第20話 残念な結末


「そいつは半野人ハーフゴブリンだ、ろくな事しないに決まってる!」

「治療に協力したのだって言い逃れの為かもしれない」

「やっぱりそいつらが野盗を手引きしたんじゃ……」

「だから違うって言ってるだろう!」

「あの……いいですか?」


 ボク達が犯人だと主張する茶髪くんと、ボクが実は野盗とつながってるんじゃと疑う隊商の代表格。裏切り者はどいつだと憤怒するエレキさん、違うと主張するご主人さま。


 野外だなんてワイルドです、ずるいですと小声できゃんきゃん騒ぐうちの色ボケたメスども。カオスの極まる空間を一刀両断する声が上がりました。


 斬り込んできた勇者は優しそうな青年と、可愛らしいという言葉が似合う僧侶の彼女ペアのうち僧侶さんの方。ちらちらとボクを見ながら控えめに主張します。


「そもそもその子、本当にハーフゴブリンなんですか? それにしては随分と見た目も小奇麗で可愛らしいし、お行儀も良いし……何よりゴブリン族は魔法を使えませんよ」


 ナイスフォローというべきか、余計な事をと毒づくべきか悩みます。


 彼女のフォローは決してプラス要素だけではありません、ボクの種族がバレたらやばい連中に目をつけられる可能性もあります。いくら奴隷を所有する権利が守られていると言っても、より上位者が欲しがればねじ曲げられることもあるでしょう。


「言われて、みれば……」

「でも、他に何の種族だっていうんだ?」


 裏切り者探しの話題はどこへ飛んでいったのか、マントに隠れるボクの……特に耳に無遠慮な視線が集まります。尖った耳という特徴を持つ種族は少ないです、最も有名なエルフ以外ではドワーフ、ゴブリン……ですがどちらも魔法に適性を持ちません。


「……まさか、エルフ?」

「いや、そんな馬鹿な、エルフはとっくに絶滅したって」


 隊商の一人がぽつりとつぶやくと、言葉で生まれた動揺が広まります。うぅ、まさかこんな簡単にバレるとは、情報さえ揃ってしまえばこんなものなのですね。


 因みに奴隷商を騙し通せたのは「この人になら安心して身を任せても良い! という相手が見付かるまでは粗野なゴブリンの振りをしておきなさい」とアドバイスしてくれた、隣の商品牢にいた元冒険者のお姉さんのおかげです。


 面倒見の良い方で幼い奴隷たちに慕われている方でした。尤もそのせいで子どもたちへの見せしめの為、ライブで魔獣の慰みものになった挙句物理的に食われてしまいましたが。


 今にして思えばあれが完全に奴隷として屈服させられた瞬間でしたね。あの光景が脳裏に焼き付いてるので、あんな目に遭うくらいなら男の尊厳を切り売りするくらい、ご主人さまに女の子として可愛がられるくらいはどうってことないのです……えぇ。


 最近は甘いご主人さまのせいでちょっと緩んでますけど。


「エルフって、ハーフか?」

「いや、ハーフでも……」


 隊商や一部の冒険者の目が金貨になってますね、非常に解りやすいのです。昨日までは安全だったのにあっという間にこの状況です、ハーフゴブリンフィルターがどれほど優秀か分かる一例でした。


 隊商の筆頭らしき商人さんが、わかりやすく獲物を狙う眼になってます。ルルの言っていた不快さが解るのです。


 それにしても、この状況は良くないですね。


「すでに自分の物にしたつもりで金勘定する目ってあんな感じでしょうか?」

「はい、あんな感じです」


 ユリアとこそこそ話していると、突然ルルが前に踏み出します。


「……はぁ、バレてしまったんですねー」


 わざとらしく言ったルルは、ボクたちを見返してぱちりとウィンクします。何か策があるのでしょうか。


「何を隠そうせんぱいはハーフサキュバス、こんな見た目でもスゴイんですよー?」

「え?」

「マジかよ……」


 ……おい、おい。まだその設定引っ張りやがるのですか。エルフ扱いよりはマシかもしれないですけど!


