第2話 配属先は?

「おい、避けろって」「俺じゃねぇわ」「どこになるのかなぁ……」「ちくわ大明神」「踏むな踏むな」「ちょっと押さないでよ!」「ガチャ爆死した」




 怒りの声、緊張の声、不安の声、誰だ今の、悲劇の声。祭りでもやってんのかというくらい騒がしかった。それもそのはず。入学式から2日、バイト配属先の発表日だ。体育館で一斉に発表されるため、全校生徒がすし詰め状態で体育館に集まっていた。


 そんなに早く知りたいか?俺は別に後からでいいや。端っこで大人しくしていよう。




 生徒会長がともう一人、恐らく副会長、がくるくる巻かれた大きな紙を持って壇上に上がった。発表のようだ。




「みなさま、お待たせいたしました。これより全校生徒バイト配属先の発表を行います。どこに配属されてもそれぞれ自分のできることを考えて、全力で取り組んでいきましょう。それでは、どうぞ」




 ありがちな前置きもあの会長が言うと映える。そしてすぐに紙が広げられ、全校生徒バイト配属先が発表された。




「ラーメン屋だ!」「おぉ、いいなぁ」「ねぇ、私の見つからないんだけど!」「順番に見ろって!」「ちくわ屋さんってなんだ……?」「家庭教師ってムズいのになったなぁ」「うおお、あの子と一緒じゃん!」「マジか?くっそー、俺も一緒にやりたかった」




 配属先そのものに喜ぶ者、可愛い子やイケメンと一緒の配属先になって喜ぶ者、謎の配属先にされた者、荷が重そうな配属先になってしまった者。バイトの種類は多岐にわたるようで、へーこんなバイトもあるんだという声も少なくなかった。




「くんくん」




「うわぁ!なに!」




「おはよう、そーくん。昨日1時にお風呂入ったでしょ?ちゃんと入ったんだねぇ、偉いねぇ」




 急に後ろから臭いを嗅ぎにこないで欲しい。しかもなんで風呂の時間をピタリで当てられるんだ。


 背後で急に匂いを嗅ぎに来たこのくりっとした目の変態は幼馴染の春明白雲だ。肩までの短い髪をポニーテールにしていた。本人曰く半径100m以内なら臭いを辿って俺を発見できるらしい。あとどうでもいいが昨日俺の風呂の残り湯で味噌汁を作ろうとしていた。




「全く、何しに来たんだよ」




「えー、いけずー。結婚の約束もしたのに〜、でもそんなそーくんも素敵だよっ!」




「幼稚園の時の話だろ……」




 ウインクしながら言ってきた素敵云々はスルーする。結婚ってのは昔の話だ。幼いとそういうことをつい意味もわからずにその場の思いつきで言ってしまうなんてよくあることだろう。恥ずかしいのでとっとと忘れて欲しい。




「あ、それでね、私そーくんと同じ場所になったよ」




「マジ?どこ?」




「カフェだよ。Sayっていうカフェ。まだオープンしてないんだって」




「ってことはオープニングスタッフってことか……」




 そういうのってちゃんとやらなきゃいけない気がする。オープニングスタッフは店の印象を決める大事な仕事だ。こういうのって緊張するんだよなぁ。




「あぁ、それでねそれでね」




 丸い目を細めニカッといたずらっぽく笑ってとんでもないことを伝えてきた。




「私たち、会長さんとバイト先一緒だよ」




「まじ……」

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