第5話 ドキドキの初依頼-旅立ち編-
tmp.5 ドキドキの初依頼-旅立ち編-
あれから猫娘のルルちゃんとボクの関係が少し変わりました。具体的に何がどうなったかというと……。
「あっ、せんぱい! お手伝いします!」
懐かれました。
……なんで?
◇
「あの……昨日は生意気なこといってすいませんでした!」
尻尾をうねうねさせながらルルが謝って来たのは翌日の昼前のことです。
話を聞いてみると、やはり奴隷の教育係やガマガエルから色々吹きこまれていたようでした。
優良物件な主人の所は奴隷でも順位競争が激しいのです。相手を蹴落とす気でいかないとそのうち追い出される! とか脅されてたみたいですね。
それ自体は事実なんですけど、こっちはそんなつもりなかったのですけどね……。
まぁ同じ奴隷の身の上です。捨てられたらどうしようという気持ちはわかるので、深くは突っ込まないようにしましょう。ああ見えて内心ではガクブルだったみたいですし。
彼女の気持ちが変わった切っ掛けはご主人さまの予想以上の激しさ。そこで戦々恐々として助けを求めた時にボクが乱入して、何とか守ってことで懐かれたようです。
代償は大きかったですが、彼女が味方になってくれたことは大きな収穫でしょう。長い付き合いになるでしょうし、険悪な関係よりも仲が良いほうが楽なのです。
素のルルは後輩気質というか、やっぱり素直な性格の子でした。初日こそ怖がってましたが、我が家の環境や待遇の良さに感動してからはアッチの方も積極的です。
二人がかりで処理できるのでボクの負担も大分減りました。……ほんとに、パーティメンバーの大切さがよくわかりました。
ルルの反応を見て、ボクがご主人さまのペースに慣れてしまっている事に気付いたのが非常にショックでしたが。
一方でこの子も最近は積極的ですからすぐに慣れることでしょう。この世界って3食におやつと昼寝付きの生活が女の子の身体ひとつで買えるなら、お買い得なんてレベルではないのですよ……。
何はともあれボクの方も無事に
「ルルちゃん! 頑張って一緒にあの変態野郎に下克上するのです!」
「え!? あ、はい! わたしも先輩みたいに上手にご奉仕できるようにがんばりますから!」
そうじゃなくてですね……。
◇
「護衛依頼を受ける事になった。泊まりがけになるからふたりにも付いて来てほしい」
麗らかな昼下がり。
ボクとルルがお茶菓子として作った甘芋クッキーを食べていると、帰宅したご主人さまが開口一番そんな事を宣言しました。
ボクは一応希少種の筈なんですが、外に出ても大丈夫なのでしょうか?
「ギルドカードがあるから身分証明はできる、俺やルルの傍を離れなければ問題ないぞ」
「はい! 先輩はわたしが守りますよー!」
……ボクが守られる立場なんですね?
「……言っとくがルルはかなり強いぞ? そこらの冒険者なら一蹴できるレベルだ」
嘘でしょう……?
こいつもチートキャラでしたか!! 後輩っぽさに油断してました。
言われてみれば、当たり前のように屋根の上に身ひとつで登って行ったり、ボクが持ち上げる事も出来なかったレヴァンテインを軽々振っていたりしてたような。
周りがチートばかりで肩身が狭いのですよぅ。
◇
さて、出発準備にあたってルルは戦士用の革鎧と長剣をもらい、ボクはフード付きのローブをもらいました。なお武器は危なっかしいのでダメだと言われました。ふたり同時に。
いつか覚えていやがれです。
装備を確認した後で家を出て、フードで耳を隠してご主人さまの背後をついて歩きます。
地味なローブのおかげか、あんまり注目を浴びないので助かりますね。
待ち合わせ場所である町の北門に着くと、荷物を積み込んでいる馬車を囲むように立つ紅い髪と瞳の魔法使いの少女と、蒼い髪の剣士の少女の姿がありました。
彼女たちはご主人さまの姿をみとめた瞬間、急にそわそわしはじめました。
まさかとは思いますが……うちの鬼畜王は彼女たちにもフラグを立てていたのでしょうか?
このチート野郎は一体どれだけの女性を引き寄せれば気が済むのか、そのうち他の男性冒険者から嫉妬で命を狙われそうです。
一応、無闇矢鱈に女の子に声をかけない、優しくしないように言って置いたほうがいいかなとか考えたりもしました。
だけどね、嫉妬してると勘違いされても嫌なのでやっぱりやめておきましょう。彼なら狙われても自衛出来るでしょうし……頑張ってください。
「今日はよろしく。こっちが俺の奴隷のソラとルルだ」
「……よろしく、レベッカよ」
「クラリスよ」
「ルルです、"シュウヤ様の奴隷"です。よろしくおねがいしますね」
思考の海に沈んでいると何時の間にか自己紹介が始まっていたみたいです。
ルルと冒険者少女ズの間で火花が散ってます。不毛なのでやめましょうよぉ……あれ、そういえばルルってアレ演技だったんじゃないのでしょうか。
ひょっとして半分くらいは地だったとか? むしろ今が素?
……なんだか女性不信になりそうなんですががが。
「ソラです、よろしくお願いします」
怖いので縮こまりつつ、無難に軽く頭を下げて挨拶します。
余計に視線が険しくなりました。剣士のレベッカさんなんか、今にも斬りかかってきそうな殺気です。何故人は争うのでしょう……いやほんとにやめてくださいね。ボク滅茶苦茶弱いですからね。
「先輩、ここはガツンと……」
「やめなさいルル。無意味な争いです、不毛です」
臨戦モードのルルを諌めつつため息を吐きます。そこまでして鬼畜野郎の寵愛が欲しい彼女たちの気持ちがわかりません。明日をもしれない奴隷の身っていう立場ならまだ解るのですが、彼女たちはしっかりと自立しているでしょうに。
……あぁでも、冒険者もある意味では明日をも知れない身なのかもしれません。そう考えれば将来性は二重丸で特定の相手が居ないご主人さまは狙い目なのかも?
