第12話 明治・大正の恩赦

堅太郎「さて、今回は恩赦のお話です」

堅太郎「恩赦は“陛下の御即位に際して”って感じだから、君主がするものみたいに思われがちだけど、そういうわけでもないんです」


巳代治「君主のいない共和制の国でも恩赦はあります。アメリカだと大統領や州知事が恩赦をしたり、フランスだと議会が大赦を決定したり」

堅太郎「ただ、明治の世だと恩赦は陛下のものです」


巳代治「僕らが大日本帝国憲法第16条で『天皇ハ大赦特赦減刑及復権ヲ命ス』って決めたからね」

堅太郎「この一文にあるように、恩赦は大赦、特赦、減刑、復権があります。後は刑の執行免除かな」


巳代治「大赦は特定の罪で捕まった人が全員無罪になること。特赦は特定の人が無罪になることです」

堅太郎「例えば『食い逃げをした人』が全員無罪になるのが『大赦』

『食い逃げをした伊藤さん』という特定の人だけが無罪になるのが『特赦』です」

巳代治「死刑が無期懲役になったりが『減刑』。被選挙権とか何かの職業につく資格を失くしたのが回復するのが『復権』となります」


堅太郎「大赦から減刑あたりが適用されると、重罪で捕まった人も無罪になったり、罪が軽くなって出られたりします」

巳代治「令和の恩赦はそういう人は含まれなかったみたいなの見た気がするんだけど」


堅太郎「現在までに執行された恩赦は『政令恩赦』なんだ。『特別基準恩赦』はまだわからないかもしれないよ。

法務省の「復権令」及び「即位の礼に当たり行う特別恩赦基準」について(http://www.moj.go.jp/hogo1/soumu/hogo08_00006.html)にこんな文があったし」

巳代治「“病気等で長期間刑の執行が停止されている人に対する刑の執行の免除”」

堅太郎「刑の執行の免除ってくらいだから、まあ、そこそこ重い人も含まれるんじゃないかなぁとも思うんだよね」

巳代治「そうだね。で、それでどんな人が対象になったの?」

堅太郎「わからない」

巳代治「わかんないの!?」

堅太郎「『即位の礼に当たり行う特別恩赦基準』案文(http://www.moj.go.jp/content/001307659.pdf)にあるように特別基準恩赦は希望制なんだよ。これ書いてるのが令和元年12月4日。恩赦出願期限は令和2年1月21日。だから、誰が出願するかもわからないし、出願してもその後に審査があるから、誰が対象になるかまだわからないんだ」

巳代治「でも、昭和天皇陛下が崩御されたとき、1000万人以上が恩赦されたけど、死刑囚は含まれなかった気がしたから、今回もないかもね」


巳代治「まぁ令和の恩赦は交通違反とか軽微な犯罪が主なんだよね」

堅太郎「そうだねー。“軽微な犯罪をメインにします”だけど、これにはカラクリがあるんだ。“選挙違反者の復権”も含まれる。しかも、これまでもかなりの人数が含まれている」

巳代治「あ~……そういうことね……」


堅太郎「さて、話を明治大正に戻そうか」

巳代治「だね。明治も明治大帝の御即位に際し、恩赦が行われました。それ以降も明治改元、大日本帝国憲法発布、英照皇太后陛下の御大喪の時に大赦や減刑がありました」


堅太郎「大日本帝国憲法発布の時、西郷隆盛さんに恩赦が行われて、正三位が追贈されたりとかね」

巳代治「まぁ、別に恩赦しなくても西郷さんは当時から民衆の人気が高かったんだけどね」


堅太郎「恩赦しましたっていうポーズが必要だったのもあるよ。恩赦は不完全な刑事捜査、司法システムの補完として行われる面が強いのだけど、こんな感じで明治・大正の恩赦は、現政権とぶつかった人への配慮みたいな面もあったんだよね」


