第31話 ほのかに揺れる嫉妬

「……と、こんな感じですかね。キャラの心情からストーリーを膨らませるという手法がオレは割とやりやすいかと」


「なるほど、勉強になりました。ありがとうございます! 佳祐さん」


「いやまあ、これくらいならお安い御用だよ」


 あれから雪芽の頼みで彼女に自分のストーリーに対する考え方やネタの出し方についてレクチャーをし、その都度何度も頷いてはノートにメモを取る雪芽。

 佳祐も雪芽からの質問に対しては真摯に答え、それを受け取る彼女の姿勢もまた真剣であり、佳祐自身まんざらでもない気分を味わっていた。


「……ただいま戻ったぞー」


 そんな折、部屋の扉が開かれ刑部姫が帰ってくる。


「おお、おかえり。刑部姫」


「おかえりなさいませ、刑部姫さん」


「なっ!? な、なぜお主がここにいる! 雪女!」


 が、部屋に帰ってくるや否やつい先日会ったばかりのあやかしが部屋にいるのを見て、刑部姫は耳と尻尾を逆立てて雪芽を威嚇する。


「そ、そう怖い顔をするなよ、刑部姫。彼女はオレにちょっと相談に来ただけなんだ」


「相談じゃと!? まさか例の漫画制作の共同のやつか!? ふざけるでない! 佳祐はわらわと組むんじゃ!」


「も、勿論それはわかってるって! そうじゃなくて、彼女は単にオレの原稿を見に来たのと、話作りの基礎を学びに来たんだよ」


「なんじゃと……?」


 佳祐からの説明に逆立った尻尾と耳を抑える刑部姫。

 一方の雪芽は申し訳なさそうに刑部姫に頭を下げながら告げる。


「はい……佳祐さんの言う通り、私はここに彼の原稿と話作りの仕方を少し学ばせに来ただけです。刑部姫さんから彼を奪うつもりはありません」


「…………」


 そう謝罪する雪芽に対し、しかし刑部姫の視線は冷たい。

 他にどう説明するべきかと悩む佳祐であったが、二人の間に流れた空気を感じてか雪芽が立ち上がる。


「それでは私はこれで失礼いたしますね。佳祐さんの原稿も見せていただきましたし、何より話作りのアドバイスとても参考になりました。私も佳祐さんからのアドバイスをもとにもっと頑張ってみますね」


「あ、ああ。そうだね。オレも雪芽さんの新連載楽しみにしているよ」


「本当ですか!? ありがとうございます!」


 佳祐からのセリフに顔をほころばせ喜ぶ雪芽。

 そのまま玄関に向かう彼女であったが、扉に手をかけた瞬間、ふと佳祐の方を振り返る。


「あ、あの、佳祐さん……その、よければでいいのですが……また話作りに関するアドバイスを伺いに来ても……いいですか?」


「え?」


 雪芽からのそんな恥じらうような頼みに一瞬、言葉を詰まらせる佳祐であったが、すぐに断る必要もないと頷く。


「ああ、オレでよければいつでも」


「ありがとございます! それでは、また遊びに来ますね!」


 そう言って笑顔のまま扉の向こうへと消えていく雪芽。

 だが、そんな彼女とは対照的に刑部姫はなにやら不機嫌な表情のまま佳祐を見る。


「……で」


「え、いや、でってなに?」


「今のはなんじゃ?」


「え、今のって?」


「また話作りを学びに来ると。なぜそれをあやつに教える必要がある? あやつは敵じゃぞ。わらわ達から新連載を奪ったライバル。なのになぜそんなあやつに話作りを教える必要がある」


「そ、それは……そうだけどさ……」


 刑部姫からの指摘も最もである。

 いくら同じ漫画家、同じ出版社でお世話になっている者同士とはいえ、そんなある種ライバルといえる相手に自分の話作りのコツなどを教えてやる必要はないはずである。


「けどその……彼女の漫画に対する姿勢というか、そういうのは本気で……それにオレに憧れて漫画家になってくれたってのも嬉しくって、それでつい……」


「それで敵に有利な情報を渡してどうする! それよりも今はわらわ達のことが最優先じゃろう! 敵にアドバイスするより、自分の作品作りに集中せぬか!」


「そ、そうだね。すまん、刑部姫……」


 珍しく不機嫌にそう説教する刑部姫に、しかし佳祐は謝罪する。

 どう見ても彼女の言っている事の方が正論である。今は他にうつつをぬかしている場合ではないと佳祐自身も反省する。が、


「……わらわには教えず……あやつには話作りのコツを話すのか……」


「え?」


 ふと、ボソリと聞こえたそんな刑部姫の一言に思わず反応する。


「えっと、今なにか言った? 刑部姫?」


「……なんでもないわ」


 しかしその後は刑部姫は佳祐と話すことなく背を向けたまま机にしがみつき、原稿に取り掛かるのであった。

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