第13話 反乱を起こした将校はどんな罰が下るのか?
巳代治「さて、今回は反乱を起こした将校のその後を追って行きたいと思います。前の甘粕大尉の恩赦の話(https://kakuyomu.jp/works/1177354054892641004/episodes/1177354054892689434)は国とか上への反乱じゃなかったから、今回はそういうお話で」
堅太郎「まず、昭和の青年将校の反乱として有名な昭和7年の『五・一五事件』から。首謀者である古賀清志中尉は禁錮15年の刑になり、失職します。でも、昭和13年には特赦され、出獄。出獄後は海軍特務部に勤務して、平成9年に89歳で亡くなります」
巳代治「古賀中尉は牧野伸顕内大臣の家を襲撃した主犯で、犬養毅首相官邸を襲撃の主犯は三上卓中尉です。彼は昭和8年に横須賀海軍の軍法会議で死刑を求刑されますが、判決は禁錮15年。古賀中尉と同じく昭和13年には仮釈放。戦前は近衛文麿のブレーンとして活躍します」
堅太郎「主犯がこうなので他もそんな感じ。将校は禁錮10年、士官学校生は4年とか」
巳代治「……ちょっと軽いと思うんだよね。5 年くらい刑に服して、後は自由の身どころか仕事もあって、活躍の場を得てるわけでしょ。犬養のこと殺さないで欲しかったんだけど」
堅太郎「巳代治は犬養くんと仲良かったからね。大正の頃は後藤新平さんと犬養毅くんと巳代治で三角同盟っていうの組んでたし」
巳代治「確かに犬養はそんな軍部寄りじゃない政党政治家だったよ。でも、犬養は軍備拡張をしたがる軍のために膨大な軍事費を支出していたのに。だから暗殺って嫌いなんだよ。その人間が何をやって何を考えてるかよく知りもしないで、興奮状態で大事な人材を殺すから」
堅太郎「まぁね……。ちょっと将校の話とはズレるのだけど、『五・一五事件』の数ヶ月前『血盟団事件』という連続テロがありました。僕の親友の團琢磨はそのときに菱沼五郎に射殺されます。菱沼も判決は無期懲役だったけど、6年後には特赦で出所。昭和34年には地元茨城県の県議となり、連続8期つとめ、78歳で亡くなります」
巳代治「菱沼の最初の標的は僕だったんだよね。でも、團くんの前に井上準之助が殺されたのを僕が警戒して殺しづらくなったと標的を変えた」
堅太郎「團は……僕が18歳、團が13歳の時に一緒にアメリカに留学した仲間なんだ。その後、僕の妹と結婚したから團は僕の義弟でもある。團は撃たれて死んでしまったのに、撃った菱沼は6年で出て、その後は昭和を楽しく暮らしたわけだ……」
巳代治「この話題、わりと僕らにキツイね」
堅太郎「そうだね。早めに終わらせるために次行こう、次」
巳代治「次に起こるのは昭和10年の『永田惨殺事件』です。相沢三郎陸軍中佐が永田鉄山少将を惨殺しました。陸軍省の中で、真昼間に」
堅太郎「相沢は憲兵に拘束されて、第一師団の軍法会議にかけられて、銃殺刑になりました」
巳代治「ちょっと順番が前後するけど昭和6年にあった陸軍の将校がクーデターを起こそうとした『錦旗革命事件』は結局首謀者の処分もなにも有耶無耶になったね」
堅太郎「そのあたりの有耶無耶さとか、処分の甘さが『二・二六事件』にも繋がっちゃうんだけどね……」
巳代治「最大の反乱事件『二・二六事件』では首謀者たちの多くが軍法会議で死刑となり、死刑が執行されます」
堅太郎「『二・二六事件』は首謀者がもう第一旅団の副官とか中隊長とか大尉クラスだったからね。裁判は非公開の特設軍法会議となりました」
巳代治「前述の『永田惨殺事件』のときは、公開の軍法会議で行われたんだ。その結果、犯人の相沢が軍法会議で語ることが報道にも乗り、世論が過熱した。犯人への同情はもちろん、その思想に感化される人間がいるとまずいってことで非公開になったんだよ」
堅太郎「実行犯たちは陸軍の派閥争いに影響されたとかいろんな原因があったわけだけど、それらはさておいて、ひとまず判決だけ言うと数十人が死刑、後は無期とか禁錮になりました」
巳代治「最後は終戦直前に起きた『宮城事件』日本が降伏して、太平洋戦争を終わらせるのを阻止するため、近衛歩兵第二連隊第一大隊が武装して皇居に乗り込みます」
堅太郎「宮内省は大変。電話線は切断されて、皇宮警察は武装解除された。反乱軍は玉音放送が録音されたレコード盤を探し回ります。侍従の徳川義寛さんが事務官室の書類入れ金庫に、他の書類に紛れ込ませる形で入れておいたので発見されずに済みましたが、終戦工作をしていた木戸さんたちも見つかったら殺される可能性が高いから生きた心地がしなかったと思う」
巳代治「この事件もまさに皇居に乗り込む大罪だったのに、軍事裁判にもかけられず、うやむやになったね」
堅太郎「森近衛第一師団長にクーデターへの参加を迫った井田正孝中佐は、戦後、電通の常務になって、2004年に91歳で死亡。竹下正彦中佐は陸上自衛隊幹部学校長に」
巳代治「結局、罰せられるかどうかって罪の重さより、状況とかに寄るところが大きいよね。それでいいのかは別にしてね……」
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