第2話 50歳になった

正直驚いている。

自分が50年ものよわいを重ねてきたことを、とまどいもありうろたえてもいる。

思えば、漠然とこのまま何も変化がなければ、30歳で死んでもいいと考え、ならば誰もやりたがらないキツイ仕事をしてやろうと、自分の自殺願望が葬儀の仕事というある意味死の欲求を満たすための装置を呼び込んだのかもしれない。

考えもしなかった結婚もした。子どもができた。家族ができた。今、初老といってもいい歳になり、今まで散々見てきた死者の列に加わる日もそう遠くないのかもしれないと考えるようになった。

何のために生きてきたのだろうか。今考えるその意味は重い。これまで膨大な時間を費やし、俺という一人の人間を形作ったこの時間は一体何のためにあった? 父には恨みしかなかったが、母には感謝しかない。しかし俺は歪んでしまった。自分の中に何か大事な決定的なものが足りない。それは知性なのか感情なのか、それがごっちゃになったものなのか、とにかく俺には何かが足りない。今更それを埋めることができるのか、埋めたところでどうなるのか、どうでもいいことのようにも思え、またそれ故に欠陥品たる今の俺の所以でもある。感情の欠落は知性の発育を阻んだ。目をそらすことで逃避癖がついた。俺が目にしてきた死者たちは何かを成し遂げてきたのだろうか? 俺がその列に加わることになった時、見知らぬ葬儀社の誰かは俺の顔に何かを見、読み取るだろうか。いや読み取るものなど何もない。人は共有する記憶でつながり、それがなければ死者などただのものに過ぎない。

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思いつくまま 外崎 柊 @maoshu07

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