第6話 ドキドキの初依頼-甘味編-
tmp.6 ドキドキの初依頼-甘味編-
テンプレです、テンプレなのです!
「へへ、素直に女と積荷を置いて行けば命だけは助けてやるぜ?」
目的地まで残り一日といった所で現れたのは、粗末なボロ布に身を包んだいかにも不潔そうなおじさんたち。馬車を囲んできた彼等のうちボスっぽいのが、ナイフを舐めながら下品な笑みを浮かべて告げます。
男たちの視線はルルと剣士のレベッカの胸元に集まってます。
魔法使いのクラリスさんとボクは総スルーされてました。ボクはフードを目深にかぶっているし背丈も小さいので、女と見られていないのでしょう。
クラリスさんは、その……ちらりとその胸元に目をやると、不機嫌そうな彼女が凄まじい殺気を込めて睨んできました。ごめんなさい殺さないでください。
「嫌だ、と言ったら?」
ご主人さまがレヴァンテインを肩に乗せ、軽い動きで前へ出ます。女性ばかりの中にひょろっとした男がひとり、食い詰め者たちの嫉妬の炎が凄いです。
ああいうのを負け犬と言うのですね。
「それなら、仕方ねぇなぁ……そこの猫獣人と女剣士は傷つけるんじゃねぇぞ、男は皆殺しだ! そっちのチビと貧相な胸もかまわねぇ、やっちまえ!」
隣から、ブチっていう音が聞こえました。
◇
「いやぁ、助かりました」
翌日の朝早く、目的地である……なんとか村に無事到着しました。
名前は聞いてません。あんまり興味なかったので。
ちなみに、ボク達の住んでいる町は『ペテシェ』という、ちょっとした街道の中継点でそこそこの規模の町ですね。ダンジョンも近くにあるので冒険者が集まりやすい街なのです。
今回の依頼は町に来ていたこの村の商人さんを送り届けるお仕事だったのです。着いてから知るとかどうなんでしょうね。まぁ取り敢えず、到着できたので良しとしましょう。
え、野盗? 尊い犠牲でした。現実だと炎魔法はんぱないです、火怖いです。自業自得なのは解っていてもとにかく可哀想という感情を抑えられないレベルの蹂躙でしたね。
結果、彼女はその場に居た全員をドン引きさせる大活躍っぷりを見せ、ご主人さまに親しみを込めて貧乳無双などと名付けられてました。泣きそうになってて、こちらもちょっと可哀想でした。
しかしですよ、このまま彼女が順調に病んで行ったら、ボクもあの野盗達と同じ運命を辿ることになるかもしれません。おかげで襲撃の日の夜に「ヒャハハハ、燃えろォ、燃えろヨォ!!」とか嗤いながら炎を振りまき追って来るクラリスさんの夢を見てしまいました。
思わず恐怖で飛び起きましたよ。でも、一番怖かったのは、夜番で起きていた彼女が暗闇の中で目を見開き、こっちを見ているのに気づいた時でしょうか。あれは流石にちょっとだけ危なかったです。何が危ないのかは敢えて言いませんが。
「せんぱーい、新しい下着もらってきましたよー」
大きな声でいうんじゃありません!!
