第41話 道山の逆襲
「『戦国千国』のコミカライズって……もう新しい漫画家を見つけてきたのか!?」
道山の宣言に慌てたようにそう問いかける佳祐。
そんな彼に対し、道山はあざ笑うように答える。
「当然じゃ。儂ほどの作家になれば作画を担当する漫画家を用意させることなど造作もない。それにそちらの刑部姫と組んだ際、儂にもある閃きが湧いてな。何も“人”にこだわることはないとな」
「!? まさか」
佳祐がそれに気づくと道山の後ろに隠れていたある人物が姿を現す。
黒髪に片目を覆った一見すると根暗そうな人物。痩せ型の体型で、影の薄い印象がある。
実際、道山に紹介されても本人は小さな声で「ど、どうも……」と挨拶するだけであった。
「紹介しよう。こちら画道(がどう)佐助(さすけ)と言う儂の新しいパートナーじゃ」
「は、はじめまして……画道佐助というものです。この度、道山先生と組んで漫画を描くことになりました。よろしく……」
「あ、ああ、こちらこそ、よろしく……」
あの道山が用意した人物と言う割には見た目は普通の気の弱い人物にしか見えなかった。
だが、無論そのようなはずはなく、道山は刑部姫と佳祐の二人の画道佐助の本当の名前を告げる。
「まあ、見ての通り気の弱い人物じゃが、こやつの絵に関する才能は本物じゃ。なぜなら、お主達には『画霊』と言えば伝わるかの?」
「! 画霊じゃと!?」
その名を聞いた瞬間、刑部姫が反応をする。
隣では佳祐も同じように驚く姿があるが、画霊に関する知識は刑部姫の方がより知っているだろう。
その証拠に彼の名を聞くやいなや刑部姫の顔に焦るような表情が生まれ、頬には冷や汗が流れていた。
「まあ、彼の画力と儂の原作があれば連載はもはや決まったようなもの。それと知っているかもしれないが次の連載会議に通るのは一本。つまり新連載も一つのみ。これの意味するところはわかるな?」
「…………」
それはつまり佳祐と刑部姫達の漫画を連載させないと暗に伝えていることを二人はよく知っていた。
そんな二人の難しい表情を肴に道山はさも愉快とばかりに笑う。
「くっくっく、よい表情じゃ。では、儂らはこれを編集部へと渡す。明日の連載会議がどうなるか楽しみよのぉ」
「そ、それでは失礼いたします……」
原稿片手に高笑いを上げながら歩き去る道山についていくように画霊――画道佐助と呼ばれた男もそれに付き従い歩いていく。
二人が編集部の奥の扉に消えていくのを確認すると刑部姫がボソリと呟く。
「……あの時、あやつが言っていた言葉……こういうことであったか……」
あの言葉。
それを聞いた佳祐は前に屋敷で自分達が去る際、道山が刑部姫に「後悔させてやる」と言っていた言葉を思い出す。
その言葉通り、刑部姫の表情は悔しそうであり、後悔をしていた。
どう声をかけたらいいものかと悩む佳祐であったが、そんな二人の背中を叩いたのは担当の美和であった。
「なーに辛気臭い顔をしているんだ。二人共!」
「み、美和さん?」
思わぬ担当・美和の明るい声に困惑した表情を浮かべる佳祐。
だが、美和はそんな佳祐や刑部姫に対しハッキリと宣言する。
「確かにここで道山先生の『戦国千国』の原稿が上がったのは辛い。が、ハッキリ言うが私は君達のあの原稿ならそれにも負けないと確信しているぞ」
「え?」
美和のその発言に佳祐は思わず目を丸くする。
それもそのはずであり、相手は大ベストセラーの小説であり、そのコミカライズの原稿である。
普通ならば連載という観点からも向こうに分があるはずである。しかし、
「君達はこの漫画を仕上げるのに全力を尽くしてくれた。ならあとは担当である私がこの原稿を連載に通すだけ。任せておけ! ここから先は担当の――私の仕事だ!」
そう言って自らの胸を叩き美和は佳祐と刑部姫に宣言する。
そんな美和の姿に佳祐と刑部姫は互いに顔を見合わせた後、静かに頷き美和に対し頭を下げる。
「分かりました。それじゃあ、お願いします。美和さん」
「うむ、頼むぞ。美和よ」
「ははは、どーんと任せておきたまえ」
二人の頼むを胸に美和は自分の胸を思いっきり叩くが、その強さに思わず咳き込むのであった。
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