 一瞬にして驚きを浮かべた商人たちがザワついたあと、ごくりと生唾を飲み込んでご主人さまを見ます。


「ハーフサキュバスってやべぇって聞くぞ」

「そんなの相手にしてんのか……」


 不躾な視線がボクの胸元や腰回りに向けられます。やべぇって何がですかね。うちで一番やべぇのはそこのチート野郎なのですが。


「そうですよ、だからね、夜中に行ったのもわかるでしょう?」

「あ、あぁ……」


 それで納得されるんですか。ハーフサキュバスってどんなのですかね。ドワーフ扱いでも良かったのでは?


「やりましたよせんぱい」

「えぇ……」


 ドヤ顔で戻ってきたルル。汚物を見る目から金貨を見る目に変わり、最後は変態を見る目を向けられるようになりました。ボクこういう時どんな反応すればいいんでしょうね。


「……黙って聞いてりゃ関係ねぇことばっかよぉ、そんなことはどうでもいいって言ってんだろうが! 一体どいつなんだよ、裏切りものは! 出てきやがれ、俺がこの手でぶち殺してやる!!」


 そんな横道にそれまくった会話の最中、ついに我慢の限界を超えたエレキさんが血走った目で剣を構えてしまいました。彼は案外仲間思いだったのですね。


「だからそいつらだろ! 平然と女の子を奴隷にするような奴だぞ、盗賊と繋がっていてもおかしくねぇ!」


 まだ茶髪くんは諦めていないようです。ゴブリン混じりでないとわかった瞬間ボクに妙な目を向けてくるようになったあたり……なんというか、ダメですねこいつは。


「なんだその発想は……違うと言ってるだろう。そもそも繋がっているなら攻撃したりしない。そういうお前は襲撃の最中どこに行っていたんだ、見張りだったんだろう? 姿を見なかったが」


 そういえば、茶髪くんの姿は見なかったですね。ルルとユリアに目線を向けても見ていないと首を横に振ります。こちらでも見ていません。ご主人さま達とも居なかったようですし、つまり襲撃の中ひとりだったくせに無傷でした。


「な、お、お前、言うに事欠いて俺を疑うのか!?」

「別に疑ってる訳じゃない、どこに行っていたか聞いているんだ」


 何か物凄い動揺してますね、汗が凄いのです。目が正直な人だと思ってましたが根本的に嘘がつけないだけだったのでしょうか。自供しているに等しいお粗末な態度にエレキさん以外から疑いの視線が集まります。


「お、俺は……違う、俺じゃない、信じてくれエレキさん!」


 最終的に彼はエレキさんに泣きつきました。なんか凄い情けないのです。


「てめぇら、俺の仲間を疑うのか!」

「その態度はちょっとね、どこに行っていたのか説明してもらえると疑惑も解けると思うけど」


 優しそうな顔の青年が困ったように言います、確かに正論です。満場一致で首が縦に振られました。彼の顔が青ざめていきます、怪しいとかそんな生やさしいレベルじゃありません。よくみてみると、仕切りに胸元を気にして手で抑えています……これは、何か隠してますね?


「ご主人さま、あの人胸元に何か隠してます!!」

「なっあ!? クソガキィ!!」


 指をさして指摘すると思い切り激昂しました、図星だったみたいです。分け前でも隠しているのでしょうか。


「おい……カウル、どういうことだ? 事と次第によっちゃ許さねぇぞ!」


 ここに来てちょっと冷静さを取り戻したのか、エレキさんが信じられないという顔で茶髪くんを見ています。彼はどんどん顔が青ざめて、汗も酷いです。青年を中心にエレキさんの仲間がじりじりと包囲を狭めて行き、彼の逃げ場がなくなります。


「や、やめろ、俺は何もしていない!!」


 必死に服の胸元を庇いながら叫ぶ彼をついに仲間たちが取り押さえます。


「だったら何を隠しているか見せろ!」

「やめろぉぉぉぉぉ!」


 叫ぶ彼の服の中から、ついに隠し通そうとしていたものが引きずりだされました。髭面の男の手に握られていたのは、一見すると数枚の白い布切れ。


「……なんだ、これ?」


 困惑した彼が広げた布は三角で、フリルやレースで縁取られて可愛らしく仕上げられています。それは見覚えのあるものでした、そう、その布切れはボクの友人でも有り同僚でもある少女たちが好んで使っていた……。