「さ、さすがの余裕と自信です、せんぱい……。確かにシュウヤさまは先輩以外が目に入っていませんもんね!」
「何ですかその認識は……」
ルルの尊敬度が上がったようでキラキラした眼を向けてくるんですが、意味がわかりません。あぁ二人の目がつり上がった。ほら勘違いされたじゃないですか。あの鬼畜は単にエルフが好きなだけだというのに!
「こ、こんな子供が……!?」
「……あんた達より私のほうがずっと早く目をつけてたのに……!」
レベッカさんは流石に驚愕したようで、ボクとご主人さまを見比べてます。まぁ確かに、今のボクは見た目ちっこいですからね。こちらの年齢基準で言うと11歳くらいでしょうか。
メインターゲットとして女性らしいルルをロックオンしていた二人ですが、今の発言で完全に矛先がこちらに来ました。
ルル、貴女もしかして狙ってました? 味方になった振りして下克上狙っちゃってました?
「それは残念でしたね……まーあなたたちではとてもとても、シュウヤさまを"満足"なんてさせられないと思いますけどね?」
何故そんな意味深な事を言いたげな態度で二人を見下すのですか、ルル。あなた今、奴隷ですからね。ご主人さまの庇護がなければ、家畜以下の扱いなので気をつけてくださいね?
「うそ……こんな小さな子が?」
「ま、まさかシュウヤって
「顔隠してるし何かとのハーフ……まさかハーフサキュバス!?」
「それなら納得できるわ……それでシュウヤを籠絡したのね! いやらしい!」
違います誤解です冤罪です。ボクは無実で、有罪なのはアイツです。だからボクに敵愾心を燃やさないでください。
「やっと分かりましたか……人間の方はお呼びじゃないんですよ」
えっ。
「く、ぐぐぐ!」
何これどういう事なの。事態についていけず硬直をするボク達に後ろから声がかけられました。奇しくもそれは確実に状況を打破できる力を持った人物、すなわちご主人さまの声だったのです、助かりました。
「そろそろ出発……って何やってるんだ?」
「しゅ、シュウヤ、ダメよ! こいつはハーフサキュバス、気を許しちゃダメ! きっと異能か何かで誘惑されたのよ!」
「いや、それ誤解ですからね……」
なんか誤解が加速しているんですが。何で外に出たらいきなり半サキュバス扱いされてるんですか。泣きますよ、ギャン泣きしますよ? もういっそ、種族をバラして誤解を解いてしまいましょうか。
「何言ってんだ……?」
魔法使いの言葉を聞いてご主人さまは一瞬奇妙な顔をしました。ボクを見て彼女たちを見て、何かに気づいたように口元を歪めます。こいつらとんでもない誤解してるのですよ、早く否定してください。
「……俺がこいつを気に入って買ったんだ。種族なんて関係ない。それに俺にそういう魅惑とかが効かないのは、お前が一番わかってるだろ?」
えっ?
「う、うそ……」
ご主人さまの手が肩に置かれ、呆然として固まるボクを置いてけぼりにして会話は加速していきます。
「シュウヤってそういう趣味、だったの?」
「あぁ、そうだよ」
「子供のサキュバス買うなんて……へ、変態じゃない!」
「男なんて須らく変態だっての」
ま、待って、ちょっと待って、何でボクがサキュバスとのハーフな方向の話をしてるのですか!? 風評被害ってレベルじゃねぇのです、撤回を要求します。訴訟も辞さない!
「ちょ、ちょっとごしゅじもごもご」
「エルフだって街中に知られたら、有象無象が押し寄せてくるぞ?」
な、なんという、ことでしょう……。って騙されませんよ。ゴブリンとのハーフだとかドワーフだとか色々言い訳は出来るでしょう。あいつらこっちじゃ見た目ロリ種族なわけですし、何でわざわざサキュバス何ですかやだぁぁぁ!
「ボクはサキュバスじゃなくてゴブリンとのもごぉー!」
「そういう訳だから、俺の奴隷おきにいりにちょっかい出さないでくれよ?」
く、口を抑えられて喋れないのです。誤解が、このままでは誤解が! ボクがサキュバスなんて噂が町に拡がってしまうのです! しかも、魔法使いさんの敵意がメーターマックス振りきれなのです。「悪魔め浄化してやる」とか「私がシュウヤを助けるの」とか呟いてます、怖いです。
あれは一歩間違ったら、ヤンデレストーカーになるタイプです。しかも、標的がこっちに来るタイプですよ、もうどうするんですか。隣の剣士さんすらドン引きして、距離を取って宥めてるようなレベルですよ?
「先輩、負け犬の嫉妬が心地よいですね!」
ルルも大きな声で煽らないでください! 聞こえたらどうするんですか!
◇◆ADVENTURE RESULT◆◇
【EXP】
NO BATTLE --
◆【ソラ Lv.8】
◆【ルル Lv.1】
◇―
◇―
================
ソラLv.8[82]
ルルLv.1[13]
【RECORD】
[MAX COMBO]>>12
[MAX HIT]>>16
【PARTY】
[シュウヤ][Lv26]HP372/372 MP630/630[正常]
[ソラ][Lv4]HP17/17 MP30/30[正常]
[ルル][Lv1]HP272/272 MP22/22[正常]
================
【Comment】
「平和なのはいいんですが今度は魔法使いさんが怖くて安眠できないのです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます