第3話 電子機器オート嘔吐

 体は剣が刺さっている。血潮はビビって、心は萎縮。幾たびの廊下を越えて惨敗。そんなどうでもいいことを考えないとやっていけない。剣とは言ったが視線のことだ。会長と同じ配属先になった俺は妬みの視線を向けられている。


 そりゃそうだ。あの会長だし。しかもあろうことか今俺の隣を歩いている。目線が釘付けにならないわけがない。




 放課後、現在全生徒で行われているのは同じ配属先となった人たちの顔合わせだ。俺と生徒会長は顔合わせの教室へと向かっている。廊下が何故かいつもより長く感じた。そしてたどり着いたのは生徒会室だった。なるほど会長がいるからここでやるのか。


 そう思っていると会長がピッキングで鍵を開けた。え?そんなことする必要あった?ガラッと扉を開けると中には一人の女の子がいた。




「あれ、会長、入ってくるなら言ってくだされば良かったのに」




「あらごめんなさい。顔合わせの時間だから誰もいないものだと思っていて」




「あー、もうそんな時間ですか、失礼しました。今出ていきますね」




 その女の子が生徒会室から出ると会長の後ろにいた俺と目があった。そして何かを察したような顔をして苦笑いを浮かべこう言った。




「あはは、どんまい、会長はちょっとアレだけど。頑張ってね」




 どんまいって会長と一緒になっちゃったことに対してかな?その被害ならもう十分に受けているが……。




「くんくん」




「うわぁ!」




「やっほー、そーくん。お昼ご飯は学食の牛丼だね?ちゃんとお昼食べたんだね、偉いね〜」




 化け物嗅覚が来た。そういえばこいつも同じ配属だったわ。




「あなたは、春明さんね?よろしく」




「会長知ってるんですか?」




「私は全校生徒の名前と顔が一致するわ。それが会長の務めだもの」




 すげーな、この人。あれ?白雲の後ろにもう一人いる。茶色の外ハネしている長い髪。この人も同じ配属なのだろうか。




「あ、夏暗ほたるでーつ。よろしく〜」




 なるほどこういう感じの人ね。若干低めだが、聞き取りやすい声だった。あと目立つ特徴としては、ちまっこい。とにかく小さい、どことは言わないがありとあらゆる箇所がちまい。




「あ"?なんだお前」




ヒエッ……。少しじろじろ見すぎたらしく、睨まれてしまった。つり目なので睨まれると他の人よりちょっと怖い。




「お前、私の胸を見て“あ、このチビ平らだ〜、こいつの背中に乗ってスノボできそうだな〜”とか思っただろ」




「思ってないが?!」




 いやなんつーかペラいなとはたしかに思ってしまったが……。




「とにかく、入りましょうか」




 4人が生徒会室に入る。生徒会室は十数人くらいで会議ができるくらいの広さだった。




「さて、みなさん、適当にお座りください」




 会長がそう言うとみんなが座り、会長の一言を待った。




「さてみなさん、本来ならば各先生方から説明があるのですが、この配属先は私が一任させていただいております。それで……」




 その後は配属先の場所と時間、メンバーが今1人いないということを説明し、軽く自己紹介をして、解散となった。やっと帰れる。




「あーあ、疲れたなー」




「始まってもいないぞ。ほたる」




「ま、そうだなぁ」




 自己紹介をするとほたるは急に俺のことを呼び捨てにしてきたのでこちらもそうした。別に気にしていなかったようなので結構フランクな人なんだろう。




「じゃ、帰るか」




 そう言って、みんなが立ち上がって生徒会室を後にした。ちなみに白雲は走って出て行った。なにかあるのかな。




「そういえば会長、なんでピッキングで開けたんですか?」




「だって、鍵を取りに行くなら二階にいかなきゃならないでしょう?」




「え?はい、まぁ、そうですね」




「だからよ」




 ん?どういうこと?生徒会室は一階にあって、たしかにここの鍵を職員室に借りに行くには二階にいかなければいけないが。




「エスカレーターを使えないの」




「はい?」




「私、機械を使うと吐きます」




「なんて?」




 この学校、実は階段じゃなく全部エスカレーターなのだ。私立の金持ち高校というわけではないが、この学校の階層を移動する手段はエスカレーター、もしくはエレベーターだった。




「いや機械を使うと吐くって……え?嘘でしょう?」




「スマホも持ってないわ」




「えぇ……じゃあ二階に行く時どうしてるんですか……」




「おぶってもらうか、抱っこしてもらうか?」




 赤ちゃんかよ。あと抱っことか言うな。可愛いだろうが。




「だからこうして、エスカレーターに足を踏み入れオロロロロロロロ」




「うわぁ!本当に吐いた!」




 会長がエスカレーターへ一歩足を踏み入れると、美しい顔して優雅な微笑でゲロをぶちかました。


 汚物を垂れ流しながら、上へと運ばれていく様子はあまりにシュールでカリスマ性のカケラも感じられなかった。その後会長のゲロを処理して帰った。なんなんだあの人は……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る