◇
さて、帰りは明日、町へ向かう別の馬車の護衛として行くことが決まり、今日は村で一泊することとなりました。ここは養蜂が主産業となっている村なようでして、ちょっとお高いですが、ハチミツを使った食べ物が豊富です。
「せんぱい、これも美味しいですよ!」
「うぅ、太ってしまいそうです」
買い物に行ったご主人さまを見送り、ボクとルルは酒場で出されたホットケーキやスコーンにハチミツをたっぷりかけて頂いております。久々の濃厚で強烈な甘味が五臓六腑に染み渡るのです。ルルも初めての強い甘みに目を輝かせて、次から次へとお菓子を口に運んでいます。
酒場の人は"首輪付き"なのに好き放題お菓子を食べているボクらを見て不審げではありましたが、そこはご主人さまが「頑張った分ご褒美をあげるのがうちの教育方針」と言い切ることで、何とか納得してもらえたようです。
しかし、いくら食べ放題と言ってもこのままだと確実に血となり肉となって悲惨なことになりかねません。ボクの身体で食べ過ぎると平坦な癖におなかだけぽっこりという、酷い絵面になりかねないのです。
……あれ、そうすれば意外と嫌がって夜に呼ばれなくなるかも? こ、これは良い手かもしれません。もっと食べましょう。
「食べ過ぎだろ、太ったらどうするんだ」
そう思ってスコーンに手を伸ばそうとしたら、横からひょいっと取り上げられてしまいました。買い物を終えたご主人さまが戻ってきていたようです。案外早かったのですね……取り敢えず返してください。
「ボクは気にしません、返してください!」
「肉付きが良くなるのはいいが太るのは許さん」
何という横暴……しかし、ますますやる気が出ました。ちょっとぷっくりしてご主人さまの好みの範囲から外れるのです。帰ったら早速、食事計画を練り直しましょうか。
「強制的にダイエットさせるぞ……方法は言わなくても解るよな?」
「がまんします」
やはり太るのは健康に良くないのです。糖分のとりすぎ身体に悪いので、控えるべきでしょう。ボクとしたことが、倒れたらほぼ終わりなこの世界で自分の健康を忘れるとは失態なのですよ。
ボクが手を止めた事で、ルルもちょっと迷って食べる手を止めました。涎を垂らしそうになりながらジッとお菓子を見ているので、未練たらたらなようですけどね。最終的に残ったお菓子はお店の許可を取ってから包んで、持ち帰る事になりました。
すなわち、ご主人さまのアイテムボックスの出番な訳です。入れてる間は時間経過しないとか、ほんと不公平です。魔法も使い放題で、戦闘力も高いし運も良い……同じ日本から来た人間なのにこの格差は何なんでしょうね、ほんとに。
◇
夜、ご主人さまがクラリスさんに呼び出されて宿を出ました。ついに襲撃かとルルに引っ付いてベッドの中でガクブルしていたのですが、意外な事に先に戻ってきたのはご主人さまでした。
「ただいま」
「お、おかえりなさい?」
てっきり戦力を分散させて仕留めに来るものだと思っていたので拍子抜けでした。
「シュウヤさま、あのメスに何かされませんでしたか?」
シーツをはねのけてルルがご主人さまに詰め寄ります。女の子がメスとか言っちゃいけないと思うのですよ。
「あー……まぁ、告白されたけど断ってきた」
正直驚きました。それなりにレベルの高いツンデレだと思っていたのですが、思ったよりも勢い良く踏み込んでくる人だったみたいですね。ボクやルルと接触したのが原因でしょうか?
「それ、もったいなかったんじゃありません?」
とはいえ、見た目は良いのです。腕もかなりのものみたいですし、ボクと胸囲もそんな変わらないので、ご主人さまならいけるんじゃないかなーと思わなくもなかったのですがね。
「告白のセリフな、『奴隷にしてください、あの子たちには負けません!』だった」
「……」
踏み込みどころか、勢いが魚雷並でした。いくらなんでも人生賭けすぎでしょう。この世界の奴隷なんて人権も何もなく、主人が飽きたら殺されても文句ひとつ言えないような身分なのですよ。自分から突っ込んでくるとか、正気の沙汰じゃないのです。病みすぎです。
「無いだろ?」
「無いですね」
顔を見合わせて「はぁ」とため息を付きます。重いなんてレベルじゃないので、流石にドン引きなのですよ。それで喜ぶ男なんて常軌を逸した変態か、常識を逸した変態だけなのです。
あれ、目の前に該当者が居るような……いえ、置いておきましょう。藪を突いて謎生物を出したら最後、茂みに引きずり込まれてあっという間にダブルピースです。今のボクは無力な少女であることを忘れてはいけません。
ともかくとして、これで彼女が素直に諦めてくれればいいのですが……不安ですね。ご主人さまってそういうのあんまり得意じゃなさそうというか、何というか女性関連では頼りにならないイメージがあるのです。
「ま、そもそも俺は巨乳好きだしなぁ。アイツには悪いけど、仮にお前らが居なくて普通の告白であっても断ってただろうな」
「そうですかー……」
「……えっ?」
なるほど、どっちにせよ彼女には芽が無かったのですね。中々に切ない現実です。強く生きていって貰いたいもので……ん? え? 今なんて言いましたかこいつ。
「ご主人さま大変です、幻聴が聞こえました。ご主人さまが巨乳好きだとか何とか」
「シュウヤさま、私にも聞こえました。もしかして敵の魔法では!?」
どうやら、ルルにも聞こえていたらしいです。幻聴を生み出す魔法ですね。クラリスさんの手によるものでしょうか。ボクへの精神攻撃のつもりですかね。あんまり効果はないのですが。
「お前らは俺を何だと思ってるんだ……俺の好みはルル程度に年下の巨乳の女の子だ!」
なん、ですって!?
「さては……偽物!? でもご主人さまはボクみたいな子供に欲情する真性の幼女趣味ロリコンなのです。巨乳好きだなんてありえないのですよ!」
「その通り。匂いまで再現するなんて中々手が込んでますが、詰めが甘いですね! シュウヤさまをどこに隠されたのですか、答えなさい!」
由々しき事態です。まさかご主人さまの姿で現れるとは……油断しました! ですが甘いのです、ボクの眼は誤魔化されな――――
「………………『伏せ』」
「ふびゃっ!?」
「にゃん!?」
首輪に流された魔力によって身体が強制的に土下座のような体勢にさせられてしまいました。足音が近づいてきます。
「お前らさ、ちょっと俺で遊びすぎじゃないかなぁ?」
「あ、あはははは」
おおっと、調子に乗りすぎたのです。でも、日頃の鬱憤は晴らせたのでまぁ良しとしましょう。そもそもそんな笑えない冗談を言うご主人さまが悪いのです。そうに決まってます。取り敢えずルルと二人で謝って怒りを和らげましょう。出先なので無茶は出来ないと思いますが、念のためです。
隣で伏せているルルに目配せして、同時に口を開きます。
「もうしわけ――「全てせんぱいの指示でやったことです」――えっ」
「ほう……?」
錆びついた機械のような動きでルルを見ると、可愛らしい口元をニタァと三日月型に歪めていました。……まさか、あんなに仲良くしていたのに、こんなあっさり裏切られるなんて。
「る、るる、何を言って……!?」
「私はシュウヤ様にそんなことをするのはと抵抗したのですが、先輩に逆らうことは出来ず……申し訳ありませんシュウヤ様っ!」
すぐに表情を戻したルルは涙をぽろぽろこぼしながらご主人さまに縋り付きます。ご主人さまは悲しそうな顔をしてルルの頭を撫でると、こちらをじっと見つめます。そしてボクは全てを悟りました。
「そうか、辛かったなルル……ソラがそんな悪い子なんて思っていなかったよ。これは……ちゃんとお仕置きしないといけないな?」
そう、二人は始めからグルだったのです。ボクの反抗心を察知してルルを使い、反乱を誘ったのです。暴君の策略にものの見事にかかってしまった間抜けなエルフは、ここで尽きる運命だったのでしょう。がくんとその場で項垂れたボクの頭に、ご主人さまの手が迫ってきていました――――。
「冗談はこの辺にして、そろそろ寝るか」
「はぁーい」
「わかりました」
ぽんっとボクの髪を撫でると、ご主人さまは二つあるベッドの片方へ向かいます。ボクとルルはもう片方のベッドを使うことになってます。女の子と二人で寝れるのはちょっとした役得ですね。
なんで分かれてるかというと、流石に宿のベッドを汚すわけにはいかないので自重しているのです。実に平和な旅なのですよ。
「でも、シュウヤ様がそんな冗談言うなんて意外でしたね、せんぱい」
「全くですね、どの口で言うのか」
え? 裏切り? 策略? ただのじゃれあいなのです。いくら何でもお互いこの程度の事でドロドロした事態にはならないのですよ。……いや、ルルが腹黒なのは本当ですけどね、恐ろしい子!
「本気なんだけどな……まぁいいか」
「はいはい、冗談はこのへんにしておきましょうね」
往生際が悪いですね。今更いってもボクに手を出した時点で覆せないのですよ。諦めなさい、変態め。もそもそとベッドに潜り込んで、ルルと背中を合わせるように丸まります。ご主人さまが傍にいれば安全でしょうし、何とか眠れそうなのです。
「おやすみなさいです」
「シュウヤさま、おやすみなさい」
「おやすみ……あぁ、お仕置きは本気だから、帰ったら覚悟しとけよ」
えっ。
◇◆ADVENTURE RESULT◆◇
【EXP】
NO BATTLE --
◆【ソラ Lv.8】
◆【ルル Lv.1】
◇―
◇―
================
ソラLv.8[82]
ルルLv.1[13]
【RECORD】
[MAX COMBO]>>12
[MAX HIT]>>16
【PARTY】
[シュウヤ][Lv26]HP372/372 MP630/630[正常]
[ソラ][Lv4]HP17/17 MP30/30[正常]
[ルル][Lv1]HP272/272 MP22/22[正常]
================
【Comment】
「おうちにかえりたくありません」
「ご愁傷さまです、せんぱい」
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