自殺しようと山に入ったら、ご主人様に尽くすのが大好きな万能変態メイド拾った
セラ
第1話 自殺しようと山に入ったらメイド拾った
自殺をするなら、首吊りが一番いい。
必要な道具はロープ一本だけでいいし、あまり苦しくないといわれているからだ。ロープもなければベルトやネクタイでも代用できる。
首吊りによる死を、窒息死と勘違いして苦しいだろうと思い込んでいる人がいるが、それは違う。
首吊りによる死は、
首吊りは苦しくはない。しかし、いくらそういった知識を手に入れたところで、死への恐怖は無くなったりしない。
俺は真夜中に山を登りながら、死への恐怖を感じていた。明かりは料金を滞納し、ただのライトと化したスマホだ。首を吊るために、ロープを掛けるのに都合がよさそうな木を探す。道を外れ森の中へ入って行く。
一度失敗してレールを外れたら、二度と這い上がれない。それが今の社会だ。俺はどうしてここまで追い込まれてしまったのか。
両親の反対を押し切り上京し、三年。不景気の波が押し寄せ、最初に就いた会社を首になった。そして家賃が払えなくなり、家からも追い出されてしまった。新たに働こうにも、不景気でどこも雇ってはくれない。バイトだって住所がなきゃ難しい。
漫画喫茶でしばらく生活したが、それも金が尽きて出来なくなってしまった。だからもう、俺は死ぬしかない。そりゃホームレスみたいな生活をすればまだ生きられるが、そこまでして生きていたくはない。どうせ生きていたって生活が良くなることなんてまずないし、人はいつか死ぬんだ。今死んだってそう変わりはしない。
道なき道を無心で歩く。すると、なにやら白い影が目に入る。あれはなんだろう? なんとなく気になり近づく。近づいたらすぐに分かった。
人だ! 人が倒れている! 俺は慌てて駆け寄る。
倒れていたのは高校生くらいの、とても綺麗な女性だ。日本人離れしたプロポーションをしている。そして、なぜかメイド服を着ている。コスプレ? バイトの制服か? とりあえず肩をゆすり、声をかける。
「おい、大丈夫か!?」
呼びかけると、彼女はゆっくりと目を見開いた。どうやら
「あの、ここは?」
「ここは山の中だ。どうしてここで倒れていたのか、覚えてるか?」
「……いえ、何も覚えていません」
彼女は少し考えるそぶりをした後、ゆっくりと首を横に振った。なにも覚えていない、か。とりあえずケガもなさそうだし、無事でよかった。
しかしこれからどうしようか。こんな状況では自殺などとてもできない。まずは彼女を無事に家に帰さないと。
「とりあえず迎えを呼んだ方がいい。誰か呼べるか?」
「あの……電話は持っていません」
そうか。それは困ったな。となると俺のスマホは使えないし、自力で下山するしかなさそうだ。
「歩けるか?」
「はい」
「よし、とりあえず山を下りよう」
「今からですか? 私なら大丈夫ですが、普通の人には暗くて危険だと思いますが」
そういわれて俺はあたりを見回した。確かに周囲は暗くて良く見えない。道も見えないし、この状態で歩き回るのは少し危険か。歩きまわればすぐに遭難してしまいそうだ。俺たちの明かりはスマホのライトだけだ。あまり明るくはない。帰りの事など考えてなかった。帰るつもりなどなかったから当然だが。
「一旦ここで野宿をしましょう。今歩き回るのは危険です。山を下りるのは朝になってからが良いかと」
彼女はそういうと、地面に横になった。
「さあ私の上に横になってください」
「うん?」
「朝までは時間があります。一度横になり休んだ方が良いかと。地面に直接横になると、硬くて眠れないと思います。それに服も汚れてしまいます。なので、私の上にどうぞ」
そういうと彼女は両手を広げ、受け入れ態勢になる。本気か? 冗談だよな?
「ええっと、冗談?」
「本気です。遠慮せずにどうぞ。しっかり支えます。さあ」
さあといわれても困る。いきなり見知らぬ女性の上に寝れるわけがない。というか、硬い地面に寝ころび、自分の服が汚れまくっているがそれはいいのか?
「いや、それはちょっと」
「そう……ですか。仕方ありませんね、ちゃんと寝床を作りましょうか。そのロープ貸をしていただけますか?」
彼女は少しがっかりした後、立ち上がり目ざとく俺の持っているロープに目をつけた。少しためらった後俺がロープを渡すと、彼女はそれを二本の木に縛り輪を作る。その後、あたりに生えていた蔦を集め、ロープでできた輪に巻き付け始める。これってもしかして……。
「できました。即席のハンモックです。地面に寝るよりはましだと思います。どうぞ」
俺は彼女に促され、即席のハンモックを上から手で押してみる。意外と頑丈そうだ。慎重にハンモックに乗る。おお! 全然平気だ。結構快適だぞ。これなら寝れるかも。
「とても快適だ。でも、これで寝れるのは1人だけだな。どうする? ロープはもうないけど、もう一つ作れる?」
「私の事はお気になさらず。地面で寝ますので」
「気になるわ!」
「そうですか? となると、一緒に寝るしかありませんね。では私が下になりますので、どうぞ上に乗ってください」
「いやいやいや、なんで君が下なの? 俺の方が重いだろうし、俺が下になるよ」
「そんな!? ご主人様を下にだなんて」
「……ご主人様?」
「あ、いえ、なんでもありません。……では私が上になりますね」
そういうと、彼女は服を脱ぎ始める。みずみずしい白い肌があらわになっていく。
「ちょ、なんで服脱いでんの!?」
「先ほど地面に寝てしまいましたので、服を着たままだと貴方様に土がついてしまうかと」
「いい、いい。土なんて気にしないから服着てて」
「そうですか?」
彼女は首を傾げた後服を着なおし、俺の上に慎重に仰向けに乗る。小柄な彼女の頭が俺の胸に重なる。簡易ハンモックは少し沈むが、2人分の体重にも耐えている。
ちょっと重いが、寝れなくはない。それに夜の山は冷える。人肌が暖かい。一緒に寝るのも悪くはない。
それにしても妙な事になった。死のうと思って登った山の中で、女の子を抱えて眠ることになるとは。目の前には満点の星が煌めき、胸には女性の鼓動を感じる。なんだか、死ぬのは少しもったいないなと思ってしまった。
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