第86話 潜入がバレた件について
俺はそこから覗き込むようにして会場を見る。
にしてもこの人数……百人以上は確実だよな。全員が『持ち得る者』なのか?
日本全国から選りすぐってきたっていうんだったら、ここにいる連中すべては実力者なのだろう。よくもまあ一ノ鍵織音の招待を受けたもんだ。てかどうやってこれだけの人材に声をかけたっていうんだ?
ただヒオナさんに聞いたところ、このパーティーがただの親睦会ではないのは事実らしい。
一ノ鍵織音のお披露目の他に、ここに集まってきた者たちによる仲間の争奪戦を繰り広げることが目的だという。招待状にもそれらしいニュアンスで書かれていたらしい。
仲間の争奪戦。つまりは今後、生き抜いていくために優秀な『持ち得る者』の確保が行われるのだ。
今までは地元でそれなりに過ごしてきた者たちだが、最近では『持ち得る者』狩りなどといった事件が各地で多発している。
ここに集まっている連中だって、いつそいつらに狙われるか分からない。
『BS軍』は強い。故にそいつらに負けないためにも、強い仲間、そして有益な情報が欲しいのだ。
だからこそ怪しいと思いつつも、この機を利用して仲間を増やそうと画策する者たちがここに集まってきているのだろう。
そして当然一ノ鍵織音もまた、他の連中と同じように手駒を増やすために、このイベントを催したはず。
その証拠に、今もいろいろな人たちと談笑しつつ、周りの連中を物色するような目で見ている。
この中で、何も考えずに呑気に食事をしてるのは……アイツくらいなもんだな。
「はふぅ~! このピラフ、と~ってもおいひいでふぅ~!」
四奈川だけが、ただただ食事に夢中で喜々としているだけ。アイツはいつも幸せそうだなぁ……いやマジで。
よく見てみれば、真剣な顔で情報交換している者や、実際に勧誘している奴らなんかもいる。
なるほどなぁ。ヒオナさんが参加した理由もコレだったかぁ。
元々一ノ鍵織音と同じく、優秀な手駒を増やしたいと考えていた彼女だ。考えればこの状況は、スカウトするのに一番適している場だ。
ただヒオナさんに群がり始めた輩も確かにいるんだが、全員が男でその目つきが何だかやらしい。
俺もさっきあんな顔してたのか……?
鼻の下を伸ばして、明らかな下心を見せつけたような表情だ。こうして第三者的に見ると、あまりにも情けない。
しかしヒオナさんは、一切嫌な顔を見せずに流れるように会話をしている。
凄まじいコミュニケーション能力だ。
俺には絶対無理だな。知らない誰かとあんなふうに話すなんて、胃が爆発しそうになるし。
コミュ障舐めんなっ、て言いたい。
そうこうしているうちに、また一ノ鍵のガキが舞台へと上がっていく。
今度は何を話そうというのだろうか……。
「ご歓談の最中、ごめんなさい。たった今からある余興を行うのだけれど、良かったらお付き合いを願うわ」
マイクを通して響くガキの声に、皆もまた注目する。
にしても余興って何だ……?
「実は――――この場に招待していない輩が潜入しているの」
なっ……にぃぃぃっ!?
俺は思わずヒオナさんの方を見るが、彼女もギョッとした様子でチラリとテラスの方へ視線を向けていた。
ヒオナさんがわざわざ俺のことを一ノ鍵に教えるとは思わなかったが、あの顔から察するに彼女も予想外の出来事らしい。
俺は覗き込むのを止めて、すかさず《ステルス》を使いヒーロを腕に抱える。
ヒオナさんに関係なかったら、どうして俺の存在がバレたんだ?
とにかくバレたなら今すぐここかだ離脱を図った方が身のためだ。
すぐにヒオナさんの車に乗り込み隠れた方が良いか? いや、ヒオナさん自身が疑われていたとしたらどうだ?
ただそれでもヒオナさんの車から出てくるところは見られていないはず。何せ《ステルス》を使っていたのだから。
それに俺の能力だって一ノ鍵は知らないはず……!
