第16話 明治時代と士族の結婚
巳代治「例えば薩摩の海軍大臣・
堅太郎「同じく薩摩の陸軍元帥・
巳代治「ところで時々、親が海軍の軍人なら子供もそうなるものと言われることもありますが、そうでもないです。従道さんとか同じ薩摩の
堅太郎「親は軍人だけど、子供は政治家や学者になるって人も多いしね。大山さんの家も大山さんは陸軍で、長男は海軍、柏くんは最初は陸軍だったけど、軍が嫌になってやめて考古学者になっていたね」
堅太郎「結婚に話を戻すと、長州でもあります。児玉源太郎さんの長男は同じ長州軍人・
巳代治「山本権兵衛の家とかもそうだね。長女が
堅太郎「政治だと外務大臣を歴任にした加藤高明くんも奥さんは実業家・岩崎弥太郎の長女だし、森有礼さんの後妻は岩倉具視さんの娘さんだったね」
巳代治「こんな感じで家同士で縁を結び、結束を強めたり、結婚によって高貴な血を入れたり、あるいは結婚で引き立ててもらったりするのです」
堅太郎「ここまで説明して感じると思いますが、明治政府の大勢がやはり軍人でも政治家でも士族なのです」
巳代治「うちの伊藤さんは農民の生まれだけど、本当にそういう生まれって人は稀なんだよね。僕らにしろ民権派にしろ、身分が低いと言っても『下級官吏』って意味の低さだったりするから、武士の家柄が多い」
堅太郎「閨閥の話から少しずれますが明治14年から37年の間は『陸軍武官結婚条例』というものがありました」
巳代治「士官の結婚には軍の許可が必要です。そして、相手の調査もされました。また、現役下士官は原則として結婚不可でした」
堅太郎「結婚するときには陸軍省に家計保護金として、お金を陸軍省に納めなくてはなりませんでした。これは大尉460円、少尉600円などの大きい額で、尉官の給料に比べて高く、事実上の結婚禁止だろうとも言われていました」
巳代治「なお、これは37年で無くなったのではなく、37年施行の『陸軍現役軍人婚姻条例』に引き継がれます」
巳代治「海軍も明治18年の『海軍武官結婚條例』に始まり、昭和になるまでずっと現役海軍軍人の結婚に厳しい規則を設けます」
堅太郎「明治25年から41年に施行されていた『海軍軍人結婚條例』を見ても、届け出をして、奥さんとなる人の身分証明をして……と細かく決められていました」
巳代治「まぁ、でも、裏技もあるんだよね。どこかいい家の養女にしてしまうこと」
堅太郎「お妾が産んだ子を本妻の子として育てるとか、遠縁、友人の子を籍に入れるとかよくあった時代だから、身分的にあまりって子も誰かの家の養女にして整えちゃうとかね」
巳代治「中には上官が養女にしてくれるとかもあって、それで形だけ上官の娘さんと結婚するってことにして、好きな相手と結婚した人もいたみたいだね」
堅太郎「他にも士族の結婚というと、うちみたいな感じかな。うちは母が『まだ自己の思想が固まらない年齢の若いお嫁さんをもらって、金子家の
巳代治「今の時代だったら何か言われそうな展開だね」
堅太郎「でも、士族の家ではこういう結婚が普通にあったと思うよ。家を保つための結婚だし、家風を大事にしたいって家は、まず家に来てもらって家風を仕込んで、それで正式に……みたいなのあったと思う」
巳代治「へぇ~、そういうものなんだ」
堅太郎「巳代治、そんな他人事みたいに……」
巳代治「僕は長男じゃなかったし、そういうの無かったから。まぁ家風とかはともかく、閨閥目的の結婚は良い面もあり、悪い面もありだと思うよ」
堅太郎「……と言うと?」
巳代治「前に金子君と伊藤さんの娘婿である末松謙澄くんを比較した記事を見たんだよ。それだと金子君と末松君は似たような働きをしてきたはずなのに、末松が大臣になるという話が出ると『伊藤博文の娘婿だから』と言われるって」
堅太郎「ああ~……」
巳代治「まぁ、金子君のほうが憲法やポーツマス条約なんかの法律面・外交面の成果が大きいから、似たような働きとは思わないけど。ただ、僕や金子君が伊藤さんの娘婿だったり、井上毅さんが岩倉卿の娘婿だったりしたら、評価がまた変わっただろうからね」
堅太郎「まぁ、あるかもね。それと、地位目的の結婚でなく、縁を結ぶための結婚もあります。僕の妹・芳子は僕の親友・團琢磨の妻になりました。一緒に渡米した後もずっと交友は続いて、琢磨は僕の義弟になったんだ」
巳代治「時々あるよね。そういう親友とのって、あれってどういう感覚なんだろう……」
堅太郎「その点はまた今度~。ではでは、明治時代と士族の結婚でした」
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