第9話
「や、やるな息子よ……」
いやぁ、あっけなかった。
今俺の眼前には、腹を手で抑えうずくまっている父のなかなかに情けない姿があった。顔つき自体はさもまだまだいけるかのような余裕を見せている。どう見ても強がっているだけだが。
別に大したことをしたわけじゃない。父の炎魔法を正面から突破して驚いてるところ鳩尾に一発かましてやっただけだ。あまりにも綺麗に入ったもんだから逆に拍子抜けしてしまった。
ちなみに俺らは今場所を移して蔵の地下にある隠し部屋にいる。闘技場のような造りをしていて、案外広い。父曰く防音防震防火措置がとられていて、こんな夜中に炎魔法をどっかんどっかんやっても屋敷で寝ている連中には気づかれないんだとか。
「えっと、私の勝ちということでよろしいでしょうか……?」
拳を構えたまま訪ねる。立ち上がろうとするものなら何時でも迎撃できるポジションだ。
「まだだ!まだ父は負けておらん!!!」
膝に手をついて立ち上がろうとするので、俺は握っていた拳を開いて平手打ちを頬にかます。大した威力ではないだろうが、息子に平手打ちされたという精神的ショックは相当なものだろう。
というかむしろそれが俺の狙いだ。どうせグーで殴っても大した物理ダメージにはならないんだから、いっそパーで殴って精神的屈辱を狙ったほうがいい。
父には申し訳ないが、俺も本気だから手加減することは出来ない。どんな手を使ってでもこの勝負には勝つ所存だ。
ちなみにルールは至ってシンプル、相手が降参するまで戦い続けるというもの。父の話によると、セントラルク家に代々伝わる方式なんだとか。
「ぬぬぬぬッ!!!」
父はぶたれた頬をさすりながら俺を睨み付ける。どうやら相当堪えたんだろうな。
「カルラッ!!!なぜ魔法が効かない!!!おまえの体に何が起きている!!!」
え~、それ聞いちゃう?すんごいデリケートな事情だから答えたくないんだが……
もうこうなりゃヤケだ、言えるところまで言ってしまおう。
「あー、そのー……あっそうそう無能、……じゃなくてアルルカ様の加護を受けたんです、おかげで魔法は効きません」
「ア、アルルカ様の加護だと……?」
「そうですそうです、実は私の使命というのはアルルカ様から受けたものでして」
ちなみに今度こそ俺は一切嘘はついていない、俺自身無能の言うことを聞いた覚えはないが、客観的に見ればそういう理解が妥当だろう。
「なるほど、さすが〈精霊使い〉その名に恥じぬ職業よ」
うーん?それ関係あるのか?疑問になるところではあるが、肯定も出来なければ否定もできない。〈精霊使い〉、ますます気になる職業だ。父はもしかしたら〈精霊使い〉についてなにか知っているのかもしれない。ならばこの勝負必ず勝って情報を聞き出さなければ。
「お父様、もうやめにしませんか?あまり言いたくはありませんがアルルカ様の御神託に逆らうなど褒められたことではないと思います」
俺は敢えて挑発してみせた。人はNOと言われれば反発したくなるものだからな、魔法が効かないからと途中で諦められては困る。
「わかった……おまえの話を信じよう……しかし!セントラルクの掟に倣い、決闘で私を倒すというのなら魔法で止めをささねばならん!カルラ!おまえは私の言いつけを破って密かに魔法の練習をしていたな?今こそその成果を見せてみろ!!!」
よしよし上手くのってくれた。
しかしなんかだんだん父がただの親バカに見えてきた、要は息子の成長を肌で感じたいだけじゃないのか?
だが俺は魔法を使うつもりはない。ファイアーボールごときで敗けを認めさせても、それじゃあただの八百長だ。形式の勝利にすぎない。どうせなら、真正面から勝ってみせたい。
俺は考えを整理させたあとに父に突撃した。どかんと体全体でぶつかるのを父が全力で受け止める。
「なぜだ、なぜ魔法を使わぬ……!」
取っ組み合った状態で父が質問を投げ掛けてきた。その発言から魔法に相当なこだわりがあることが伺いしれる。
「……私はセントラルクの人間ですが、〈精霊使い〉の職を授かりました。
今まで魔法に憧れはしましたが、私に魔法の素養がないことは私自身がよくわかっている、今必要なのは魔法との、過去との決別なのです。
憧れているだけの弱い自分じゃこれから先使命を果たすことなんて出来るわけがない。私は、己の運命にけりをつけるべく前に進む!
だから、この戦いで魔法を使うわけにはいかない、私は、私の力で未来を切り開きあなたを認めさせてみせる!!!」
「!」
このとき、俺は間違いなく熱くなっていた。そう、今口にした言葉は全て本当のこと。心から想う本音だ。
ウォォォォォォ、とうなり声を挙げると火事場の馬鹿力とでも言うようなパワーが湧いてきて父を押し出すことに成功する。
とたんに予想していない力で押し出されたものだから、父はバランスを崩して転倒してしまった。俺はその隙を見逃さず、素早い動きで父の体に跨がりマウントをとった。
「お父様!御覚悟を!」
「こぉい!カルラァ!」
そう言うと同時に強烈な平手打ちを頬に叩き込む。その攻撃は一回では済まず、ぶつ度に大きな音が部屋中に響いた。
「認めてくれるまで何回でもぶちますよ!!!私は本気だ!!!」
きっと本来のセントラルクの決闘はこんな泥臭いものじゃないだろう。父をぶつという行為に、自分の中にある僅かばかりの良心が痛む。
「どうした!おまえの覚悟はそんなものか!?」
「まだまだァ!!!」
そうして数分叩き続けた結果、手のひらを俺の前に突き出して制止の合図を見せたかと思えば、ついに父が音を上げた。
「私の敗けだ……おまえの想いしかと受け取った。カルラ、良いビンタを持っているな……」
どうやら平手打ちに成長を感じ取ってくれたらしい。俺にはよくわからないが、本人が満足してくれているならなによりだ。
「認めてくれますね……?私がこの家を出ることを……」
「ああ、母さんには私から説明する、きっとわかってくれるさ」
「ありがとうございます、そして申し訳御座いませんでした、決闘とは言えこんなにぶってしまって……」
「気にするな、これは男の戦い、手加減は無用だ、それに本来の決闘では大火傷することもめずらしくない、これくらいどうということはないさ」
父の穏やかな目に少し安心感を覚える。まあよくよく考えればその通りだ。魔法使い同士の決闘が打撲痕で済むはずがない。
「それじゃあ屋敷へ戻ろう、夜も遅いし今日は床についたほうがいい」
「わかりました、ですがお父様、勝手を言って申し訳ないのですが、私は明日の早朝にはここを出るつもりです、出来れば今日のうちに旅の支度を済ませたいのですが……」
「なんと、それはまた急な、まあ急がなければいけない事情があるのだろう、しかしあてはあるのか?そもそもここを出てなにをするつもりなんだ?」
「あては今のところありません、しかし私は強くなりたいのです、使命を果たせるだけの力が欲しい、だからここを出れば修行の旅をすることになります」
「そうか……ならば、南西に向かうといい、ここから千里程の遠く離れたところにバクハカの森という場所がある、そこには古くから住まう〈精霊使い〉の仙人がいると聞く、その方に教えを請うてはどうだろう」
いい情報を聞いた。強くなる上で職業の存在は無駄には出来ないし、ここは行かない手はない。これだけでも父を正面から説得した甲斐があるもんだ。
「有意義な情報を教えてくださってありがとうございます、さっそく明日向かいます」
「ああ、長旅になることだから、今日はしっかり休息をとりなさい、旅の準備は私が手配しておく」
「数々のご厚意ありがたく存じます……」
心からの敬意を込めて感謝の意を述べたあと、俺は屋敷に戻り自分のベッドに入った。今日一日いろんな事がありすぎてさすがにもうくたくただ。
もしかしたらこれがこの屋敷で過ごす最後の夜かもしれない。そう思うと、冬に眠るときには悩まされていた軋む窓の音と忍び込む冷気すらも名残惜しく感じ、俺は噛み締めるように毛布の暖かみに埋もれ眠りに落ちた。
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