第57話 それから


 何ともしまらない最後を迎えた継承戦争の結果、フォーリッツ先王クラントから王位を取り戻したアラキスさんでしたが、正式な継承には少々手こずっているようでした。


 クラント派の生き残りを黙らせて、自分の派閥の貴族の力を高めてと昼も夜もなく忙しい日々を送っているようです。


 そうそう、王に捕まっていた少女たちも全て解放され、それなりの口止め料を貰ってからうちの国へ移住してきました。


 あちら側にいると変な目で見てくる人がいるので、その回避策のようです。幸いにもまだ子どもということもあり獣人達の偏見も少なく、むしろ被害者ということでみんな同情的になったのか問題なく受け入れてくれました。


 彼女たちが少しでも幸せな人生を送れるといいのですけど。


 それから、大使館から王都へと居を移した彼等からはちょくちょくと手紙が送られてきています。戦争終結後、1ヶ月が過ぎる頃には何とか王位を手中に収めたアラキスさんの主導によって、ムーンフォレスト王国との国交が樹立。


 同時に友好条約も結ばれ、晴れてご主人さまも王族デビューを飾ることになりました。


 捕まえてあった冒険者たちはそのタイミングに合わせてフォーリッツの冒険者ギルドへと直で送り返しました。お返事は当時のギルドマスター辞職のお知らせと、次のマスターから是非うちの国にも支部を置かせてほしいという打診です。


 ここまで露骨だと逆に笑えてきますが、交渉担当のリアラさんによると税金その他に関してかなり有利な条件を引き出せそうな感じだそうです。というより、前マスターの辞職まで視野に入れた内部での画策があったのではないかというお話。


 まだまだ落ち着くまではちょっと掛かりそうですが、みんな一生懸命でどこか楽しそうなのできっと良い事なのでしょう。


 クラリスさんの伝手により近くの魔法国家とも国交が出来。国際的にも少しずつこの国が認められてきているので、自分たちが頑張って作った"故郷"が世界に認められることが嬉しいのかもしれません。


 一段落した所で……不幸なことに別働隊から出てしまっていたこちら側の犠牲者の慰霊も終わりました。そこまで終えて、やっと人心地つくことが出来るようになったのです。


 色んな事がありましたが、未だ忙しくはあれど書いて字のごとく、これでまた森に平和が訪れたのです。



「なのに何でお前がここにいるんですか黒まな板!!」

「うるさいの、親善大使に選ばれたんだからしょうがないの」


 王城の一室、ボクとご主人さまは応接間にて今日から駐留する事になるフォーリッツ王国と魔法国家アルバストの親善大使の相手をすることになっていたのです。


 しかし、しかしよりにもよってフォーリッツの大使がこの幼女だったのです。


「親善大使!? 宣戦布告の間違いなのです! 受けて立ちますよご主人さまが!!」

「折角平和になったのに戦争をふっかけるなアホ」


 べちんと頭を叩かれました、酷いのです。


「ふん、やっぱり馬鹿なの、尻だけじゃなく頭も軽いの」

「にゃにおう!?」


 この駄幼女、あれほど叩きのめされたのにまだ懲りてないのですか!


「いい度胸です……そんなに戦いがお望みならまたぶちのめしてやるのですよ!」

「なん――――っ!!!」


 不敵に言い放つと、すぐにボクの顔を睨みつけた幼女が何やら言おうとしましたが、急に固まって一気に顔を真赤にさせると手で隠しながら俯いてしまいました。


「ふ、ふざ、ふざけるななの、だ、誰がお前の相手なんかするかなの」


 あ、あれ、なんか反応がおかしいんですけど。変なフラグが立ってませんか?


「自業自得だ、きちんとケリつけろよ……」

「何でボクが浮気した間男みたいな感じになってるんですか!?」


 納得いかないのです!


「貴方やっぱりエルフじゃなくてサキュバスだったんじゃないの?」

「どういうことですか!?」


 呆れたように笑いながらお茶を飲んでいたもうひとり。魔法王国の親善大使というのはクラリスさんでした。


 どうやら夫になったコリンズさんと一緒にうちの国に大使として赴任することになったようです。近々行われる結婚式にも招待されてたりします。


「噂になってるわよ、王妃はキスだけで氷の心を持つ魔術師、黒のフルールを腰砕けにしたって」

「~~~~!!」


 ちなみにこの黒まな板の名前です。ロウ・フルール……なんか生意気ですね。というか頬を赤らめながらいやいやとかぶりを振らないでほしいのですが。


 仕方ありません、ここはあの人に犠牲になってもらいましょう。


「どれだけ熟練してるのかって、一部の間で下世話な話が流行ってるみたいよ?」

「あれはボクのちからではありません、ご主人さまに無理矢理仕込まれたものです」

「おい……」


 しれっと言うと、幼女が真っ赤な顔を一気に青くしながら慄いた様子で隣に座っていたご主人さまを見ました。


「――が、がちなの……!? お、恐るべしムーンフォレスト王なの……」


 ちょろいのです。 



 親善大使どもをそれぞれの邸宅へ追い払うと、執務室に戻ったご主人さまについて書類仕事の手伝いをします。


 色々やることは多いのです、こちら側にも死者が出てしまいましたから、その保障金を用意したり残された家族や壊された物の補填を考えたり。


 リアラさんが大体の事を済ませているので後は決済を承認するだけなのですが、書面でもって改めて親しい人が死んだことを知らされるのは地味にショックがあります。


 唯一の救いは獣人達が武を尊ぶ気質があり、慰霊もしっかり行ったので『"自分たちの国"の為に戦って死んだのだから』と悲しみこそすれ、恨みには思われて居ないことでしょう。


 ただし、それは獣人達だけのようです。……最近は執務が終わると、ご主人さまはさっさと夕食を済ませて寝室に戻って寝てしまうようになりました。


 戦争が終わってからずっとこんなかんじで、からかい半分に言っていたらしいボクへの口止めや、ルルたとのお相手も気が乗らないようで全くしていません。


 ふたりとも最初は欲求不満でイライラしていたようですが、ご主人さまの仕事して寝るだけの生活サイクルを見ている内に自分の感情よりも心配が勝ってきたようで、今はただただ心配しています。


 そんな彼等を見てられなくなるとか、ボクも大概甘いというか……何だかんだで情があるんでしょうね。まぁ当たり前ですか、ここまでずっと一緒にやってきたのですから。


 湯浴みを済ませてパジャマに着替えると、枕とぶどう酒を抱えてご主人さまの部屋へと直行します。フォーリッツから送られた上等なやつです。


 ……どうやらまだ戻っていないようですね。整えられたベッドの上に枕を放り投げると、適当に棚からグラスを出してぶどう酒をふたり分そそぎます。


 これからやることは、素面じゃ到底出来そうもないのでちょっとだけお酒の力を借りるのです。


「……ソラ?」


 怪訝そうな顔で扉を開けたご主人さまが、簡易テーブルに腰掛けてワインに口をつけるボクを見て眉間の皺を深めます。


「お邪魔してるのです」

「……ふぅ、こんな所で酒なんて飲んでると、襲って食っちまうぞ」


 冗談めかして言うご主人さまの言葉の裏には拒絶が潜んでいました。ま、いつもならそんな事言われたらボクはすぐに逃げ出すでしょうからね。でも本気じゃないのは態度で解ります。


「どうぞ」

「…………」


 なので余裕ぶってそう返すと、眉間の皺が更に深くなりました。ちょっと不機嫌ですね。


「……悪い、正直そんな気分じゃないんだ」

「……でしょうね」


 どこか諦めたように呟いたご主人さまでしたが、予想の範囲内の反応でした。不審そうにボクを見ます。


「頼む、暫くひとりにしてくれないか」


 暫くして、ボクが動かないことを察したのか、ご主人さまがボクの腕を掴みました。


 思ったよりも強い力に驚きますが、しかしながらそう言われて素直に従う事は出来ません。逆に腕を引きながらベッドに倒れ込みます。ボクの行動に驚いたのか、少し踏ん張ったものの一緒に倒れこんだご主人さまの頭をそっと胸に抱え込んで頭を撫でます。


「ソラ、何を……」

「ボクには、ご主人さまの気持ちは解りません」


 制すように言葉をかぶせて、抱きしめる力を強めます。


「自分の命令で仲間を死なせた罪悪感とか、苦しさとか。上に立つものの責任の重さとか、辛さなんてまったく解りません」


 ボクは所詮、何の力も才能もないお子様です。ただ守られてきたばかりのボクが、気持ちは解るなんて軽々しい言葉は使えません。


「ご主人さまの背負ってる重荷なんて、ちょっとでも持ったらすぐに潰れてしまいます。ご主人さまの感じている辛さなんて、少しでも分けられたら心が砕けてしまいます」


 どうしようもなく弱っちい、そんなことは誰に言われるまでもなく自覚しているのですよ。


「だけど、泣きたいときに胸を貸してあげる事くらいなら出来ます。自分じゃどうしようもない気持ちを受け止めてあげるくらいなら出来ます」


 確かにご主人さまはチート野郎です、とんでもない力の持ち主です。でも生まれも育ちも平穏な日本だったのです。ボクと同じ普通の男子高校生だったのです。


 この世界でつらい思いをしたのは助けられる前のボクの方でしょう。でも助けられた後のボクほどのんびりと何も考えずにいられた訳じゃないでしょう。


「惚れただの好きだの愛してるだの、歯の浮くような言葉を囁やけるほどボクを思ってるなら……こういう時くらいは頼って甘えるのですよ、このお馬鹿」


 ご主人さまからの返事はありませんでした。でも、静かにボクの背中に回された手が痛いくらいに身体を抱き寄せてきたので、ボクは苦笑しながらご主人さまの頭を撫で続けるはめになったのでした。




◇◆ADVENTURE RESULT◆◇

NO BATTLE

◆【ソラ Lv.105】

◆【ルル Lv.43】

◆【ユリア Lv.46】

◇―

================

ソラLv.105[1057]

ルルLv.43[431]

ユリアLv.46[461]

【RECORD】

[MAX COMBO]>>40

[MAX BATTLE]>>40

【PARTY-1(Main)】

[シュウヤ][Lv125]HP3700/3700 MP4560/4560[正常]

[ソラ][Lv105]HP70/70 MP1685/1685[正常]

================

「はぁーーーーまったく世話のやけるチート野郎なのです」

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