不安を覚えつつ、様々な考察をするが結局分からない、が事実。
分かっていることは、一刻も早くこの場から逃げるべきだということ。
しかし一ノ鍵の次の言動はさらに戸惑いを覚えさせるものだった。
「この中に二人――招かざる客が混じっているわ」
ふ、二人……? どういうことだ? 俺だけ……じゃねえのか?
いや、そもそも舞台上で話している一ノ鍵の意識は、パーティ会場だけに集中している。
仮に俺の存在がバレているなら、少しはテラスの方へ意識が向かないか?
それが不思議で、俺は思わず顔を出して会場を覗き込んだ。
「この場にいる者たちには、事前に招待状を送ったはず。そして入口で招待状の確認をさせてもらった。確かにここにいる全員が招待状を持って現れた」
……? だったら偽物なんかいないんじゃ……。
「ただ二人だけ、明らかに偽造したものを持ち運んだ者がいたわ。それは――」
すると突如として真っ暗闇になったかと思うと、会場にいた二人の人物にスポットライトが照らされたのである。
「――あなたたちよ」
え? え? ええ? 俺じゃなかった!? 良かったぁぁぁぁ!
マジでホッとした。きっとヒオナさんも冷や汗ビッシリかいてただろうな。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 何を根拠にそんなことを! こっちはちゃんとした招待状を持ってる! ここにほら!」
「私もよっ!」
そう言いながら二人の男女が、懐から招待状を取り出して見せた。
するとゆっくり明転して暗闇が払拭される。
「フフフ、ええ、確かに私が送った招待状に似ているわね」
「だから本物だって言ってるだろっ!」
「いいえ。何故なら私が送った招待状にはある細工が施してあるもの」
「さ、細工……!?」
そこで初めて男女が少し狼狽し始めた。
「そうよ。……ヒオナ」
「ん? 何かしら?」
「あなたの招待状を見せてもらえないかしら?」
ヒオナさんに注目が行く中、彼女は「いいわよ」と同じような招待状を掲げた。
「……初秋」
傍に控えていた北常が、ペンライトのようなものを持ってヒオナさんに近づく。そしてヒオナさんの招待状を手に取り、やはりペンライトだったのか、招待状にライトを当てた。
するとライトが当てられた部分が青く変色したのである。
その光景を見て絶句する男女二人組。
「このように特殊なライトを当てると、招待状が青く輝くようになっているのよ。同じく、入口にいたガードマンがかけているサングラスを通して招待状を見ると、これもまた青く輝くように見えるの。けれど、あなたたち二人が所持していた招待状は……変色しなかった。この理由――もうさすがに理解できるわよね?」
「「くっ!」」
直後、男女二人組の表情が鋭いものへと一変したと思ったら、同時にこっち――テラスの方へ走ってきた。
どうやらここから逃げるつもりのようだが――。
「――〝止まれ〟」
一ノ鍵の声音とともに、二人組が金縛りにあったかのようにピタリと止まった。
相変わらずチートなスキルだこと。
「ぐっ! 動けないっ!」
「ちょっとアンタ! 何とかしなさいよね!」
「うっせ、このクソ女! てめえが招待状を偽造なんかしようって言ったからこうなってんだろうがっ!」
う~ん……どうやら二人はあまり親密なご関係じゃない様子。
一体この二人は何者なのだろうか……?
とりあえず《鑑定》で確認したところ、レベルは二人とも26とそこそこ高い。ジョブは、男が『火炎術師』に女が『偽造師』。
なるほど、恐らくは女の能力で招待状を偽造したらしい。だけどあの発光現象が起きなかったところを見ると、偽造できたとしても完全な見た目のみなのかもしれない。
俺は不意にヒオナさんを見ると、彼女はまるで蛇が獲物を見つけたかのように舌舐めずりをしながら、二人の男女を見ていた。
ヒオナさん……?
思わずゾクッとするような笑みを見せる彼女に目を奪われていると、
「うおらぁぁぁぁぁぁぁっ!」
男が突然咆哮を上げ、自身の身体から炎を噴出させたのである。
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