第20話 非常事態宣言と戒厳令の違いと怖さ

伊東巳代治「今日は非常事態宣言と戒厳令についてです」

金子堅太郎「『戒厳令』という言葉を聞いたことがあると思います。これは憲法や法律の一部を停止し、行政権・司法権などを一部または全部、軍の指揮下に移行するということです」


巳代治「平たく言うと、軍主導で国民の生活を制限するということです」


堅太郎「大日本帝国憲法には、この戒厳令に当たる法律がありました」

巳代治「第14条『天皇ハ戒嚴ヲ宣告ス。戒嚴ノ要件及効力ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム』です」

堅太郎「ただ、実際に発動したのは第8条の『緊急勅令』が主でした。そして、現在の日本国憲法にはこれに当たる規定はありません」


巳代治「次に『非常事態宣言』です。これは軍ではなく、『政府』が国民の行動を一時的に制限できる措置になります」

堅太郎「何か起きると「急いで非常事態宣言を!」と思うかもしれませんが、これは『国家緊急権』にあたるものであり、とても取り扱いが難しいのです」


巳代治「非常事態宣言下では、社会学用語でいうところの『暴力装置』つまりは警察や軍や公務員を動員できます。また、憲法を一時停止し、移動の自由などの基本的人権を制限し、令状なしでの捜査や逮捕も出来るし、報道も制限できます」


堅太郎「これはあくまで非常事態宣言というのは、そういうものであるという例です。どんな非常事態宣言でもそうであるというわけではありません」


巳代治「そういった恐怖を与えないためにも、これは日本的な緊急事態宣言ですみたいな言い方をするのです。また前例を作って政治家が暴走したときに国が傾かないよう、国は『新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言』とか限定的な形にしたりするわけです」


堅太郎「簡単に非常事態宣言が発動できるようになっちゃうと、思想も移動もなんでも制限されちゃって、報道も規制されるし、急に逮捕することも出来るようになっちゃうかもしれないからね」


巳代治「日本が慎重になるのは、戦前の全体主義の反省という苦い思いがあるからです。翼賛体制どころか挙国一致という言葉も使いたがらないでしょ」


堅太郎「一時的であれ、立憲主義の国が憲法で決められた国民の権利を停止することは、立憲主義を破壊する危険性があるのです。そのため厳格な取り決めをして、検証をして行われることになるので、時間がかかるわけです」


巳代治「なお、県などの地方自治体が独自に発する『非常事態宣言』は法的なものではなく、お願いのようなものです」


堅太郎「ただ、非常事態宣言と口にする以上、知事や市長側もそれなりの覚悟があると思うので、外出を延期してくださいね」


巳代治「今回も経済社会活動を可能な限り維持するのを保証する『緊急事態宣言』としていますが、国が強硬に傾かざる得ないような事態を避けるため、出来るだけカラオケもうちカラにするなど遊び方を変えましょう」


堅太郎「ネトゲとかしてもいいし、本読んでもいいしね。でも、目の健康だけは気を付けて」


巳代治「ついでに、なんでこんなに慎重なのかを心に留め、せっかく時間がありますので、憲法改正に盛り込まれている緊急政令などについてもググってみたりするとなんとなく色々わかるかもしれません」


堅太郎「これを書いてる人間はあくまで素人ですので、ご自身で詳しいことは調べてみてくださいね」


<追記>


巳代治「さて、2020年4月に日本で出た緊急事態宣言の内容です。これは2015年5月に公布された『新型インフルエンザ等対策特別措置法』通称『特措法』を3月に新型コロナウイルスにも適用できるように改正された法を使っています」


堅太郎「一部報道では、こういうのを伝えずに政府は何もやってない!と伝えたりしていますが、こういう時、政府や官僚は現行法をどういう形でどうしたら適用できるか目から血が出るほどに考え込んでいるのです」


巳代治「施行するのも大変なんだよ。特措法32条に基づき、国民の生命や健康に著しく重大な被害を与えるおそれがある場合云々……とか理由がないといけないからね」

堅太郎「それが法治国家であり、立憲国家であるからね。それを自ら捨てて超法規的措置を選ぶことは、立憲国家の政治家たるもの出来ない」


巳代治「本当なら『非常事態宣言』は基本的人権の停止など私権制限が出来るから、罰則を伴う外出禁止や交通機関の停止、二人以上の集会の禁止とかも出来る。でも、今回はとても慎重な形を取っています」


堅太郎「都道府県知事が強制できるのは二つ。特措法49条。医療施設を開設するために土地・建物を使用できる。これは所有者の同意が得られなくても強制的に収用できます」


巳代治「もう一つは特措法55条。医薬品や食品など必要な物資の売渡を要請でき、企業が同意しない場合、強制的に収用できます」


堅太郎「これには罰則も伴います。特措法76条により命令に従わず物資を隠したり、運び出したりした場合は懲役または罰金です」


巳代治「特措法77条も76条に続く形で、物資のあるはずの場所に立ち入り検査をするのを拒否したりすると罰せられます」


堅太郎「現在の日本は民主主義国家です。そして、民主主義国家とは人々がそれなりに法律知識を持ち、きちんと施行された法を読まないといけません」


巳代治「明治の頃に普通選挙がすぐに行われなかったのはこのためです。まずは民衆の教育を、民衆に知識をというのが先だったわけです」

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