校はまだまだ不可思議が絶えませんねぇ。
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