自殺しようと山に入ったら、ご主人様に尽くすのが大好きな万能変態メイド拾った

セラ

第1話 自殺しようと山に入ったらメイド拾った

 自殺をするなら、首吊りが一番いい。


 必要な道具はロープ一本だけでいいし、あまり苦しくないといわれているからだ。ロープもなければベルトやネクタイでも代用できる。


 首吊りによる死を、窒息死と勘違いして苦しいだろうと思い込んでいる人がいるが、それは違う。


 首吊りによる死は、縊死いしという首吊りだけにある特殊な死に方だ。頸動脈洞が圧迫されることにより頸動脈洞反射というものが起こる。急激に血圧が下がり、痛みも苦しもなく数秒で意識を失う。そのまま10分も発見されなければ、あっさり死ぬことができる。


 首吊りは苦しくはない。しかし、いくらそういった知識を手に入れたところで、死への恐怖は無くなったりしない。


 俺は真夜中に山を登りながら、死への恐怖を感じていた。明かりは料金を滞納し、ただのライトと化したスマホだ。首を吊るために、ロープを掛けるのに都合がよさそうな木を探す。道を外れ森の中へ入って行く。


 一度失敗してレールを外れたら、二度と這い上がれない。それが今の社会だ。俺はどうしてここまで追い込まれてしまったのか。


 両親の反対を押し切り上京し、三年。不景気の波が押し寄せ、最初に就いた会社を首になった。そして家賃が払えなくなり、家からも追い出されてしまった。新たに働こうにも、不景気でどこも雇ってはくれない。バイトだって住所がなきゃ難しい。


 漫画喫茶でしばらく生活したが、それも金が尽きて出来なくなってしまった。だからもう、俺は死ぬしかない。そりゃホームレスみたいな生活をすればまだ生きられるが、そこまでして生きていたくはない。どうせ生きていたって生活が良くなることなんてまずないし、人はいつか死ぬんだ。今死んだってそう変わりはしない。


 道なき道を無心で歩く。すると、なにやら白い影が目に入る。あれはなんだろう? なんとなく気になり近づく。近づいたらすぐに分かった。


 人だ! 人が倒れている! 俺は慌てて駆け寄る。


 倒れていたのは高校生くらいの、とても綺麗な女性だ。日本人離れしたプロポーションをしている。そして、なぜかメイド服を着ている。コスプレ? バイトの制服か? とりあえず肩をゆすり、声をかける。


「おい、大丈夫か!?」


 呼びかけると、彼女はゆっくりと目を見開いた。どうやら俺の先輩死体ではないらしい。


「あの、ここは?」

「ここは山の中だ。どうしてここで倒れていたのか、覚えてるか?」

「……いえ、何も覚えていません」


 彼女は少し考えるそぶりをした後、ゆっくりと首を横に振った。なにも覚えていない、か。とりあえずケガもなさそうだし、無事でよかった。


 しかしこれからどうしようか。こんな状況では自殺などとてもできない。まずは彼女を無事に家に帰さないと。


「とりあえず迎えを呼んだ方がいい。誰か呼べるか?」

「あの……電話は持っていません」


 そうか。それは困ったな。となると俺のスマホは使えないし、自力で下山するしかなさそうだ。


「歩けるか?」

「はい」

「よし、とりあえず山を下りよう」

「今からですか? 私なら大丈夫ですが、普通の人には暗くて危険だと思いますが」


 そういわれて俺はあたりを見回した。確かに周囲は暗くて良く見えない。道も見えないし、この状態で歩き回るのは少し危険か。歩きまわればすぐに遭難してしまいそうだ。俺たちの明かりはスマホのライトだけだ。あまり明るくはない。帰りの事など考えてなかった。帰るつもりなどなかったから当然だが。


「一旦ここで野宿をしましょう。今歩き回るのは危険です。山を下りるのは朝になってからが良いかと」


 彼女はそういうと、地面に横になった。


「さあ私の上に横になってください」

「うん?」

「朝までは時間があります。一度横になり休んだ方が良いかと。地面に直接横になると、硬くて眠れないと思います。それに服も汚れてしまいます。なので、私の上にどうぞ」


 そういうと彼女は両手を広げ、受け入れ態勢になる。本気か? 冗談だよな?


「ええっと、冗談?」

「本気です。遠慮せずにどうぞ。しっかり支えます。さあ」


 さあといわれても困る。いきなり見知らぬ女性の上に寝れるわけがない。というか、硬い地面に寝ころび、自分の服が汚れまくっているがそれはいいのか?


「いや、それはちょっと」

「そう……ですか。仕方ありませんね、ちゃんと寝床を作りましょうか。そのロープ貸をしていただけますか?」


 彼女は少しがっかりした後、立ち上がり目ざとく俺の持っているロープに目をつけた。少しためらった後俺がロープを渡すと、彼女はそれを二本の木に縛り輪を作る。その後、あたりに生えていた蔦を集め、ロープでできた輪に巻き付け始める。これってもしかして……。


「できました。即席のハンモックです。地面に寝るよりはましだと思います。どうぞ」


 俺は彼女に促され、即席のハンモックを上から手で押してみる。意外と頑丈そうだ。慎重にハンモックに乗る。おお! 全然平気だ。結構快適だぞ。これなら寝れるかも。


「とても快適だ。でも、これで寝れるのは1人だけだな。どうする? ロープはもうないけど、もう一つ作れる?」

「私の事はお気になさらず。地面で寝ますので」

「気になるわ!」

「そうですか? となると、一緒に寝るしかありませんね。では私が下になりますので、どうぞ上に乗ってください」

「いやいやいや、なんで君が下なの? 俺の方が重いだろうし、俺が下になるよ」

「そんな!? ご主人様を下にだなんて」

「……ご主人様?」

「あ、いえ、なんでもありません。……では私が上になりますね」


 そういうと、彼女は服を脱ぎ始める。みずみずしい白い肌があらわになっていく。


「ちょ、なんで服脱いでんの!?」

「先ほど地面に寝てしまいましたので、服を着たままだと貴方様に土がついてしまうかと」

「いい、いい。土なんて気にしないから服着てて」

「そうですか?」


 彼女は首を傾げた後服を着なおし、俺の上に慎重に仰向けに乗る。小柄な彼女の頭が俺の胸に重なる。簡易ハンモックは少し沈むが、2人分の体重にも耐えている。


 ちょっと重いが、寝れなくはない。それに夜の山は冷える。人肌が暖かい。一緒に寝るのも悪くはない。


 それにしても妙な事になった。死のうと思って登った山の中で、女の子を抱えて眠ることになるとは。目の前には満点の星が煌めき、胸には女性の鼓動を感じる。なんだか、死ぬのは少しもったいないなと思ってしまった。

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