巳代治「昭和の恩赦もそういう政治面があるね。戦前に治安維持法違反とか国家総動員法絡みで捕まった人たちを、まとめて恩赦って形で減刑しようみたいな」

堅太郎「大正も恩赦が行われます。大正天皇陛下の御即位、明治大帝陛下・昭憲皇太后陛下の御大喪、昭和天皇陛下になられる皇太子殿下の立太子の時などに恩赦が行われました」


巳代治「大正天皇陛下の御即位の時にはかなり死刑の減刑がされたよね」

堅太郎「そうだね。だから、大正3年の時は大きく死刑執行数が減るんだよ。まぁ大正4年の時に最多数を記録するから、3年だけやらなかった可能性もあるけど」

巳代治「大正元年の時も明治大帝陛下の御大喪の影響か、死刑執行が少ないんだよね」


巳代治「ところでこれって“月島軍曹が後に牢に繋がられても、助かる方法ないかな”ってのが元なんでしょ」

堅太郎「そうだね。金カム時代から、もう少しすると大正天皇陛下が御即位されて恩赦があるかもしれないから」


巳代治「で、どうなの?」

堅太郎「助かるんじゃない」

巳代治「軽いな!」


堅太郎「恩赦なんて、ある程度、政権側の思惑で動くものなんだよ。これは別に日本に限ったことじゃない。アメリカでも恩赦が白人ばかりに偏重していると話題になってる。それも2000年台になってからね。恩赦の9割近くが白人じゃないかって問題になったこともある」


巳代治「でも、軍人だと軍法会議でしょ。それでも恩赦の減刑対象になる?」

堅太郎「なる。甘粕事件で懲役10年の実刑になった甘粕大尉は恩赦で2年数か月で仮出所したしね。しかもその後、行動の自由がないとかはなく、フランス留学に行ってるし」


堅太郎「もし、問題があるとしたら“国家転覆”の計画だよね。明治の世では“大逆”は重罪だから」

巳代治「でも、大逆かどうかは微妙だよね。作品上、面倒が起きないようにか陛下のことには触れてないけど、厳密には大逆罪は陛下に危害を加えようとするもの、だし」


堅太郎「『天皇三后皇太子ニ対シ危害ヲ加ヘ又ハ加ヘントシタル者ハ死刑ニ処ス

』だからね」

巳代治「ただ、“準備していた”でも死刑になるからね、大逆は。それで適用できるかもしれない。幸徳事件の時もそうだったし」


堅太郎「でも、幸徳事件の時も、仮釈放された人たちもいるでしょう。ただ幸徳秋水と面識があるとか、社会主義者・無政府主義者っぽいから、とりあえず一緒に捕まえておいたせいとかもあったけど。どんな事件でも仮釈放して生き残る人たちは結構いるんだよ」

巳代治「社会主義者かもって疑われるのは危ない点だよね。社会主義者やアナーキストを撲滅しようって明治の末は躍起になってるから」


堅太郎「でも、それでも僕は助かると思うけどね。だって、明治政府は長州と薩摩の政府だから」

巳代治「……薩摩の権力か」

堅太郎「そういうこと。正直、下士官程度の生死なんて大した問題じゃないんだよ。見せしめにもならないしね。それくらいなら、薩摩の権力者に恩を売っておいたほうがいいと思わない?」

巳代治「そんな取引をすれば、足枷になるだけだと思うけど」

堅太郎「足枷になってでも助けたいと思うかはその人次第だね」


堅太郎「あとね、金カム世界独自のものもある」

巳代治「独自?」

堅太郎「15巻で尊属殺で死刑になるはずだった月島軍曹を鶴見中尉が出所させてるでしょ。中尉クラスで、裏工作でそう出来るならば、薩長の人間が手を加えれば、下士官一人の命を助けるなんて容易いと思うんだよ」

巳代治「なるほど。まぁあまり暗く考えなくてもいいんじゃないってところだね」

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