第5話 メイドの素性
メイは危険すぎる。このままでは俺はダメになる。
彼女のご奉仕は完璧だ。炊事、洗濯、掃除、そして……性的ご奉仕。
俺はもう彼女のなすがままだ。彼女のご奉仕を、ただただその身に受けている。これじゃ、どこかの金持ちに飼われているペットみたいだ。なにもしなくてもご飯が出てきて、ご主人様が遊んでくれて、腕のいいトリマーに毛並みを整えられているようだ。これは人間の生活ではない。
しかもメイは、稼いだ金を小遣いとして俺に毎日くれるのだ。好きに使ってよいと。それだけでなく、俺が欲しい高価なものも何でも買ってくれる。
俺は、なるべくメイに物を買ってもらわないように、欲しいものがあっても言わないようにした。彼女は俺が欲しいものはどんなに高価でもバンバン買ってしまうのだ。それは、貧乏だった俺にはとても怖い事だ。
俺が欲しいものを言わなくなると、彼女はどうやってか知らないが俺の趣味趣向を完璧に把握し、俺が欲しそうなものを家に用意するようになった。
欲しかった本、漫画、ゲーム、家電、服や靴。それらがいつの間にか家に用意されている。もはや外に買い物に行く必要もない。ただただ家でぐーたらしているだけですべて用意され、幸せに暮らせてしまう。
俺はもう、このままメイとずっと一緒に居るのはヤバいとなんとなく思うようになった。なので、用もないのに頻繁に外出するように心がけた。そうしないと、家でずっとメイのご奉仕を受け続けてしまうからだ。
彼女のご奉仕は完璧だし最高だ。しかし、なにか恐ろしいものを感じる。あれは人を堕落させる麻薬だ。
俺が外にでて何をしているのかというと、実はメイの素性を調べている。彼女は何か異様だ。明らかに普通ではない。まだ会って日が浅い俺に、これほど尽くしてくるのはどう考えても変だし、彼女ほどの知識と技術があればどうとでも生きていけたはずなのに、山の中で倒れていたのもおかしい。
まあ、俺はその彼女のおかげで今生きているのだが……。
俺はまずはネットでメイのことを調べた。家出や行方不明者として届け出が出ていないかを確認し、彼女の事を探している人が居ないどうかもSNSで探した。
とりあえず、ネット上にそれらしき人はいなかった。
メイは若くて美人だ。家族や知り合いがいれば、いなくなった彼女のことを確実に探したはずだ。その形跡がないということは、本当に彼女は天涯孤独なのか……?
様々な方法でメイについて調べていたある時、俺の目の前にスーツ姿の一人の男が現れた。
「山中樹さんですね?」
「そうだけど、あんたは?」
「私は鈴木、刑事です。
「004? なんだそれ?」
「ああ失礼、彼女のことです」
そういうと、刑事は懐から写真を取り出した。監視カメラの映像を拡大したような写真だ。画質が荒い。しかし、すぐにわかった。これはメイだ。
「彼女についてお話があります。ついてきてくれますね?」
俺は、鈴木と名乗る刑事からメイについての話を聞いた。
鈴木の話は信じられないような事ばかりだった。メイの正体。それは、某独裁国の軍事スパイだという。
俺はその話を聞いたとき、そんなわけないだろうと思った。あんな若くて綺麗な子をスパイにするか? 大体、なんでスパイが山の中で倒れていたんだ?
だが、スパイが美人なのは必然だそうだ。ハニートラップの為だ。その手の技術も仕込まれているはずだと。……なるほど。
山の中で倒れていた理由は、残念ながら分からないそうだ。
信じられない話はスパイだという事だけではない。メイは、
人造人間兵器とはなにか? それは、兵器として作られた人間だという事だ。
某独裁国は、これからは戦闘機やミサイルなどの兵器で戦う時代ではなくなると考えた。危険な兵器を作り見つかれば経済制裁を受けるし、仮に兵器が完成してもうかつには使えない。もし使って核戦争にでもなったら、国が亡ぶからだ。
では、他国とどう渡り合えばいいのか。そこで考え出されたのが人造人間兵器だ。強靭な肉体と、任務遂行のための作戦立案能力を有し、命令に忠実。そんな人間を、遺伝子改良と薬物によって作り上げた。完璧なスパイとするためだ。そして、内から国を操る。そのために作られたのがメイというわけだ。
メイが日本にやってきた理由は、日本がスパイ天国だからだ。スパイを取り締まる法律もろくにない。試運転に最適だったのだろう。
一通り話し終わった後、鈴木は言った。メイをこちらに引き渡してほしいと。
……俺は、メイを刑事に引き渡してしまった。
俺が刑事を連れてメイのもとに行くと、彼女は特に抵抗することもなく刑事たちにつれられていった。
メイは刑事たちの取り調べを一通り受けた後、国同士の話し合いの後に本国に送還されることになる予定だと言う。
……これでよかったのだろうか?
あれから半年がたった。俺は、とある会社でこき使われる毎日を過ごしている。
メイを引き渡した後、その代わりと言うわけではないが、政府高官から仕事と家を斡旋してもらったのだ。俺には好待遇の良い仕事だが、ハードでもある。忙しい日々を過ごしていると、メイに養われていた方が幸せだったかもなあと軽く後悔する日々だ。
「疲れたー!」
俺は家に着くなり、荷物を玄関に投げ込んだ。そして、ネクタイを緩める。時刻はもう深夜と言っても良い時間だ。
「こんなに忙しいなら、メイと一緒に暮らしてた方がよっぽど幸せだったな」
俺は誰もいないはずの家で、ぽつりと独り言をつぶやいた。
「本当ですか?」
っ!? 俺が驚き振り返ると、そこにはメイド服の美しい女性がいた。
自殺しようと山に入ったら、ご主人様に尽くすのが大好きな万能変態メイド拾った セラ @sera777
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます