第6話

しかしまー大変な状況になってしまったな、まさかエミリアが賊に拐われてしまうとは。

 

 リインのカス野郎は多分屋敷に戻ったんだろうし、もうじき大人達が救援に向かうだろう。わざわざ俺が助けにいく必要もないよな……。

 

 ……いや、腕試しをするのにちょうどいいか、転生した俺の実力がどんなものか知るいい機会だ。

 

 そう考えて、俺はエミリアを助けに行くことにしたが、その方法がまだ曖昧なことに気がつく。

 

 

 それにしてもヤツらはどこにいった?なんの手掛かりもないんじゃ追いかけようがないな。今は武器も持ってないし、情報収集も兼ねて一度家に戻るか。

 

 

 俺はついさっき刺されたことなど感じさせない、軽い足取りで家に向かった。

 

 

 しかしこの急激な回復、恐らくはアルルカによるものだろう。あらかじめ、マチューの記憶が甦るタイミングを俺の命に危機が訪れたときに設定して、復活すると同時に回復魔法が作動するように仕込んでおいたんたというところか。理由はわからない、まぁあいつの言動から察するにこれが一番合理的なやり方だったのだろう。

 

 にしても、これはまったくややこしい状況だ。今の俺はカルラなのかマチューなのか、イマイチ馴染んでいる感覚がしない。言うならば、マチューの記憶が俺の人格に影響を及ぼしているのか?

 

 まったく気持ち悪いったらありゃしない。

 

 まあ、あの無能は倫理観とかそういうものに疎そうだから、今更文句を言う気にもならないんだがな。とりあえず今は急ぐとしよう。

 

 メタルスライムの素早さを活かして俺は街道を走り抜ける。途中何人かにすれ違い、俺を見ては血の色をした傷口を見て驚いていたが気にはしなかった。

 

 そうこうして屋敷にたどり着くと、中が何やら騒がしかった。そっと窓から除いてみると、俺の父シャーディーが慌てふためいている。

 

 「なぜこんなことに……、おい!憲兵はまだ来ないのか!こうなったら私が直接……」

 

 さすがの貴族の長でも、このような事態に陥っては平然を保つのは難しいということか、まるで周りに当たり散らすように喚いている。

 

 「だめです!貴方はセントラルク家の当主!もしものことがあったらどうするんです!?」

 

 普段は父に肯定的な母が、このときばかりは毅然とした態度で反対していた。無論母が言うことはもっともだ。


 「なら、せめてカルラのところへ!あの子は今も冷たい雪に凍えているだろう!」

 

 「だめです!憲兵団の方が言うにはこの状況を利用して家を狙ってくるかもしれないのです!貴方の務めは憲兵がここに来るまでこの屋敷を守ることでしょう!勝手な行動は事態の悪化を招きます!」

 

 やれやれ、まったく見ていられないな、あの様子じゃあ街の憲兵がここに来るのももう少し時間がかかりそうなんだろうな。そうなるとエミリアの身の保障はできないだろう。ここはやはり俺が動くしかなさそうだ。

 

 「とりあえず何か得物が欲しいな……」

 

 俺は屋敷の離れにある蔵に向かった。あそこなら何かあるかもしれない。

 

 幸い蔵に鍵はかかっていなかった。

 元々開けていたのか、もしかしたら、武器を取り出そうと父が開けたのかもしれない。

 

 ここに忍び込むのは幼い頃以来だが、中の様子はまるで変わっていなかった。蔵に入るなり俺の鼻を出迎えたのは、古い木や土の匂いと薬品のようなツンとする香り。

 

 中は工房のような作りで、俺よりも大きい釜や壺、ずらっと並んだ木棚には得体のしれない液体がつめられた瓶がたくさん並んで置かれていた。

 

 こうやって眺めていると、心の内から懐かしい感情が込み上げてくるあたり、やっぱり俺はカルラなんだということを実感する。

 

 おっと、そんなことをしている場合じゃない。武器を探さなければ。

 

 しかし、魔導師の家の蔵を漁ったところで、まともな武器が出てくるかどうか……。

 

 あったとしても杖や箒、水晶とかじゃないか?

 

 そんな予想をしていた反面、意外と目当てのものはすぐに見つかった。

 

 べつに真剣に探し始めたわけじゃない。どういうわけか、その剣は目立つように蔵の奥に飾られていたのだ。

 

 「レイピアか……、うーむ、少し重いような気もするが時間がない、とりあえずはこれでいいだろう」

 

 俺は足の先から首くらいはあるその成人男性用の剣を手にとり、ロープや薬草、あとはナイフ、他に幾つか役立ちそうなものを蔵に落ちてあった布袋につめてそろっと蔵を出た。

 

 誰にも見つからないように、極力足音を殺しては辺りを警戒して出たつもりだったが、運の悪いことにすぐに誰かに見つかってしまったようだ。

 

 

 「だ、誰だ!?」

 

 声を張るほうへ目を向けると、そこにいたのはリインだった。

 

 さすがにカルラを知っている人間にマチューの口調だと怪しまれてしまうから、ここはカルラっぽく喋ってみるか。

 

 

 「なんだ、驚かせないでよ」

 

 「なんだ……って、てめぇ生きてたのか!?賊に刺されたはずじゃあ!?」

 

 

 あー、めんどくさいことになったな。さすがに全部教えるわけにもいかねえし、適当に誤魔化すか。

 

 「いやぁ、僕も危ういと思ったんだけどね、通りすがりの善人がポーションをわけてくれてさ」

 

 「んな都合のいいことあるわけ……!」

 

 さすがに適当すぎたか、一秒でバレてしまった。

 

 

 まあ、そんなことは今はどうでもいいんだ。俺はリインが言い切るのを遮るように賊の情報をリインに問うた。

 

 「なあリイン、エミリアを拐ったあの三人組、今どこにいるかわかるかい?」

 

 「ああ?今さっききた憲兵とお父様の通信を盗み聞きしたら、ヤツらのアジトが裏山の廃教会だとかなんとか、ってそれを聞いてどうするつもりだ」

 

 俺は弟の質問に答えはしなかった。ただ、リインが俺の左手に握られた剣を見て勝手に察したようだ。

 

 

 「てめえまさか……」

 

 「まぁ、そういうことさ、お父様には黙っていてもらえると嬉しいな」

 

 

 俺はそう言って後ろに振り向き、リインのもとを走り去った。

 

 多分、急に足が早くなったもんだから驚いただろうな。

 

 

 裏山の廃教会といえば、ここから走って一時間程の場所にある。いや、今の俺のペースだと30分もかからないか?

 

 俺はまるで異国の暗殺者のようにシュパパパパパと駆けていった。冬の夜風を切って走る感覚が妙に心地良い。

 

 ああそうだ、走っている間にステータスを確認してしまおう。はてさてどうなっていることやら。

 

 

 懐からプレートを取り出して魔力をこめる。するとこのような表示が写しだされた。

 

  ==========================

カルラ・セントラルク(マチュー)


レベル:4

 

種族:エルフ 


職業:精霊使い

 

HP:80/80

 

MP:100/100 

 

筋力:65


耐久:7067(+7000)


魔力:95


敏捷:7078(+7000)

 

固有スキル:〈前世の記憶〉〈"耐久"ボーナス〉〈"敏捷"ボーナス〉〈魔法使用制限〉〈攻撃魔法無効〉〈討伐者経験値ボーナス〉

 

==========================

 

 「!?」

 

 俺はそれを見て少し吹いてしまった。

 

 なんだこのステータスは、ちぐはぐにも程があるだろ。恐らくは俺がアルルカに命じた結果なのだろうが、あの馬鹿は加減というものを知らないのか。

 

 固有スキルはどうだ?

 

 ……ほうほう、ステータス補正スキルの匙加減を除けば概ね良好なんじゃないか?恐らくこの二つのスキルはマチューの記憶を取り戻したときに得たんだろう。昨日まで俺の足はこんなに早くなかったしな。

 

 しかし〈魔法使用制限〉か……、ひょっとしてこれのせいで魔法が上手く使えなかったのか?アルルカの無能はスキルを取得するのはランダム順とは言っていたが、まさかデメリットスキルを先に寄越すとはな、おかげで今まで要らん苦労をしてしまった。

 

 それと、この〈討伐者経験値ボーナス〉、まさかとは思うがリインはこれで大きくレベルが上がったのか……?っていやいや待て、この世界は階段から落ちて気絶させたら倒した扱いになるのか、とんでもないな。

 

 ひとしきり確認したところで俺はプレートを懐にしまい、時間が推しているのでさらに加速した。

 

 

 途中、廃教会に向かうのであろう馬を走らせる憲兵の集団を見かけたが、俺はそいつらを易々と追い越してしまった。どうやら敏捷値7078は伊達じゃないようだ。しかしあんなペースじゃあ色々間に合わねえぜ?魔法とかでもっと早く走れないのかねぇ。

 

 「ま、俺は20分もありゃ着くな」

 

 

 

  半分冗談のつもりで言ってみたが、実際に目的地にたどり着くと、体感ではあるが実際そのくらいの時間しかかからなかった。

 

 

 俺は今、ヤツらが潜伏しているのであろう教会を覗き込みながら、近くの茂みに身を隠している。

 

 いかにも賊の仲間っぽい風貌のやつが見張りをしているあたり、情報に誤りはなさそうだ。

 

 俺は考えた。実際の経過時間にしてみれば大した時間ではないだろうが、頭の中で、自分がこれから行うこと、それが何を意味するのか、本当にそれでいいのか、何十何百と思考を巡らせた。

 

 でも、やはり今後のことを考慮すると、今ここでやってしまわないと進めない。そう思って俺は決断した。多分人生で一番大きな決断だったと思う。

 

 「ハッ、ハッ、ハァッ……」

 

 数分後、俺の目の前に倒れていたのはあの見張りの男。俺の手に握られていたのは蔵から持ち出してきたロープ。

 

 手の内にはロープの縄目の痕が残っており、同様の痕が男の首にも残っていた。

 

 「……」

 

 いいんだ。

 これで、いいんだ。

 

 相手は悪人だ。

 エミリアが危険なんだ。

 

 こんなことで構っていたら、俺は何も出来なくなるぞ。

 

 自分にそう言い聞かせて、俺は今にも泣きそうになる弱い自分を心の底に封じ込めた。

 

 「ぐっ……」

 

 けど、まるで覚悟が足りないとでも言うのだろうか。

 息をしなくなったと思っていた男は目を覚まそうとしていた。

 

 それで俺は想いを絶ち切るために、今までの自分と決別するために、目覚めかけていた男の心臓に剣を突き立てた。

 

 その時、なんだかまるで自分の腕じゃないような感覚がしたが、それはきっとただの願望だ。正真正銘俺がこの手で刺したのだ。

 

 「大丈夫、行こう」

 

 それで平然を装って、建物の中へ入った。

 

 これから起きるのは救出劇?

 

 いや、そんないいもんじゃないだろう。この時点で俺はもうただの人殺しだ。ヒーローを気取る資格もないしするつもりもない。

 

 でもちょっとだけかっこつけたいから……

 


 仮面舞踏会。

 


 とでも称しておこうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る