第2話 メイドのサバイバル術
木々の間から差し込んでくる朝日の眩しさで、俺は目を覚ました。ぼんやりとしたまま、ゆっくりと起き上がる。
そういえば、昨日はなぜか山の中で野宿をしたんだった。あれ? メイド服を着ていた少女がいない。俺はまだ彼女の名前も知らない。一人で山を下りたか?
簡易ハンモックの上でぼんやりしていると、彼女はやってきた。
「目覚めてしまわれたのですね。朝のご奉仕をしようと思っていましたのに」
朝のご奉仕?
「どこへ行っていたんだ?」
「少し先に川がありました。そこで朝食を取ってまいりました」
「朝食って?」
「はい、これです」
そういうと、彼女は手に持っていたものを俺に差し出した。そこには木の枝が刺さった大きな魚があった。
「これをどうやって?」
「釣りました」
「釣り!? 道具もないのに!? すごいな、でもこのままじゃ食べられないだろ?」
「そうですね。今火をおこしますね」
彼女は木の枝を二つ拾い、こすり合わせる。そんな原始的な方法で火が点くわけが……。ついた!? 数秒ほど木をこすり合わせていたと思ったら、なにやら木くずのようなものの削りカスを取り出し、息を吹き込む。それだけで赤い炎が立ち上る。
そして、ついた火に枝をくべる。火は徐々に大きくなる。魚の刺さった枝を地面に突き刺し焼き始める。
火ってこんなに簡単に点くものか? 普通の女の子は、魚を釣ることも火をおこす事もできないはずだ。サバイバル技術が高すぎる。この子はいったい何者なんだろう?
しばらくぼんやりと火を眺めた後、俺と彼女は焼き魚を食べる。食べながら、彼女のことを聞く。
「あのさ、君の事はなんて呼んだらいいかな?」
「私の事ですか? でしたら、メイとお呼びください」
「メイはさ、どうしてこんなことできるんだ?」
「こんなこととは何でしょう?」
「そりゃ、簡易ハンモック作ったり、魚を釣ったり火をおこしたり」
「もちろんご主人様に尽くすためです。メイドには、あらゆる技能が必要なのです」
???
まさか、この子は本当にメイドなのか? 英国で、お金を持った紳士に仕えているというあの。いや、そんなわけないか。本物のメイドがこんなにミニスカでフリルの多い衣装なわけないだろう。絶対コスプレか、どこかのメイド喫茶の衣装のはずだ。メイドにサバイバル技術など必要ないはずだし。
ひょっとすると、この子はちょっと痛い子かもしれない。さっさと山の麓の街まで送ろう。それでお別れだ。もう会うことはない。
魚を食べた後、俺たちは山を下りた。それほど大きな山ではない。初心者でも半日もかからないような小さな山だ。明るくなり、道が見えればそれほど苦労はない。すぐに麓の街にたどり着いた。これでお別れだ。
「ここまでくれば後は大丈夫だろ? じゃ、俺はここで」
俺はメイと離れて歩き出す。
さて、これからどうしよう。もう一度山に戻って自殺を試みるには、今はまだ明るすぎる。人目についてしまうだろう。どこかで時間を潰さないと。とりあえず公園で暇つぶしをするしかないか。
そう思い、公園に向かって歩く。すると、俺の後ろをメイが付いてくる。さらに歩く。さらについてくる。
……しかたなく俺は振り返って話しかけた。
「あのさ」
「はい、なんでしょう?」
「なんでついてくるの?」
「いけませんか?」
「いけなくはないけどさ、どこまでついてくる気? もう帰りなよ」
「どこに帰ればよいのでしょう? 帰るべき場所など私にはありませんが」
帰るべき場所がない……?
「家族は?」
「いません」
「友人は?」
「いません」
……。
それがどういうことなのか、少しの間目を瞑り、ゆっくりと考えてみた。そして思い至った。この子、もしかしたら俺と同じか。
よく考えてみれば、道から外れた山の中で倒れている理由など一つしかない。なんで今まで気が付かなかったんだろう。彼女があまりそういうふうに見えなかったからだろうか。
つまり、自殺して失敗したんだろう。それ以外に、人気のない山の中で倒れている理由など考えられない。なんでメイド服を着ているのかは分からないが……。
「俺についてきてもしょうがないぞ。俺も家なんてないし、金もない」
「家とお金が無くて困っているのですね、わかりました。では今から手に入れましょう」
うん?
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