「あ、あぁぁぁ!?」

「陰干ししてた、私たちの下着!!」


 ぱんつだったのです。



 事の顛末は酷くお粗末なものでした。見張りだった彼はつい魔が差して、テントの脇に陰干しされていたボク達の衣類の中から、ルルとユリアの下着を盗むのに夢中になってました。そのせいで見張りの居なくなった部分から侵入されたみたいです。そもそも内通者なんて居なかったのですね。


 とはいえ一応ボク達も護衛対象、その所有物を盗んだ挙句に仕事まで疎かにしてた彼には重大なペナルティが課せられるようです。因みに下着はルルとユリア達たっての願いで焼却処分されました。何か湿ってたので。


 下着を盗まれてショックを受けていたと思いきや、あっさり新しい可愛い下着が欲しいのーとおねだりを始めた彼女たちの逞しさには脱帽です。


 ポート・デーナにはシェンロ皇国を始めとした海外からの交易品も集まるらしいので、ついでにそこでショッピングをしようという話になってます。


 女性用下着と言えばシェンロ皇国と呼ばれるくらい、かつての召喚者は影響を残したようです。何しろコスプレ文化を根付かせたらしいですからね、エロの力は凄まじいのです。


 何故かボクの分まで可愛らしい下着を買ってもらえる事になったので良かったような良くなかったような。ご主人さまに見せるために可愛く着飾るとかうげーっなのです。


 そんなこんなで旅の日程は全て終了、白岩を削られて作られた港街、デーナに到着したのでした。


「本当にすまなかった」

「お、俺は悪くない! 助けてくれルル、ユリア!」


 縛り上げられた茶髪くん、カウルくんでしたっけ。何でこんなに馴れ馴れしいんですかね。


「ちょっと、何で下着泥棒に呼び捨てにされなきゃいけないのよ」

「馴れ馴れしくしないで頂けますか?」


 ほら、あっという間に不機嫌度マックスですよ、これ彼女たちのご機嫌とるのボクの仕事なんですよね。ご主人さまはほぼスルーするつもりのようです。


「何でそんな冷たいことを言うんだよ!」


 恋は盲目と言っても完全に何も見えてない、元気に頭沸いてる方でしたねぇ。遠い所で幸せになってください。


「じゃあコイツは連れて行くから、あんた達も元気でな」

「くそっお前だな、お前が魔法でふたりを洗脳したんだろう!!」

「……あぁ、そっちも元気で」


 必死ですね。あれ自分でも何言ってるかわかってないんじゃないでしょうか。とにかくこの場を逃れることで頭一杯って顔です。見苦しいにも程があるのです。


 ご主人さまも嫌なのかカウル君に目を合わせようともしません。というか誰も相手にしてませんね。ここまで来ると面白いです珍獣みたいで。でもそろそろお別れですね。


「では、カウルくんも元――」

「黙れ半|野人(ゴブリン)、口がくせぇんだよ吐き気がする!!」

「――気じゃなくなることを祈ります、えぇ」


 ふん、別にこんな馬鹿の暴言なんて甚くも痒くもないのですよ、ちゃんと毎朝舌まで磨いてますしね!


「大丈夫ですよ、せんぱい、匂い全然しません」

「どっちかというと仄かに花の良い匂いがしますよね、全体的に」


 フォローすんなし!!


「くそおぉぉぉぉ、覚えてろよてめぇら、ふたりは必ず俺が救い出す!!」


 なんか自分の中で無理矢理事実にしようとしてますね、思い込みが激しいんでしょうか。よく今まで無事にやってこれ……いえまさか、あんなだから平和だっていうシェンロに居られなくなったとか?


 ま、ここでお別れなので関係ないのですが。


 引きずられて処罰のためにギルドへ移送されるカウルくんに手を振って、ボクたちは予約してある宿の方へと歩き出しました。


「どういう環境なら人間があんな面白く育つんでしょうねぇ……」

「きっと誰も人の話を聞かない環境でしょうね」


 ユリアも相当頭に来てるのですね、明日はお買い物して気を晴らしましょう。幸い彼から賠償金を沢山せしめたみたいですし、ご主人さまからもお小遣いがたくさん出ています。


 何はともあれ、めんどくさいのとも離れられたし今日はゆっくり宿で休むのですよ。



 ご主人さまの取ったホテルはセキュリティがしっかりしていて落ち着いた良いところでした。複数のパーティ用で、リビングにあたる部分に寝室が二つ繋がってるような形式の部屋。値段は中の上くらいで冒険者が泊まるには結構割高みたいです。


 部屋の中は木造でとても綺麗に整えられていました。荷物を金庫にしまい、もらってきたお湯で軽く身体を清めると、二部屋に分かれて眠ることになってます。片方はボクとご主人さま、片方はルルとユリア。


 何か羨ましそうな顔をする二人に見送られながら部屋にはいります、後からご主人さまがついてきました。ところが部屋の中には少し予想と異なる光景が広がっていました。


「あの、あの、ご主人さま、ベッドがひとつしかないのですけど」


 おかしいですね、複数のパーティ用と聞いていたので寝室のベッドも複数用意されてると思ったのですが。聞いてみたボクにご主人さまは笑顔で答えます。


「疲れてるから、大きなベッドの方がゆっくり寝られるだろ?」


 なるほど、気を使ってくれたのですね。確かに大きくてふかふかそうです。二つセット担っているハートマークの枕が可愛いです。ベッドを眺めていると背後でガチャリと音がしました。


「あの、ご主人さま、何で内鍵を締めるんですか?」

「そりゃあ、戸締りをきちんとしないと危ないだろう?」


 確かにその通りなのです。いくら部屋の中に身内しかいないはずといっても鍵をかけないのは不用心ですからね。納得していると今度は膝の下に腕を差し入れられて抱き上げられました。ご主人さまはそのままベッドに直行します。


「あの、ご主人さま、何でベッドに抱いて運ぶのですか?」

「疲れてるだろ、遠慮しなくていい」


 気を使ってくれてるみたいです、女の子ならきゅんってしちゃうのかもしれませんね。ぼくはうんともすんともいいませんけど。柔らかいベッドに上に優しく寝かされたボクの服にご主人さまが手をかけます。


「あの、ご主人さま、何で服を脱がすのですか?」

「その服のままじゃ寝苦しいだろう?」


 確かに着心地がいいと言っても寝間着にできるほどじゃありません。でも、でもね?


「あの、ご主人さま、なんでぱんつまで脱がそうとするのですか?」


 何故か下着にまで手をかけたご主人さまに若干の怯えを混じらせた視線を送ると、先程まで優しく微笑んでいたはずのご主人さまの横顔が部屋のランプに照らしだされます。その時ご主人さまの顔はまるで――


「それはね……ソラが可愛いからだよ」


 ――そう、まるで飢えた狼のようだったのです。





◇◆ADVENTURE RESULT◆◇

【EXP】

BATTLE TOTAL 15

◆【ソラ Lv.45】+15

◆【ルル Lv.15】

◆【ユリア Lv.12】

◇―

================

ソラLv.45[456]→Lv.47[471] LevelUp!!

ルルLv.17[173]

ユリアLv.15[154]

【RECORD】

[MAX COMBO]>>30

[MAX HIT]>>30

【PARTY】

[シュウヤ][Lv55]HP772/772 MP1380/1380[正常]

[ソラ][Lv47]HP50/50 MP420/420[正常]

[ルル][Lv17]HP602/602 MP32/32[正常]

[ユリア][Lv15]HP1040/1040 MP60/60[正常]

================

【Comment】

「赤ずきんの気持ちが分かりました、そして旅行初日で腰が抜けたのですよ変態野郎め……」

「「(……かわいがってもらえていいなぁ)」

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